俺だけレベルアップする異世界で、悲劇の悪役がすべてを救うまで～クソゲーと言われた世界のシナリオをハッピーエンドへと導け！～

第123話 ゴリ押しは正義

「貴様……ッ！」

　自慢の攻撃がいとも簡単に防がれて悪魔は困惑する。

　片や俺は、天剣の強さに内心で驚いていた。

　——結構いいな、このスキル。

　習得してから試す機会はほとんどなかったが、魔力の消費に比べて威力が高い。

　かなり効率のいいスキルだ。

　床を蹴って悪魔との距離をさらに詰める。

「舐めるなよ！」

　咄嗟に悪魔は俺に謎の攻撃を行った。

　不可視の攻撃。

　先ほど戦った騎士と同じで、頭上から魔力の塊が落ちてくる。

　タイミング的に避けられなかった。

　剣を盾にしながらそれを受ける。

　重力による一撃だ。

　凄まじい加重が俺の体に加わる。

「どうだ、これで動けまい！」

　鋭い爪を武器のように悪魔は振るう。

　俺の心臓目掛けて攻撃を繰り出した。

「————悪魔の手」

「ぐうぅっ!?」

　相手が不可視の攻撃を使うなら、俺もまた不可視の攻撃を使う。

　魔力によって作られた手が、悪魔の体を拘束した。

　相手も動けない。

「な、なんだ……これは……!?」

「なんだと思う？」

　重力に耐えながら剣に魔力を込める。

　————天剣。

　鋭い一撃が悪魔を襲った。

　発動していた悪魔の手ごと本物の悪魔を斬り裂く。

　相手は反応が遅れて俺の攻撃を避けられなかった。

　わずかに皮膚が裂けてダメージを負う。

「ぐっ！　この程度の傷……——!?」

　悪魔が目を見開く。

　その視線の先は……自分の体だった。

　——正解。

「どうだ？　苦しいだろ、少しは。いま、お前を呪ったからな」

　スキル【呪い】。

　これまた手に入れてそんなに日が経ってないスキルだ。

　体調不良やスキルの封印などなど。様々なデメリットが悪魔の動きを鈍らせる。

「呪い……だと？　貴様……一体いくつのスキルを持っている!?」

「さあね。人のスキルを詮索するのはマナー違反じゃないか？」

　頭上から感じる加重が弱まった。

　恐らく呪いの影響でスキルの効果が弱体、ないし制御を失ったのだろう。

　攻撃を喰らいながらもまともに動けるようになる。

　動けるようになったら、再び剣を構えて悪魔を攻撃する。

　悪魔は俺の斬撃をかわした。

　先ほどより動きが悪くなっている。確実に呪いの影響が出ていた。

「ははっ。どうした？　動きが遅くなってるぞ」

　すぐに悪魔を追いかける。

　今の悪魔では、俺の動きにはついてこれない。

　逆を言えば、俺は絶対に悪魔に追いつける。

「ぐああああ!?」

　数回におよぶ斬撃が命中。

　スキルによる攻撃ではないため、ハッキリとしたダメージこそ与えられないが、呪いが悪魔の中に蓄積されていった。

　おまけに地面をバウンドして吹っ飛び、そのまま奥にある壁に当たる。

「これはまた……一方的な戦いになってきましたね」

　仮面を付けた男が、悪魔の劣勢にやや神妙な声を出す。

　そのそばには、エリカと勇者イルゼがいた。

「あなたは動かないでね。あの男が負けたら、あなたには訊かなくちゃいけないことが山のようにあるの」

「許されるとは思わないことだね」

　エリカとイルゼに刃を突きつけられる。

　俺が悪魔を圧倒してるから援護はいらないと考えたのだろう。

　俺としても、ソロで戦うほうが楽でいい。

　二人を無視して正面の悪魔を睨んだ。

　悪魔は瓦礫を退かして立ち上がる。

　その瞳には、未だ強い殺意と憎悪、闘争心が宿っていた。

「おーおー。まだそんな顔ができんのかよ」

　剣を構えて悪魔のほうへ肉薄する。

　悪魔は両手に黒い球体を浮かべると、それを薄いディスク状の武器に変えた。

　見た感じ斬れ味は高そうだ。

　お互いの刃がぶつかり合う。

　ただのエネルギーの塊にしては、恐ろしく甲高い音が鳴った。

　恐らく俺の予想通り斬れ味の高いブレードだ。

　何度も刃を交差させ、高速移動を繰り返す。

「————悪魔の手」

「ッ!?　またこの不可視の拘束技か……！　そう何度もまともに喰らうと思うなよ！」

　魔力による拘束技を喰らう悪魔。

　しかし、浮かべた球体が自動で動き出して魔力を斬り裂いた。

「ふーん……なるほどね。そのための攻撃か」

　あれ、勝手に動いたり動かしたりできるのかな？

　厄介な技だが、対処法がないわけでもない。

　またゴリ押しで通るか……。

　覚悟を決めて一気に悪魔との距離を潰す。

　当然、悪魔はディスク状の黒いブレードで斬りかかる。

　それを最小限の動きでかわしながら、剣に魔力を込めた。

　今度はさらに多く、悪魔を殺せるくらいの魔力を込める。

「この反応……またあの攻撃か！　吹き飛べ人間!!」

　魔力の流れを悪魔は感知できる。

　ディスクを球体に戻し、衝撃による攻撃へ切り替えた。

　砲弾のような一撃が炸裂する。

　爆発が起きて、すべてを薙ぎ払った。

　しかし、

「————硬化」

　俺は耐えた。

　足に思い切り力を込めて、防御系のスキルを使って耐えた。

　呪いの影響で相手はまともに攻撃できない。

　十分に受け止め切れると踏んだが……クッッッッソいてぇ!!

　ちゃんと痛かったのでそのお返しを喰らわせる。

　ゼロ距離で隙だらけの相手に向かって剣を振った。

　俺の最高火力が、悪魔の体を斬り裂く——。