第122話 vs悪魔

「ね、ネファリアスくん?」


 急いで悪魔のものと思われる魔力を追ってきた俺は、ようやく戦っているイルゼたちのもとに到着した。


 お互いに動きを止めて、俺とアビゲイルのことを見ている。


「……おや? そちらにいるご令嬢はアビゲイル様では? どうしてこんな所に……」


 飄々とした態度の仮面の男が、じーっとアビゲイルを見たかと思えばそう言った。


 あの男はアビゲイルのことを知っているらしい。


「アビゲイル……? たしかその名前は……」


 戦闘をやめた悪魔らしき男が仮面の男に訊ねる。


「ノートリアス伯爵の娘さんですよ。聞いていたでしょう? 娘には手を出すなと」


「ああ、アイツの……それで? その伯爵令嬢とやらがなぜここにいる? 父親から聞いていないのか? この施設には近付くなと」


「ひっ!? く、黒い人間?」


 アビゲイルは悪魔に睨まれて体を震わせた。


 俺の背後に隠れてこっそり悪魔を見つめる。


「気をつけてください、アビゲイル様。あの男は悪魔。大昔、人類を滅ぼそうとした天敵です。まあ、モンスターみたいなものですね」


「ネファリアスくんは悪魔のこと知ってたんだ」


「ええ。本で少しだけ読みました」


 本当は前世の知識だが、それを言う必要はない。


 剣を抜いてアビゲイルと共に、エリカたちの下へと近付いた。


「いいタイミングで現れたわね、ネファリアス。助かったわ」


「ということは、苦戦してましたか?」


「まあね。あの悪魔、相当な使い手よ。体術もだけど魔力の量がヤバいわ」


「ですね……それを辿ってここまで来れるくらいには膨大でした。けど平気です。俺ならアイツに——勝てる」


 くすっと笑って、あえて断言してみせる。


 二人の瞳に希望が生まれた。


「本当に? 正直、私とイルゼの二人がかりでも結構キツいわよ」


「僕は余裕だよ! まだまだ全力じゃないし!」


「あはは。とりあえず戦ってみるんで、アビゲイル様をお願いします。彼女、この施設を調査しに来ちゃったんで」


「す、すみません……」


 自分が悪いことをしてると思ったのか、いたたまれなくなったアビゲイルがエリカたちに頭を下げる。


 最初の頃みたいな傲慢さというか、貴族然とした態度が消えたな。


 それだけあの悪魔が怖いってことだ。


「ああ……だからアビゲイル様と一緒だったのね。わかったわ。無茶しないでね、ネファリアス」


「善処します」


 俺はそう言ってアビゲイルをエリカたちに任せると、数歩前に歩みを進める。


「次の相手はお前か? 不思議なオーラのする奴だな」


「そういうお前はぶっさいくな面だな。整形してこいよ。顔色悪そうだぞ」


「ははっ。ずいぶんと大口を叩くじゃないか。それだけ自分の力に自信があるのか?」


「少なくともお前よりは強い自信がな」


 嘘だ。


 しかし、こういう時は気持ちで負けたらいけない。


 それに、エリカとイルゼが二人がかりでダメージを負わせているのなら、レベル的に俺が劣っているとは思えなかった。


 剣を構える。


「そうか……ならばお前のその自信、俺が自ら測ってやろう」


「偉そうに」


「お互い様だ!」


 悪魔が床を蹴る。


 高速移動みたいな速さで俺の背後に回った。


 速度自慢の奴は、相手の後ろに回りたくなるもんなのか?


 振り上げた拳を半身になって避ける。


「なにっ!?」


 完璧なタイミングで攻撃をかわされ、悪魔が動揺した。


 その隙を突く。


「おらっ!」


 剣撃を叩き込む。


 ギャインッッ!!


 生身の人間を斬ったとは思えぬ音が響く。


 だが、しっかりとダメージは入っていた。


 悪魔が衝撃を受けて後方へ吹き飛ぶ。


 エリカたちを超え、そのまま奥の壁に激突した。


「なんだ今の感触……まるで木剣で岩でも叩いたみたいな硬さだったな……」


「ね、ネファリアス……あなた……」


「ん? どうかしました、団長。こんなもんじゃないですよ、俺も——アイツも」


 すぐに二人の間を通り抜けて悪魔のほうへ向かう。


 悪魔も悪魔で、すぐに体勢を整えていた。


 腹部からわずかに血が流れている。


「チッ! 油断したな」


「実力差だよ実力差」


「舐めるな! 人間風情がああああ!」


 悪魔が闇色のエネルギーを放出する。


 それがひとつの大きな塊となって浮かんだ。


 前に【召喚権】で呼び出した悪魔も似たような能力を使っていたな……。


 あれが悪魔に共通する能力なのか?


「その人間に滅ぼされかけたくせに偉そうじゃん」


「黙れ。お前らごとき、数の有利さえなければ我々は負けん!」


 悪魔が巨大な黒色の球体を放つ。


 俺が戦った悪魔とは使い方が違うが、込められた魔力量的にあの攻撃を受けたらまずい。


 かと言って避けたら後ろのエリカたちに当たる。


 ——しょうがないな。


「————天剣」


 俺は剣に魔力を込めて黒い球体を斬り裂いた。


 衝撃で球体は半分になってから彼方へと飛んでいく。


 次いで、壁や天井に当たって炸裂した。


 背後で大きな音が響き渡る。

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