第96話 運命の人

 大都市ノートリアスの正門に到着した。


 俺たち騎士団は、全員が馬に乗ってやってきた。その馬を、ノートリアスの衛兵たちにお金を払って預ける。


 正直、きな臭い噂の絶えないノートリアスの衛兵に任せるのは、一抹の不安があったが、何匹もの馬を引き連れて街中を歩き回ることはできない。そもそもそれだけの馬を休めておく場所もなかった。


 苦渋の選択で馬を預けると、俺たちは適当に宿を探して街中に入る。


 きな臭い噂が飛び交うにしては、思いの他あっさりと街中に入れた。王都から騎士団が姿を見せれば、やましい連中は普通、時間稼ぎでもするかと思っていたのに。


「ほとんど素通りでしたね、団長」


 前を歩く団長に話しかける。


 彼女も俺と同じことを考えていたのか、神妙な面持ちで頷く。


「……そうね。怪訝な目は向けられたけど、特にチェックされるようなことはなかった。上に直接報告する素振りもなし……逆に怪しいと思うのは私だけ?」


「いえ、俺も同じ感想です。もしかすると、衛兵は犯罪には加担していない?」


 事前に仕入れた情報を整理した結果、俺たちは、衛兵もグルになって犯罪に手を染めているのではないか、という結論を出した。


 なぜなら、それだけノートリアスの内情は酷いと言わざるを得なかった。


 一定区画内で蔓延する麻薬。増加する売春。窃盗に喧嘩沙汰……普通なら衛兵は大忙しだ。


 加えて、衛兵が普通に働いているなら、犯罪者側の動きも抑制されるはず。それがほとんどないってことは、取り締まる側も怪しいってことになる。


 だが、犯罪の片棒を担いでいるなら、確実に邪魔者にしかならない俺たち騎士団を、快く迎えたりしない。


 ここに来て謎が深まった。


「街中の警備は他の担当なのかもね。まあ、犯罪が続いてるってことは、衛兵側も完全に白とは言えないけど」


「そうなると今度は街の問題かと。領主が裏で手を引いてるとしか思えません。でなきゃ今ごろ監獄は犯罪者で埋まってる」


「二人とも難しい話をしてるねぇ」


 唯一、ほとんど話しに混ざっていない勇者イルゼが、のんきな声を出してそう言った。


 エリカの額に青筋が浮かぶ。


「難しい話をしてるねぇ……じゃないわよ! 勇者様もしっかり考えなきゃダメじゃない!」


「うわぁっ!? え、エリカが怒った!? 助けてネファリアスくん!」


「自業自得ですね」


「バッサリ切り捨てられた!?」


 勇者イルゼの顔が絶望に染まる。


 だが、どう考えても話をまともに聞いていない勇者が悪い。


 ぷいっと俺は視線を逸らす。


「勇者様はなにかアイデアとか考えとかないんですか? 締め上げますよ?」


「笑顔でとんでもないこと言ってない? エリカ」


「いいからさっさと話しやがれください」


「口調がおかしいよ……やれやれ」


 歩きながら勇者イルゼが肩を竦める。


 あ、またエリカの額に青筋が。


「僕はその手の人の悪意には鈍感なんだ。平民でただの一般人だったからね。経験もないし」


 一拍置いてさらに勇者は続ける。


「……けど、そうだね。僕もネファリアスくんの意見に賛同かな? どう考えてもこの街の領主が怪しいよね。勇者の権限で会えたりする?」


「というか、表立った目的は視察なんだから、当然、この街の領主様にも会いに行くわよ。事前に伝えてたわよねぇ?」


 エリカの笑顔の圧が増す。


 勇者イルゼの額から滝のように汗が流れた。


「カッコイイこと言っておいて、人の話を忘れるなんて……どうしようもない勇者様だわ」


「ご、ごめんね、エリカ。初任務で緊張してたんだ」


「……ハァ。まあ、気持ちは解るからいいですよ。それより領主の件でしたね。明日、早朝に使いを出します。数日後には会えるかと」


「ならその時にでも揺さぶってみよう。今日のところは軽く調査かな?」


「ですね。やる気があるようで何よりです」


 勇者イルゼの調子も上がってきた。さっさと仕事を終わらせて観光したいのかな?


 理由はなんでもいいが、俺もやる気を出す。


 仕事の合間にアビゲイルを探さなきゃいけない。彼女を助けるついでに、なにかノートリアスの事件に関して有力な情報を手に入れられるかもしれない。


「では、まずは全員泊まれる宿を探して……」


「——あ! あなたは……」


 周りの喧騒を押しのけて、妙に鮮明な声が聞こえた。


 エリカの会話を無視してそちらに視線を向ける。


 すると斜め前方に、がいた。


 美しい金髪に紫色の瞳を輝かせる若き少女……否、悪役令嬢——アビゲイル・エルド・ノートリアスが。


 一瞬、幻覚かと思ってぱちぱち瞬きを行う。


 しかし、何度瞬きを行っても彼女は消えなかった。それどころか、俺のそばにやってくる。


 アビゲイルに気付いた勇者と団長が、こちらに視線を送った。


 続々と増える視線を無視して、彼女は笑顔で口を開く。


 飛び切りのスマイルと共に。


「見つけました! アビゲイルの運命の人!」




————————————

あとがき。


※反面教師教師からのお知らせ!

明日、一応近況ノートに書きますが、

作者の新作を出します!初日は2話投稿!

ジャンルは異世界ファンタジーとなります!

どうか見ていただけると嬉しいです!

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