第81話 奈落の悪夢

 王都近隣にあるダンジョン、〝陰の淵〟にやって来た。


 ここは所謂「二重ダンジョン」と呼ばれる特殊なダンジョンで、手前と後ろの二つのダンジョンが重なり合って造られた。


 前半はレベル20~30くらいの雑魚が出てくる。ボスもレベル40くらいのスライムドラゴンだ。


 しかし、後半になると雑魚でもレベル40はあり、ボスになるとレベル50を超える。


 ぶっちゃけ前半の陰の淵はおまけだ。ここすら通れないようなら足を踏み入れる資格すらない。


 だが、逆に、前半は楽勝だったから後半のダンジョンも余裕だろ、——と油断していると、道中の雑魚に囲まれて死ぬ。


 ゲームならセーブとかネットで事前に情報を集められるが、この世界にそんな便利なものはない。


 きっと他の人間は後半へ足を踏み入れることすら難しいはずだ。




「……よし、と」


 後半部分、陰の淵・奈落。


 ダンジョン内を進むこと一時間。立ちはだかる雑魚を殺し回ってずいぶん経つが、やはり平均的なレベルが高いと攻略するのが大変だな。


 おまけにこのダンジョン、前半と同じく通路が迷路のようになっている。不正解のルートを通るとかなり時間が割かれてしまう。


 幸い、俺は前世の記憶があって正解ルートを覚えているが、そうでないと一日でクリアするのはほぼほぼ不可能だ。


 今日は帰りが遅れるな、と思いながらもさらに奥へ進む。


「キキキキ!」


「気持ち悪いっ」


 ばさり、と目の前に現れたモンスターを切り伏せる。


 このダンジョン、コンセプトがホラー寄りだから出てくるモンスターが気持ち悪いのばかりだ。


 前半だと異形系モンスターが蔓延るが、後半になるとやけに人型が多くなる。


 アンデッドとかゴーストとかやめてくれ。物理攻撃効きにくいし、外見からして精神がガリガリ削られていく。


 だが、それでも先に進むしかない。敵が怖くてダンジョンは潜れないのだ。




「——おっ。この別れ道はたしか……」


 しばらく通路をまっすぐ歩いていると、左右に分かれた突き当たりに直面する。


 それを見た途端、生前の記憶が脳裏に浮かんだ。


 この道は正解ルートが右がある。


 右に強い個体がいるから左に行きたくなるが、左は行き止まりなので時間を無駄にするだけ。


 ただし、左には隠しアイテムが置いてある。


 当時、なんとなく右に進んだ俺はそれを知らなかった。あとになってネットでその情報を知った。


 リアルになったこの世界にもその隠しアイテムがあるかどうかは解らないが、無視する理由はないので左に進む。


 何体ものミイラ男が現れるが、そのすべてを剣で叩き伏せる。


 ミイラ男は速度がゲロ遅なので余裕で勝てる。数が多いので囲まれないよう注意だ。


 常に移動しながらミイラ男たちをぶっ飛ばす。わざわざ全員倒す必要はないが、アイテムを取るには邪魔になるので全員倒す。




 最後の一体を倒した頃にはモンスターが復活を始めるものの、すでにかなり奥のほうへ入ってるため、手前のモンスターは俺の存在に気付かない。


 しめしめ、と思いながら背後に置いてある宝箱を開けた。


 中に入っていたのは、一枚の紙。


「やっぱり中に入ってたのは〝聖なる護符〟か」


 置いてあった紙を拾う。


 これは聖なる護符と呼ばれるアイテム。


 ゲームだと効果はたしか、『所有者の防御力を上げる』程度のものだった。


 上昇率はさほど高くない。レベルを上げてVITにポイント振ったほうが早い。


 が、ないよりはマシだろう。


 インベントリに護符をぶち込んで立ち上がる。


 背後では次々とミイラ男がリポップしていた。それを見て、剣を構えて走る。


 行きは囲まれないように全員ぶち倒したが、帰りはわざわざ相手をする必要はない。


 襲い掛かってくるノロマたちをかわしながら、先ほどの通路まで戻ってくる。




 今度は右側の道を選び、立ちはだかるモンスターを撃退しながら進む。


 巨大な狼も無視だ。こいつ、耐性値が異常に高すぎて倒すのに時間がかかる。攻撃力は低いので無視して先に進むほうがいい。


 モンスターたちに追われながらひたすら右、左、右、右と道を曲がっていると、やがて魔法陣の刻まれた石碑を見つける。




「ワープポイント発見」


 迷わず俺はその石碑に近付いて触れる。


 すると、一瞬で目の前が白く染まり、次に世界が色を取り戻すと、先ほどとは違う場所にワープしていた。


 これが陰の淵・奈落のボス部屋の前に行く方法だ。


 手前にいるモンスターたちは馬鹿みたいに数が多いが、全部無視してワープポイントまで突っ切れば問題ない。


 そして、この先の広いエリアに奴はいる。


 このダンジョンの本当のボスが。




 ゆっくりと前に進んだ。この辺りは静寂に満ちている。


 他にモンスターはいないし、俺の立てる足音以外になにも聞こえない。


 だが、少しして崖の前に出る。見下ろした先には、ぽつんと佇むひとつの影。


 わずかに揺らぎ、影の中にある黄金色の瞳孔がこちらを捉える。




「久しぶりだなぁ……——ナイトメア・アビス」


———————————————————————

あとがき。


読者の皆様には日頃からたいへんお世話になっております!


本日、反面教師の新作が投稿されました。

よかったら見て、応援してください!


なぜか新作が表示されない?らしいので、タイトルを載せておきます。

『二度目の人生は最強ダンジョン配信者〜』というタイトルです!

小説一覧には表示されるようです!

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