第79話 陰の淵

 同室の友人にして同僚のジークと話すこと十分。


 軽口を叩く彼をスルーして部屋を出ると、そのまま宿舎も出て街の外へ向かった。


 目指すはダンジョンのひとつ、陰の淵。


 街を出ておよそ三十分ほど走ると、そのダンジョンがある洞窟の入り口を見つけた。


 ほぼすべてのダンジョンが、ああいう地下へ続く洞窟みたいな外見をしている。


 中に入ると場所によっては森や砂漠が広がっていたりするが、今回のダンジョンは洞窟型とあまり差はない。


 なぜなら……。


「薄暗い石畳で作られているから、な」


 ダンジョンに入って五分。


 ぽっかりと空いた穴は、まるで人が造りだしたかのように周りが石で覆われていた。


 まるで洞窟というより神殿の内部みたいだ。


 古きよきダンジョンと言えば、無造作に広がる土の壁かもしれないが、ゲームだとこんな石の肌が広がっているイメージだ。


 壁に一定感覚で設置された松明を目印に、どんどんダンジョンの奥へと向かう。


 すると、予想どおりモンスターと出会った。


 このダンジョンは従来のダンジョンと同じく、下へ、奥へ行けばいくほど敵が強くなる純粋な構造だ。


 それゆえに、序盤で出てくる敵は弱い。


 それでも油断なく剣を構えると、間髪入れずに突っ込んできたモンスターに剣を振るう——。




 ▼




 ダンジョン、陰の淵の攻略は順調だった。


 正直に言うと、このダンジョン自体はそこまで強くない。


 その理由はあとあとになって解るが、少なくともそれがわかるまでは敵は雑魚だ。


 どろどろの不定形みたいな謎の……スライム? みたいなバケモノを吹き飛ばし、さらに奥を目指す。


 前半部分は、リアルだとモンスターたちが放つ異臭と、薄暗いダンジョン内の視界確保のほうが大変だった。


 特に前者は最悪だ。


 まるで下水道の中にでもいるかのような気分になり、臭いが服にこべりついてしまうことばかり危惧してしまう。


 それでも前に進むのは、ここまで来て今さら引き下がれるかよ! というくだらないプライドのせいだったりする。


 まあ、そうでなくとも、冒険用の服装は普段は使わないものだ。


 臭いがべったりとこべり付いても、処分するなりインベントリの中に永久封印するなりすればいい。


 インベントリの中なら臭いが取れることはないが、ほかのものに臭いがつく心配もない。


 普通に捨てろとは思うが、いまの俺は貧乏だから……貴族から平民に落ちたようなもの。


 そりゃあ金もない。


「少しくらい家から金持ってくればよかったかな……っと、着いた」


 愚痴をこぼしながら歩いていると、ようやくダンジョンの中間地点、の前に到着した。


 ボロボロの扉をグッと押し込んで開けると、これまたどろどろの——液体状のドラゴンが部屋の中にいた。


 まるで先ほど戦ったスライムが、頑張ってドラゴンに擬態してるように見える。




 ——実はその通りだ。あれは純粋なドラゴンじゃない。


 いくら俺でも、いまの実力でドラゴンが倒せるなんて思っちゃいない。


 あれは言わばスライムドラゴン。


 不定形なモンスターが進化をし、幾度も変化と膨張を繰り返した末に生まれたモンスターだ。


 通常のドラゴンに比べるとかなり弱い。


 ただ……雑魚とはいえボス級。そこそこ戦えなくもない。




 エリア内に足を踏み入れると、その瞬間に偽ドラゴンは叫ぶ。


 液体の状態でどうやって叫んでいるのか、声帯はどこなのかたいへん気になるが、剣を構えてドラゴンの懐に接近する。


 スライムドラゴンの長所は、本来のドラゴンではできない液体変化による遠距離攻撃だ。


 威力はドラゴンのブレスに比べて劣るが、手数の多さはドラゴンをはるかに超える。


 飛んできた複数の触手みたいなものを避けながらさらにドラゴンに接近すると、ぷるぷるの腕を振り上げて攻撃してくる。


 それを跳躍してかわすと、剣を全力でドラゴンの顔面にぶち込む。


 筋力100超えの攻撃だ! 喰らえ!


 内心でそう叫びながらさらに連撃を続ける。


 スライムドラゴンは体が液体で出来ている。物理攻撃には高い耐性を持つが、それは考慮済み。


 いまの俺には魔法攻撃スキルもあるので、それをバンバン使ってスライムの体を蒸発させていく。


 純粋な水ではないので、スライムドラゴンの弱点は火だったりする。


 苦しそうに叫びながらもドラゴンは手足を振るい、時に触手を解放して襲いかかってくるが、それらの行動はすべて見えているし知っている。


 ステップで器用にかわしながら連続でダメージを与え続けた。


 このスライムドラゴン、耐性が少ないとか攻撃力が低いとか体力が低いとかいろいろ弱点はあるが、一番の弱点は、攻撃パターンが非常にシンプルなところだろう。


 ゲームでも雑魚だと思っていたのに、リアルでも雑魚とはあまりにも報われない。


 まあどんだけ弱かろうと容赦するつもりは皆無だがな。




 俺への攻撃が止まらないように、俺もまた、ボスに対する攻撃を一切止めることはなかった。


 びしゃびしゃと地面を汚水が染め上げ、炎と銀閃が中空を舞う。


———————————————————————

あとがき。


今後の作品の更新に関してのお話と相談を近況ノートに載せました。

よかったらご確認よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る