第74話 面白いおかしい同僚たち
第三騎士団に入団してからは、それなりに充実した日々を送っていた。
俺は新規入団という形で入ったため、たとえ団長エリカがスカウトしたからと言って、いきなり尊敬される立場にはない。
底辺には底辺らしい雑務があり、同僚とはそこそこ仲良くし、それでいてダンジョン攻略にも精を出す。
事前にエリカの指示で騎士たちをボコっておいてよかったぁ。
おかげで、「団長に気に入られたからって調子に乗るなよ!」とか言われて虐めに遭うことはなく、むしろ、
「ネファリアス! 明日は俺に剣術を教えてくれよ」
「次は俺だぞ~」
「俺とは打ち合いをしてくれ、ネファリアス」
と大人気だった。
引く手数多とはこのことだ。
これが全員女性だったら嬉しかったのに……。
「おうおう、どうしたネファリアス。顔色が悪いぞ」
「ジーク……なんでもないよ」
話しかけてきたのは、同室で同僚の騎士ジーク。
絵に描いたようなスケベで女が大好きだ。軽薄だが性格はおおらかで人当たりがいい。いまでは俺の友人のひとりである。
「ははん。隠すなよネファリアス。その顔はアレだろ? 団長に呼び出し喰らってブルーなんだろ? 解るわ~。俺も前にクソ怒られたしな」
「なんだっけ。ナンパした女に彼氏がいて、その彼氏と修羅場になった挙句、殴り合いを演じて捕まったやつ?」
「そうそう、それそれ~……って、わざわざ口に出さなくていいんだよ! 俺の恥ずかしい過去は!」
がしっとジークに肩を組まれる。その勢いで首を絞められるが、ステータスが高いのでぜんぜん苦しくない。
「あははは。ジークとネファリアスが同じような用件で呼ばれるわけないじゃない。ネファリアスは優秀なんだから、きっとなにか大切な話があるのよ」
「リナリー」
笑いながらさらりとジークを馬鹿にしたのは、これまた同僚のリナリー。
さらりと一本にまとめられた髪を揺らして、ジークを指差しながらこちらにやってくる。
作られた表情が完全にジークを馬鹿にしていた。
「てめぇリナリー! おまえだって俺と喧嘩して団長に怒られてただろ! 同じじゃねぇか!」
「はぁ!? あんたと一緒にしないでくれる? ジークが絡んでこなきゃ、私は優等生よこの馬鹿!」
お互いに至近距離で見つめ合う。
この『見つめ合う』という行為は、決して甘酸っぱいものではない。むしろその逆だ。
鬼のような形相で睨みあっている。
この二人は、俺が第三騎士団に所属したその日から不仲で有名だった。なんでも性格がまったく合わないらしい。
「こらこら、喧嘩はやめなさい喧嘩は」
「オクトー」
ぐいっと、ジークとリナリーの顔を引き剥がした大柄の男。
女性みたいなメイクをしてる彼は、正真正銘の男性でありながら、心は女性という面白い男オクトーだ。
外見は完全にバケモノのそれだが、怪しい雰囲気とは裏腹にすごい優しい。
入団したばかりの俺にもいろいろ気を使ってくれる。
「オクトー! 邪魔すんなよ! 俺はこの女に今日こそびしっと言わなきゃいけないことがあるんだ!」
「離してオクトー! 馬鹿は殴らないと直らないの! コイツのせいでみんなが馬鹿になるわ!」
「はいはい、解ったから落ち着きなさい二人とも。新人の前でみっともないわよ。また団長に怒られたいの? 団長の拳骨、すご~~~~く痛いわよ」
「「うぐっ!」」
オクトーの言葉に、ぴたりとジークとリナリーが動きを止める。
俺が入団したばかりの頃に、一度だけエリカに殴られているのを見たことがあるな。
とはいえリナリーは女性なので、頬をグーで殴るような真似はしなかったが、籠手を装着したまま拳骨を落とされていた。あれは痛い。
「ふ、ふんっ。しょうがねぇな。今日はこのくらいにしておいてやるぜ」
「は、はんっ。それはこっちの台詞よ馬鹿ジーク! オクトーと団長に感謝するのね!」
「なんだと!」
「なによ!」
「はいはい、繰り返してる繰り返してる」
めんどくさいわね、とオクトーが二人を引き剥がし、なんとか喧嘩は収まった。
相変わらず普通そうに見える二人のほうが問題児で、俺の認識がバグるな。
でもオクトーは本当にいいヤツだ。男好きでヤバいヤツだけど、風呂場でジッと同僚の体を見つめてくるけど、それでもいいヤツだ。
一度、ガチで触ってこようとしたのでボコボコにしたが、いまでは懐かしい思い出——なわけがない。
上下関係を叩き込んだおかげで、もう襲われそうになることはなかった。
「というかネファリアス」
「うん? なに、オクトー」
「あなた団長に呼ばれているのね。そろそろ行ったらどう? ここにいると、お馬鹿さんたちに絡まれて時間を無駄にするわよ」
中庭は騎士たちが訓練するための場所なんだが……まあ、たしかにオクトーの言うとおりではある。
時間も昼に差し迫り、ちょうど昼食を摂り始める頃だ。
少し早いとは思うが、一応、エリカの部屋を訪ねてみよう。
「そうだな。そうするよ。じゃあ、また後でオクトー」
「はーい。なんの用件だか知らないけど頑張ってね~」
手を振るオクトーに見送られながら、俺は中庭をあとにした。
まっすぐ騎士団長エリカの部屋を目指す。
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