第65話 命を懸けてでも特攻する

 〝眷属召喚〟。


 それが、嘆きの王が持つ奥の手。


 奥の手にしてはショボイ?


 そんなことない。たしかに呼び出される眷族たちはそこまでの能力を持っていないが、この能力の恐ろしい点は、相手の手数が圧倒的に増える点。


 まず眷属たちによって相手との距離を確保。そこへ鎌を振り下ろし、大ダメージと状態異常を与える。


 しかも俺の記憶によると、眷属たちにも状態異常を発生させる呪いのようなものがかかっており、嘆きの王本人よりは確率は下がるが、グッと死亡率が跳ね上がる。


 おまけに眷属たちが邪魔してなかなかボスにダメージを通しにくくなるし、倒しても倒しても、一定の時間が経つと再び召喚されてしまう。


 ね? これほどウザい能力もそうはない。


 ゲームだとジャンプとかできなかったから、眷族たちを掻い潜ってボスモンスターへ攻撃を仕掛けるのはかなり面倒だった。


 しかし、ここは現実だ。


 いまの俺のステータスなら余裕で眷属たちの頭上を跳躍できるし、状態異常を無効化できるため、嘆きの王の攻撃にさえ注意していればいい。


 殺到してくる眷族たちを無視して、グッと足に力を入れた。


 すると、嘆きの王の鎌が振り下ろされる。


 それを横に避けると、再び嘆きの王は鎌を振り上げてから下ろした。


 次も避ける。


 近くに眷属たちがやってくる。


 こ、コイツ——ッ!?


「てめぇ……みみっちい攻撃してんじゃねぇよ!」


 相手の意図に気付いて思わず叫ぶ。もちろん嘆きの王は返事を返さない。


 この野郎……、俺が一直線に眷属たちを飛び越えて攻撃するのを防ぐため、縦に飛べないよう、鎌を横払いするのではなく、縦に振り下ろしてやがる!


 横からの薙ぎ払いであれば直線上に飛んで相手に近づける。


 だが、縦に鎌を落とされると、自然と回避の方法は横に飛ぶしかない。


 まっすぐ前に飛んでも鎌を避けられない。斜めに飛んで近付こうとしてもすぐに距離を離して眷属を向かわせる。


 完全に範囲攻撃重視での逃げだ。ひ、卑怯すぎる!


 これがアンデッドの王がすることか!? モンスターがそんなことしてもいいのか!?


 ……いや、いいに決まってる。この世界の戦闘にルールはない。


 やったもん勝ちだ。


「チッ。しょうがないな」


 もうちょっと覚悟を決めて地面を蹴る。


 こちらが横に回避するのを見越しているのなら、もう大きく飛び退いたりしない。


 最小限の動作とステップだけで攻撃を回避し、眷属たちを無視して嘆きの王の懐へ潜る。


『愚か、愚カァ。きさま如きが、儂に勝てるはずがないイィ!!』


 嘆きの王が鎌を振り下ろす。それをすれすれに避けながら突き進む。


 減速しない。かすかに肌を掠めるが、これくらいの痛みは問題なかった。


 状態異常も防げる以上、構わず突っ込む。


 嘆きの王は、俺の背水の陣ともとれる特攻にビビるが、それでも作戦を変えたりしない。ひたすら鎌を振り下ろす。


 時に硬化で防ぎつつ、最短距離を抜けてボスの前にやってくる。


 ここまで来たら、あとはひたすら張り付いて攻撃をぶつけるだけ。


 俺は剣を握りしめると、新たに覚えた攻撃スキルを発動する。




 〝剣撃〟。


 MPを消費して、瞬間的に火力を増幅させるスキル。


 これで俺の高いSTRが、より高みに上る。


 わずかに淡く光った剣身が、嘆きの王の体を捉えて甲高い音を立てる。


 連続でスキルを発動。


 後ろから殺到する眷族たちを、回転斬りでまとめで仕留めつつ、逃げながら鎌を振るうボスに張り付き続ける。


 絶対に逃がさない。一度手を伸ばしたら、もう離れない。


 確実にボスモンスターを殺し切るまで、俺はひたすらに思考を高速で巡らせて剣を振る。


 バチバチと電気信号が激しく送られ、手足を動かす。思考が加速し、世界がややゆっくりに回る。


 声が、衝撃音が、光が、顔が、景色が——あらゆるものが鮮明に見える。


 わずかな極地に足をかけ、興奮した気持ちを抑えることなく爆発させた。




「ハハッ」


 思わず、口から笑い声が漏れる。


 前世では決して体感できない臨場感。鬼気迫る恐怖。ひり付く空気感を撫でながら、なおも俺は前に進む。


 疲労を知らぬ嘆きの王やその眷属も止まらない。外敵である俺を殺そうと、何度も鋭い牙を剥いた。


 しかし、最後に刃を突き立てるのは俺だ。


 眷属たちの猛攻を振り切り、鎌を振り終えた嘆きの王のさらに懐へ入る。


 切っ先をまっすぐに相手の顔へ向けると、スキルを発動しながら腕を伸ばした。




 空気を引き裂き、鈍色の刃が——嘆きの王の顔を貫く。


 これまでの蓄積ダメージで十分に体力を削り切っていたのだろう。最後の一撃は、脆く、簡単に、あっけなく相手の体を貫いた。


 骨が砕ける軽い音が聞こえる。


 パキパキと崩れていく眉間の下で、動くはずのないボスの口元が、わずかに笑っているように見えた。


 きっと気のせいだ。それでも、もしかすると……コイツの魂は浄化されたのかもしれない。


 あくまで、俺はそう思った。

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