第64話 相性最高
俺の目の前には、巨大な鎌を持った髑髏のモンスターがいる。
ボロボロの黒いローブをまとった姿は、まさに〝死神〟って感じだ。
コイツがこのダンジョンのボス、〝嘆きの王〟。
厄介な弱体化系能力を持った個体で、防御力こそ高くはないが、攻撃力と速度に秀でたモンスターだ。
正直、俺との相性は悪い。
——嘆きの王のほうが。
「さあて……最後の正念場だ」
剣を抜いてボスのほうへと向かった。
嘆きの王は、基本的にステータスを弱体してくることで有名だ。
その他にも、あらゆる攻撃に状態異常が乗る。
毒やら麻痺やら睡眠やら呪いやら。
どれも受けるだけでクソうざい。
どれだけウザいかと言うと、毒はともかく、麻痺と睡眠がヤバい。
麻痺は一定時間動けなくなる。そのあいだに受けた痛みは感じないが、しっかり体力が減るのでレベル差によってはそれだけで死にかねない。
睡眠も同じだ。麻痺と違って感覚は残るし痛いが、一撃受けると目が覚める。
ただ、睡眠中はたしかゲームだと攻撃にクリティカル判定が発生する。
クリティカルが乗るとダメージが二倍になるため、いまの俺でもギリギリ二発か三発までしかもたないだろう。
だが、それらを解決する策が俺にはある。
策っていうか、もはや必勝法。必勝法っていうか、完全メタ。
————〝状態異常耐性〟だ。
Lv10に達したこのスキルがあるおかげで、俺には状態異常への完全耐性がある。
毒も麻痺も睡眠も、呪いさえも効かない。
呪いはスキルを封じるなどの特殊効果があるが、それもこのスキルがあれば恐れる必要はない。
だからわざわざ、激戦になるかもしれないことを考慮した上で、ワンランク上のダンジョンへ足を踏み入れたのだ。
ここなら、俺が圧倒的に有利に立ちまわれるから。
『ああ……寒い。ここは、寒いゾ……』
「あ?」
しゃ、喋った!?
嘆きの王のヤツ、普通に喋ったぞ!?
雰囲気から男性と思っていたが、どうやらその通りらしい。
ゲームでは文字も音声もなかったからそういうものだとばかり思っていたが、人型ゆえに知能が、もしくはアンデッドだから生前の人格が残っていた。
『お主はだれダ? 見慣れぬ。見慣れぬ男よぉ。不吉だ。不吉な色が見えル』
「声帯がないのにどうやって喋ってんだよ……」
動き出した嘆きの王を見て、俺は剣を構える。
しっかりと相手側も鎌を構えると、問答無用と言わんばかりに襲いかかってきた。
大きな鎌を活かした範囲攻撃。
俺の何倍もある攻撃範囲に、回避を優先させながら近付いた。
嘆きの王が厄介な点のひとつは、この鎌による攻撃である。
魔法攻撃でもしないかぎりは、相手のほうがはるかにリーチが長い。
かと言って迂闊に魔法攻撃を撃ちこむと、その隙を狙って懐に忍び込んでくる。
おまけに魔法攻撃にも耐性があるときたら、ステータス的に
大振りの攻撃をかわしてから、硬直のあいだに剣を打ち込んだ。
分厚い金属でも叩いてるかのような衝撃が手元に伝わる。
これで骨だというのだからおかしな話だ。一体どれだけの耐久値なんだか。
「まあ、それでもダメージは通ってるよな」
ゲームでもコイツの外見はいくらダメージを与えても変わらなかった。
ゲームなのだから当然と言えば当然だが、それでもダメージは入っていると思いたい。
ダメージが入っているなら、あとは根気強く相手のHPを削っていけばいい。
前のダンジョンで手に入れた火属性魔法も使って、ガンガン、嘆きの王へ攻撃を仕掛ける。
嘆きの王は大振りが多い。
たまに拳を使って近接攻撃をしてくるが、ある程度距離が離れるとすぐに鎌に持ちかえる。
その規則性こそが相手の弱点だ。
拳による攻撃はダメージこそ低いが、状態異常が乗るうえ、出が速く避けにくい。
代わりに鎌による攻撃は、出が遅く攻撃力が高い。攻撃範囲も広い。
当然、鎌による攻撃にも状態異常は乗るので、どちらが面倒かはだれだってわかる。
最初は拳による近接攻撃を避けて、あるいは受けながら攻撃しようかと思ったが、ゲームの頃と同じならそれは悪手になる。
なぜなら、拳による攻撃はノックバックが発生し、硬直が発生する恐れがあるからだ。
この硬直は、厳密にはゲームの仕様なので状態異常ではない。
俺の耐性すらも貫いてくるため、これが発生した時点で鎌による一撃をもらうことになる。
ゆえに、前世でもそうだったが、わざと距離をギリギリまで離し、鎌による攻撃を避けてから近付き、剣を叩き込むヒッドアンドアウェイの戦法が一番コイツにはよく効く。
その証拠に、嘆きの王は何度も、『小賢しい、小賢しい悪魔めぇ!』と呻き声をあげていた。
しかし、それも何十と繰り返されると、やがて嘆きの王の体力が一定ラインを下回り——。
これまで以上の殺気をまとい始めた。
『ああ、小賢しい人間よ。汝に死を求めル。これより先は、絶望の旋律と知レ!』
嘆きの王の足元から、黒い煙が噴き出した。
煙の中から、数体の獣型モンスターが現れる。
「でたでた。その反則技。
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