第62話 集団戦はより効率よく

 魔法使い風のモンスターたちへ肉薄する。


 コイツらは、外見のまんま遠距離攻撃を用いる敵だ。距離を保ったまま戦うと、四方八方から魔法攻撃を撃たれて鬱陶しい。


 それに加え、先ほどのモンスターと同様に、コイツらも耐性を持っている。


 〝魔法攻撃耐性〟だ。


 あらゆる魔法攻撃はヤツらにはあまり効果がない。


 だから、巨人には殴打を。魔法使いには剣を用いるのが一番楽な倒し方である。




 詠唱中に近付いて、ぎりぎり相手の攻撃をかわすなりカウンターを打ち込む。


 魔法使いなだけあって、体力はほとんどないから、俺くらい筋力ステータスが高いと簡単に倒せる。


「よっと」


 魔法使い最後のひとりを倒した。


 巨人のモンスターに比べると数は多いがそこまで強くはない。


 ここにきてAGIの恩恵がデカいな。


「グオオオオォォォ————!!」


「また来たのか……ゲームどおり多いな」


 魔法使いを倒した直後に、数体の巨人モンスターが現れる。


 これは厄介な状態だ。


 それだけじゃない。


 ちらほらと魔法使いのモンスターまで見えた。


 時間をかけた分だけ、どんどんモンスターが集まっている。


「さすがにこれはまずい、か」


 ひやりと汗が垂れる。


 巨人のモンスターは一対一なら確実に倒せる。筋力ステータスだけは向こうのほうが高そうに見えるが、動きは遅くて的もデカい。


 これで負けるほうが難しい。


 だが、集団戦になると話は違う。囲まれるとあの攻撃範囲の広さがウザすぎる。


 おまけに、遠距離攻撃で支援できる魔法使いまでいるとなると、慎重に戦っても長期戦になるのは明白だ。


 俺のAGIなら安全区域まで撤退できると思う。


 が、


「いや、逃げることなんてできないよな」


 剣を握りしめる。


 前を向いて、モンスターたちを視界に捉えた。


「ここで逃げたら、俺はまだまだ強くなれない。もっともっと困難を正面から打ち破るだけの力が必要なんだ」


 この程度の窮地、今後は何度も訪れるに決まっている。


 その度に逃げていたら、悲運を遂げるヒロインたちを救うことなんてできやしない。


 俺には〝システム〟があるんだ。何より、前世の記憶がある。


 逃げるな。戦え。


 そう自分の心を鼓舞して、一歩前に出た。


「いけるいける。俺なら、——やれる!」


 地面を蹴った。


 モンスターたちも一斉に動き出す。


 まずは巨人の懐へ入り、攻撃をかわして殴りつける。


 背後からは複数の火の球が迫った。


 それらをかわしながら、次の巨人へターゲットを変更し、同じように殴る。


 最初に魔法使いを倒さない意図としては、巨人だけ残すと時間が余計にかかるからだ。


 ここは乱戦を利用して、魔法使いの攻撃を巨人を盾にして防ぐ。


 巨人同士は攻撃をぶつけ合わないが、魔法使いの魔法は、一度発動したら止めようがない。


 わざと巨人のそばでタイミングを合わせて避けるだけでも、巨人に魔法攻撃を当てられる。


 俺のステータス的に魔法攻撃は弱いからな。こうして巨人の弱点である魔法攻撃を当ててもらったほうがはるかに倒しやすい。


「集団戦において、敵の力を利用するのは当然っと」


 相手はモンスターだからか学習しない。ぽんぽん魔法攻撃を連射してくる。


 本来は驚異的なその攻撃も、高いAGIを持つ俺からしたら目で追える。


 巨人の動向に気を配りつつ避けるだけでダメージを与えられ、魔法攻撃がぴたりと一瞬だけ止んだ隙に巨人を殴る。


 ——なんて効率的な戦闘なんだ。


 ゲームだと、敵同士の攻撃判定はなかった。ぶつかってもダメージは発生しない。


 それがリアルになったことでダメージが発生し、巨人たちは苦しそうに呻いている。


「なまじ体が大きいから、盾にするのが楽でいい」


 自然と魔法攻撃のタイミングに合わせて巨人の後ろに回り込めばいい。それだけで勝手に俺の盾になってくれる。


 近接戦闘を続ければ他の巨人も攻撃をしずらい。


 同士討ちになる可能性を考慮するなら、魔法使いのほうも魔法を撃たなくなりそうなものだが、いまのところポンポン撃ってくる。


 近接と遠距離の違いでもあるのかな。


 今後はそれが俺の戦闘を有利に進めてくれるような気がした。少なくとも、集団戦において今回の戦法はかなり役に立つ。


 時に殴り。


 時にかわし。


 時に蹴り。


 俺の戦闘は、ダメージを負うことなく順調に進んでいった。


 その間にもモンスターは増えていったが、ダンジョン内のモンスターは無限のように見えて無限じゃない。


 個体ごとの復活時間があり、その時間内であれば全滅も可能である。


 ゆえに、俺はこのまま戦闘を続けていけば、十分にやつらを殲滅可能だ。


 倒れた巨人を踏みつけ、なおも迫る巨人を見つめる。


 遠方からはいくつもの光が輝いて飛来した。


 それらを無視して跳躍すると、血に塗れた拳を振るい続ける。


 やがて、その場に立つ者が自分ひとりになるように。


———————————————————————

あとがき。


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