第55話 メインヒロイン

 二メートルを超える巨大な二足歩行の狼を倒した。


 狼は特に強かったわけでもない。


 むしろ攻撃パターンは、近接による、殴る蹴る噛み付くの単純パターンしかなかった。


 ステータスにおいて相手より勝っているのだ、負けるほうが難しい。


 それより、


「ラッキー。空いてる装備を入手できた。もしかすると優先して持ってない部位が手に入るのかな?」


 今回の報酬は〝人狼の脛当〟。


 これまで獲得したの装備は、デュラハンの使っていた呪いを与える武器、〝亡霊の剣〟のみだ。


 これで被るほうがおかしいとは思うが、幸先はいい。


 メニュー画面から装備を選択して、入手したアイテムを登録する。

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武器:【亡霊の剣】

頭:

腕:

手:

胴体:

足:【人狼の脛当】

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「これでよし……と」


 どうやら狼男が落とした装備は、足の防具らしく、装着者のAGIをプラス15するものだった。


 デュラハンの武器と上昇率は同じだ。


 これが最低限の装備による上昇率だと思ってもいいのかな?


 だとすると、より強いダンジョンでは、より強い装備が手に入るのが道理。


 少しだけワクワクしてきた。


「時間にはまだ余裕があるし、この機会にもう一個くらいダンジョンを潰しておくか……ふふ」


 時刻はまだ昼にもなっていない。


 スピード重視で攻略したため、もう一個くらいならダンジョンを攻略する余裕がある。


 であれば攻略しない選択肢などない。


 来た道を急いで戻ると、現在位置から一番近い、それでいて攻略にあまり時間がかからないダンジョンを目指して走った。




 ▼




 『レベルアップしました』

 『ダンジョンクリアボーナスを与えます』

 『ソロクリアボーナスを与えます』

 『装備:狂人の籠手』

 『スキル:剣撃Lv5』


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名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:システム

Lv:50

HP:6050

MP:2980

STR:100

VIT:70

AGI:100

INT:51

LUK:51

スキル:【硬化Lv10】【治癒Lv10】

【状態異常耐性Lv10】【危険察知Lv6】

【剣撃Lv5】

ステータスポイント:30

スキルポイント:53

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「今度は籠手、か。それに初めて攻撃系っぽいスキルが手に入ったな」


 塵のように消えるボスの死体を見送ってから、目の前にあらわれたシステムメッセージを読む。


 これは俺の幸運値が高いおかげか、それとも最初の予想どおり装備はなるべく被らないように設定されているのか。


 どちらにせよ、新たな装備はありがたい。


 入手した【狂人の籠手】の性能をたしかめる。


「INTプラス15、か……」


 少しだけ残念。


 狂人とか言うくらいだから、てっきりSTRでも上がるのかと思っていたら、上昇したのはあまり恩恵の高くないINTだった。


 ゲームだと、MPの総量とか魔法系スキルの威力が上がる仕様だった気がする。


 あまりスキルの多くない、物理攻撃でゴリ押す俺にはそこまで必要ない。


 まああって困るものでもないし喜んでおく。


「しかしレベルは上がらなくなってきたな……50からが楽しくなってくるっていうのに」


 もっとレベルを上げたいのなら、より高難易度のダンジョンに潜るしかないだろう。


 だが、いまの俺にはそんな時間はほとんどない。


 高難易度のダンジョンともなると、攻略するのに時間がかかるからな。


 だが、アリウム男爵家から離れたら必ずもっとレベルを上げてやる。


 そんな覚悟を胸に秘めて、そろそろ王都に帰ることにした。


 遅れるとマリーに心配されるからだ。




 ▼




 外に出ると、すっかり空はオレンジ色に傾いていた。


 移動時間と往復時間を考えると、やはり、一日二回がダンジョン攻略の限界だった。


 再び走って王都まで戻り、正門を抜けて街中に入る。


 夕方頃になると人の行き交いは増える。夕食のために出歩く住民たちが多くいるからだ。


 その波に混ざって通りを歩いていると、ふいに見覚えのある髪色の女性が正面奥からこちらに向かって歩いてくるのが見えた。




 ドクン、と心臓が高鳴る。




 逸る気持ちを抑えるように胸元の服を握りしめると、視線を逸らして彼女の隣を通り抜けた。


 そのとき。




「ごめんなさい」


「——ッ」


 まるで俺の考えを読んだかのように、鎧姿の女性に声をかけられた。


 さらに強く心臓が跳ねる。


 振り返った先には……ゲーム画面でよく見た顔の女性が立っていた。


 忘れもしない。


 彼女は、ゲーム〝クライ.ストレイライフ〟のがひとり、騎士団長のエリカだ。

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