第45話 激突するギフト持ち

 奴隷の少女ミラを救出した俺は、彼女を連れて地上に戻った。


 すると、うっかり警戒を忘れて、部屋に誰かがいることに気付けなかった。


 気配に気付いた時には、互いに視線を交わしたあと。


 入り口を塞ぐようにして三人の男性が立っていた。


「——貴様! 我が家に押し入り狼藉を働く無礼者めが! 一体なんの用で来たのかと思えば……まさか奴隷の女が目的とはな」


「お前は……」


 月明かりに照らされた男の顔は、ゲーム画面で見たことのある顔だった。


 後ろに控えていたミラが息を呑んで体を震わせる。


 それだけの反応があれば十分に相手が誰かわかる。


「この家の貴族か」


「そうだ! 貴様は何者だ! 姿を見せろ卑怯者!」


「生憎と、外道に合わせる顔はない。探す手間が省けたな。わざわざ殺されに来てくれたのか?」


「そんなわけがないだろ! 無能な連中が貴様ごときを捕らえられぬから来てやったのだ! どいつもコイツも役に立たん! 声から察するに、貴様はまだガキではないか! 子供に負けるなどなんたる体たらく!」


 きーきーと男が喚く。


 外見を見るに、コイツがミラを購入した貴族子息だな。それで言うと、その後ろに並ぶのが当主か。


 まさか両方揃って俺の前にやって来てくれるとは。ミラを逃がしたあとで探そうと思っていたが都合がいい。


 ここでまとめて殺す。


「まあ落ち着け。ここで喚いてもしょうがないだろう。外に転がる無能共はクビにするとして、この落とし前をあの男と奴隷の娘にとってもらわねばな」


 子供の後ろから父親である貴族の下卑た声が聞こえた。


 子供が子供なら大人も大人。


 発想がクソすぎて聞くに堪えない。


「そういうことだ、ガイアス。あとはお前がやれ。お前ならば問題なくあのガキを処理できるだろう」


 名前を呼ばれたガイアスというムキムキのマッチョが笑う。


 ずっともう一人は誰かと思っていたが、もしかすると用心棒みたいなヤツか?


 見るからにゴリゴリの戦闘系って感じがする。


「へへ。あのガキを殺してもいいんですか? 生きたまま捕らえることもできますよ」


「ふむ……そうだな。抵抗するようなら手足を折っても構わぬ。生きてさえいればどうとでもなる」


「了解了解。久しぶりの仕事だ。報酬は弾んでくださいよ~」


「無論だとも。精々、我々は見物させてもらおう」


 ムキムキの男ガイアスが俺の前にやってくる。


 ミラはガタガタと体を震わせたあとで地面にへたり込んでしまった。


 対する俺は、ガイアスを見上げる。


「お前も馬鹿な男だよなぁ。その奴隷の女を助けるためにわざわざこんな所に足を踏み入れるなんて……。そんな穢れた女、一銭の価値もないっていうのに」


「そうか? 俺にはどんな宝石よりもキレイに見えるよ。お前の目が濁りすぎてるだけだろ」


「ふはっ。言うねぇ。その自信と余裕の態度……そうか。お前、【ギフト】持ちだろ?」


「なに? どういうことだ!」


 ガイアスの言葉に反応したのは俺じゃない。後ろで傍観している貴族の男だった。


「こんなガキが騎士どもを抑えてここまで来れるはずがない。しかも俺を前にしても余裕の態度だ。度胸があるっていう証拠。そして、それは力に後押しされたもの。【ギフト】持ちはそんな奴らばかりなんですよ、旦那」


「ほほう……ギフト持ちか。それは何かと使えそうだな……。ただ売るだけでも莫大な富になる。絶対にそいつを逃がすな! 生かして捕らえろ!」


「へいへい。わかってますって」


 本人を前に余裕の会話だな。


 ということは……コイツもまた、【ギフト】持ちか。


「んじゃ、悪いが少しだけ痛めつけさせてもらうぜ。お互い【ギフト】を持ってるんだ、そう簡単には死なねぇだろ?」


 そう言って男は拳を握る。心底楽しそうな笑みを浮かべると、勢いよく拳を引いて一撃を放った。


 凄まじい衝撃が発生する。


 地面が凹んで壊れた。腕力だけなら相当なものだ。


 ——しかし、


「……な、なに!?」


 男の拳は、俺の手のひらに衝撃を吸収されて止まる。


 踏ん張ったおかげで俺は一歩たりとも動いていない。全力の一撃を、涼しい顔で受け止めた。


「俺さまの拳を受け止めた、だと!? まさか……お前も戦闘系の【ギフト】持ちか!」


 続けて男の乱れ撃ちが炸裂した。嵐のように複数の殴打が放たれる。


 それらを冷静に受け止め、たった一発すらも俺には当たらない。おまけに、体も動かない。


 両手を使った男に対して、俺は片手ですべてを防御する。


 疲れ、荒い呼吸を繰り返す男に告げた。


 なるべく淡々と、相手の神経を逆撫でするために。




「……こんなもんか? お前の力は」

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