第43話 皆殺し

 侵入者である俺の下に、たくさんの騎士甲冑を纏った男たちが近付いてくる。


 剣を抜いてる俺を見て、誰もが武器を構えた。


 その様子を仮面越しに捉えて、一応は言っておく。


「邪魔する奴は殺す。死にたくない奴はそこを退け」


「そんなことを言われて、はいそうですかと言うとでも? 怪しいヤツめ。ここがどこだか知っての狼藉か!」


 一番前に立っていた騎士が吠える。


 そこそこ強そうに見えるが、本当にそこそこ。あくまで一般人よりマシなくらい。


 俺にその手の恐喝は効かない。


 歩きながら答える。


「知ってるよ。当たり前だろ。だから殺す。お前らも同罪だ。邪魔するなら殺す」


「……チッ。声色からして若い男のようだが、侵入者には容赦しない! 貴族に楯突いたことをあの世で後悔するがいい!」


 騎士が剣を振り上げてこちらに向かってくる。


 あまりにも隙だらけだ。


 相手の攻撃を待つ必要はない。こちらから地面を蹴って肉薄する。


 ほんの一瞬で相手の懐に入った。


 わずかに男が驚愕する。防御はもう間に合わない。


 俺の剣が、先に男の首を刎ねた。


 一切の抵抗を感じずに男の首が転がる。


 それを見た他の騎士たちが、ざわざわと恐怖を抱いた。


「こ、こいつ……人を!?」


「どうした? 罪悪感でも俺に問うのか? お前らが? 雇い主の蛮行を見てみぬフリをしたお前らが、俺になにを問う?」


 ひとり、またひとりと殺す。


 今さら逃げようとしても遅い。一度でも武器を構えて殺気を飛ばした以上は、——皆殺しだ。


 次々と狩られていく騎士たち。


 気付けばあれだけいた騎士も、残りひとりになった。


 腰を落として泣きながら男は懇願する。


「ゆ、許してっ! 許してください! 俺はなにもしていない! 本当だ! お前の目的はわかったから、どうか俺だけは見逃してください!! 俺はなにも知らなかった!」


「その反応がすでに黒いんだよ」


 首を飛ばす。


 仲間が全員やられておいて、最後に自分を見逃してくれるとでも思ったのか?


 甘い。甘すぎる。そんな考えだから悪事にも手を染められるんだ。


 知っていて知らなかったフリをするのも、加害者と同じ。


 だから許さない。だから殺す。


 何人もの亡骸を超えて、俺はさらに奥へと進む。


 鍵のかかっていた正面扉を破壊し、邸宅内部に侵入した。


 そこには当然、警報を聞きつけた騎士たちがいる。


 ……ずいぶん厳重に守ってるな。


「次はお前らか? 外にいるやつらは全員死んだぞ。それでも俺の邪魔をするなら殺す。こい」


 騎士のもとへ歩みを進める。


 不安と恐怖に彩られた騎士たちは、二の足を踏むが、それでも最後には決意を込めて剣を振った。


 そして死ぬ。


 誰も生かさない。誰も俺を止められない。


 ダンジョン攻略や賊の討伐で上げたレベルが、彼らを寄せ付けない。


 圧倒的な実力でまたしても残りはひとり。


 だが、彼だけは殺さなかった。


 まるでバケモノでも見るかのようにこちらを見上げた騎士に、短く問う。


「地下に繋がる隠し扉を教えろ」


「……え? え? な、なぜ?」


 軽く男の手を切り裂く。


「うあぁああああああ————!!」


 痛みに悶えながら男は俯く。


 ぷるぷると全身が小刻みに震えていた。しかし俺は構わず続ける。


「地下に繋がる隠し扉を教えろ」


「あ、ぁあ……。ち、地下への、扉は……こ、この先にある、一番、奥の扉。暖炉の、中にある仕掛けで……」


「暖炉の中にある……やっぱりそこもゲーム通りか」


 念のため、情報があってるかどうか照らし合わせたが間違いないらしい。部屋がどこにあるのかも教えてくれた。


 もうコイツには用はない。


 剣を振り上げて首を落とす。


 死ぬ直後、騎士は大きな声で命乞いをしてきた。


 嫌だ。死にたくない。助けてくれ、と。


 だが、俺は一瞬たりとも躊躇しなかった。迷いなく剣を振り落とした。


 どうしてコイツらは揃いも揃って命乞いをするのだろう。


 自分たちのくだらない欲望のために何人の人が死んだと思ってる。


 お前らのうち誰かが少しでもこの家の裏の顔を暴露していれば、助かった命があったのかもしれないのに。


 それは都合がよすぎる。


 許してもらえるなんて調子がいい。


 一度でも堕ちた人間は、もう二度と這い上がってこれない。


 罪悪感を抱こうが、クズはクズだ。


 剣身にこべり付いた血を払う。倒れた死体を一瞥することもなく、男が教えてくれた奥の部屋を目指す。


 もうすぐミラに会える。彼女の悲劇を救えるかもしれない。


 そう思うと、自然と俺の足は速くなっていた。

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