第42話 侵入

 奴隷の少女ミラを購入した貴族は、この国でも有数の極悪貴族だ。


 前世、ゲームで知った情報を思い出すと、その醜悪さがこれでもかと強調されている。


 まず、ミラ視点の話によると、貴族子息とその父親は外道。


 自分たちの怒りやモヤモヤとした感情を発散するために、よく奴隷の子供を購入している。


 もちろん購入した理由は鬱憤を晴らすため。


 家の地下に鎖で繋ぎ、何度も何度も繰り返し暴力を振るっているのだとか。


 時には刃物や鈍器を持ち出して拷問まがいのことをするらしい。


 ミラもストーリー序盤で主人公イルゼに助けられた際は、左腕の骨が折れていた。他にも足にはいくつもの切り傷があり、指は折られ、歯も数本失っていた。


 その惨状に苛立ち勇者イルゼはその極悪貴族を成敗する。




 ……が、それを俺が行ってもなんら問題はないだろう?


 どうせ遅かれ早かれ滅びる一族なのだ。俺がハッピーエンドのために先に潰してもストーリーにはなんら影響はない。


 他にも、連中は暴力以外の方法で購入した奴隷をいたぶる。


 性被害だ。


 女性を狙って購入すると、ストレス発散にそういう行為を強制する。


 テキストで見たときはゾッとしたし不愉快な気持ちになった。人間はここまで低劣な存在になれるのかとドン引きした。


 けど、現実でも変わらない。人間は残酷だ。


 なまじ知能や感情と呼ばれるものがあるから、平気で人を傷付けられるし、平気で道を踏み外せる。知識があるから残酷な手段も思いつく。


 よく朝のニュースで凄惨な事件を報道しているが、それを聞くたびに憂鬱な気持ちになる。


 理性とはいったいどこへ消えるのか、と。


 所詮は人間もケダモノだ。


 少しほかの生き物より知能が高くて狡猾なだけ。最終的に堕ちれば動物となにも変わらない。


 イジメ。自殺。強姦。窃盗。悪口。陰口。暴力。殺人。強盗。器物破損……etc.。


 ファンタジーでもよく題材にされるくらい、人間の業は深い。


 そもそもルールを定めたのも神ではなく人間だ。絶対の存在が縛ったわけでもないのなら、その抜け穴を突き、無理やりこじ開けようとする者は必ず出てくる。


 今回の場合は、ミラを購入した貴族と俺のこと。


 俺もこれから、ミラを助けるためにこの手を汚す。


 どうしても許せないのだ。ゲームの頃を思い出しても許せない。


 もうフィクションじゃないと思うと余計に許せない。


 あいつらは人間のクズだ。平気で人をいたぶり、平気で人の人生を侵す。


 そんなやつらは世界に必要ない。どうせ向こうも自宅へ侵入してきた俺を許しはしないだろう。心を鬼にして、立ちはだかる者は悉く殺す。


 あの時そう俺は誓った。


 もう後悔はしないし怯えない。躊躇もしなければ情けも見せない、と。


 屋根裏を伝い、走り飛びながら、どんどん真っ直ぐに貴族の邸宅を目指す。


 目的地はすでに知っている。前世で、勇者イルゼが極悪貴族を倒すときに寄っているから大雑把な位置は覚えている。


 あとはそこから、目ぼしい建物を絞り込むだけ。簡単だ。




 足元では煌びやかな光が街中を照らす。


 俺の気持ちとは裏腹に、住民たちは楽しそうに談笑していた。


 王都は広い。世界でも屈指の大国の首都だ。


 それゆえに、街中に巣食う闇は俺の想像を超えるものだろう。


 今回の貴族だって、裏に怪しい組織や存在が関わっている。


 手を出すのは得策じゃない。勇者イルゼにすら噛み付く連中だ。


 下手をするといまの俺では勝てないような相手が襲いかかってくるかもしれない。


 ——それでもやるしかない。


 俺はすべてを救うと決意したのだから。




 しばらく高速で屋根上を飛び回っていると、ようやく目的地に辿り着いた。


 立派な豪邸だ。少し離れたところからでもわかるほど外観は大きく、所有する土地も広い。


 ここからミラのいる地下を探すのは至難の業だが、それでも問題ない。


 最初はスキルを取ろうかと思ったが、現地の人間に聞けばポイントを使わなくて済む。


 どうせクズに従ってるくらいだ。少し痛めつければすぐに情報を吐くだろう。


 秘密裏に購入しておいた仮面にそっと触れると、俺は覚悟を決めて屋根から飛び降りた。


 地面に着地すると、眼前に見える何人もの騎士たちを無視して極悪貴族の敷地内へと侵入する。


 ——そのとき。


 俺が足を着けた瞬間に、敷地内に警報が鳴り響いた。


 何事かと一瞬だけ焦る。


 それがすぐに、この世界にある何かしらのアイテムによる効果だとわかると、すっかりそのことを忘れていた自分に説教する。


 それくらい考えておけ、と。


 次第に聞こえてくる護衛の騎士たちの足音。


 場所までバレていることがわかると、やれやれ、とため息をついて前を見る。


 どの道、やることは変わらない。鞘から剣を抜いて歩き出した。






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名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:システム

Lv:43

HP:5700

MP:2770

STR:100

VIT:70

AGI:100

INT:51

LUK:51

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv10】

【状態異常耐性Lv10】

ステータスポイント:9

スキルポイント:72

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