第40話 サブストーリー
夕日に染まった道をゆっくりと南下していく。
道中、俺はマリーと他愛ない話で盛り上がった。
すると、しばらくして奴隷商の店の前に到着する。
外見は平凡な建物に見えるが、ここには多くの奴隷が売られている。前世では決して見ることのない異世界の闇が広がっているのだ。
ごくりと生唾を飲み込んで中に入る。
すぐに店員の男性と顔を合わせた。
「……? 子供が来るような場所ではありませんよ。ここは奴隷を売ってる店ですから」
開口一番に俺とマリーを見た男性がそう言う。
まあ、そうなるだろうな。むしろ積極的に売ろうとしてこないあたり、わりとこの店は真っ当な商売をしてることがわかる。
だが、それでは話が進まないので、アリウム男爵家の家紋を見せて名乗った。
「俺はネファリアス・テラ・アリウム。アリウム男爵家の者だ。今日は奴隷を買いに来た」
「こ、ここ、これは! 貴族様でしたか! 失礼しました。どうぞこちらへ」
この異世界では、俺が本物の貴族であるかどうか確認する手段はあまりない。
まだ確実に決まったわけではないが、わざわざ貴族の名を語るバカがいないのもたしか。
名前を確認するあいだに、男性従業員の男に奥の部屋へ通された。
「では早速、アリウム男爵子息様の家紋をチェックしますね」
「ああ」
恭しく言って男が一冊の本を手に取る。
それはすべての貴族の家紋が載っている本だ。半年に一回は更新される。
アリウム男爵家は微妙な歴史があるためすでに本には登録されている。
ページを捲っていた男性が、しばらくしてから同じ家紋を見つけてニッコリ笑う。
「……はい。確認できました。本日は奴隷の購入とのことですか、どのような奴隷を?」
「この店にいる〝ミラ〟という名の少女を買いに来た。彼女のメイドにするために」
ちらりと横目でマリーを見る。
すると男性従業員は、視線を上に向けて思考を巡らせた。
「ミラ……ミラ……少女……——ああ! あの子ですか! ええ、覚えていますとも。そちらのお嬢様と同じくらいの女の子ですね」
「そう。その少女を連れて来てくれ」
「畏まりました。少々お待ちください」
パタン、と本を閉じた男性。
ぺこりと一礼してから彼は部屋を出ていった。
これであとは金を払って契約を果たせば終わりだ。
何事もなくてよかった。
ホッと胸を撫で下ろし、男性従業員が帰ってくるのを待つ。
▼
「も、申し訳ありませんネファリアス様!」
戻ってきた従業員の男性が、部屋に入るなり頭を深々と下げた。
嫌な予感がして、俺は反射的に訊ねた。
「なにがあった?」
「それが……ネファリアス様がご所望だった奴隷が、つい先日売られていることが判明しまして……」
「他の誰かが買ったのか!? クソッ……!」
遅かったか。
「ちなみに誰が買ったのかは……」
「すみませんが、お客様の情報は……」
「だよな……こちらこそすまない。目的の人物がいないなら、悪いが俺たちは帰らせてもらう」
「はい。またのお越しをお待ちしております」
手を上げてからマリーと共に席を立つ。
頭を下げる男性から離れて店を出ると、自分たちの宿に向かって来た道を戻る。
その最中、隣でマリーが残念そうに声をかけてきた。
「すでに買われていただなんて……残念でしたね、お兄様」
「まったくだ。でもこういう事もある。べつに急務だったわけじゃないし、王都にいる間にでもまた新しい候補を探しておくさ」
「よかったのですか? あのミラという少女じゃなくても」
「もちろん。マリーと同年代の女の子がいる可能性は低いけど、ゼロと決まったわけじゃない。また探せばいいさ」
「でも……いえ、なんでもありません。お兄様の言うとおりですね」
マリーは言いたいことを呑み込んでくれた。
恐らく俺がなにを思っているのか、薄々察しはついているのだろう。
本当にミラの代わりを探す気があったなら、のんびりとではなく、あの場で男に訊ねればよかったのだ。
——代わりの少女はいないか、と。
そうしなかったのは、俺がミラを諦めているわけではないということ。
その通りだ。俺は諦めちゃいない。
従業員から購入した男の話は聞けなかったが、おおよそ誰が購入したのか検討くらいはついている。
ストーリーが始まったことを考慮した上で、間違いなくすでにミラのストーリーが、イベントが発生している。
ならば彼女を購入したのは……あの外道貴族の男に違いない。
瞳にありありとやる気を漲らせて、俺はどうミラを奪い取るかを考えるのだった。
———————————————————————
あとがき。
説明回が長かったですね。
戦闘パート(という名の無双回)はじまるよー!
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