第33話 兄妹デートその二

 翌日。


 パーティーでの疲れがまだ残っているのか、微妙に気だるい体を動かして起き上がる。


 隣には、あのあと、宿に帰ってずっとべったりくっ付いてきたマリーが寝転んでいた。


 彼女はまだ寝ている。俺と同様、昨日のパーティーでかなり疲れたんだろう。


 さらりと長い白髪を撫でる。絹のように美しい。触り心地も最高だ。




「ん……うん? お兄様……?」


 もぞもぞとマリーが体を動かす。


 閉じていた目が開き、透き通るような青い瞳が俺の顔を捉えた。


 ボーっとしながらもゆっくりと手を握る。


「おや、ごめんよマリー。起こしちゃったかな?」


「いいえ……ちょうど目覚める直前でした。それに、今日はお兄様とまたデートができるのです。おちおち眠ってばかりいられません……んんっ!」


 そう言うと、彼女は布団から起き上がる。


 前世の日本人女性が、羨みそうな癖のない直毛がわずかに揺れて、窓から差し込む陽光を反射していた。


 まるで幻想的な絵画を見ているような気分になる。


 いまだ完全に意識が覚醒しないマリーの頭を撫でながら、くすりと笑った。


「ふふ。そっか。なら改めて挨拶しようかな。おはよう、マリー。見てご覧。今日はいい天気だよ」


「おはようございます……お兄様。デート日和ですね」


「ああ。前回は買い物をメインでしたから、今日はいろいろと王都の中を見回ろうか。どこか行ってみたいところはあるかい?」


「…………王城?」


「それは昨日行ったね。まだ寝ぼけてるのかな?」


 やれやれ。頭の回っていないマリーも蕩けるくらい可愛いが、これでは会話にならない。


 多少、荒療治になるがやむを得ない。俺はふらふらと左右に揺れる彼女の肩を優しく掴むと、呆然とした顔でこちらを見上げるマリーの頬に——口付けをした。


 柔らかく滑らかな肌に、かすかな熱が宿る。


「……お兄様? いま……な、にを……~~~~!!?」


 びくん、と徐々に理解が追いついたのか、マリーの肩が跳ねる。


 顔がみるみるうちに真っ赤になる様子を見て、俺はお腹が痛くなった。


 くすくすと笑いながらも再び挨拶を交わす。


「あはは。ごめんごめん。マリーがずっと寝ぼけていたから、思わずキスしちゃった。おはよう、マリー。少しは目が覚めたかな?」


「さ、覚めるに決まっているでしょう!? とてもとても嬉しいですが、私にも準備というものが……!」


 あわあわ、と盛大に焦りはじめたマリー。掛け布団を俺から奪って包まってしまう。


「今度は準備をさせてからキスするね。……それはともかく、今日は一緒にデートするんだろ? いつまでも照れてていいの? 俺は先に行くよ」


 そう言ってベッドから降りる。女性のほうが準備に時間がかかるだろうから、早く起こしておいて損はない。


 グッと背筋を伸ばすと、ポキポキと小さな音が鳴った。


「むむむ……! それはたしかにお兄様の言うとおりですね。お待たせするようで心苦しいですが、すぐに準備を終わらせます」


「急がなくていいよ。急用はなにもないから。それに、マリーの服装、楽しみにしてる」


「お、お兄様……っ!」


 またしても顔を赤くしたマリー。


 颯爽と、「また後でね」と言って俺は部屋を出た。


 自室に戻ってクローゼットの中に入れた服を取り出す。


 さて……俺はなにを着ていこうかな?




 ▼




 自室で適当な服に袖を通した。


 なんていうか、前世でもそうだったが、基本的に黒か白の二択でしかない。


 なんでだろう? 汎用性が高く、だれにでも似合うからかな?


 そんな疑問を浮かべながら待つこと1時間。メイドと共にマリーが自室から出てきた。


 軽めのドレスを着ている。


「お待たせしました、お兄様」


「ぜんぜん待ってないよ。それに、マリーのために待つこの時間も幸せだから」


「お、お兄様……!」


 おっといけない。マリーの前だと、内なるネファリアスがキザな台詞を吐いてしまう。


 本当はそこまで言う必要はなかったが、あまりにもマリーが天使すぎて口が滑る。


 準備を手伝ってくれた女性も、「ネファリアス様は本当に……」という顔をしていた。


 気にせずマリーの手を取って今日の予定を話す。


「それじゃあマリー、まずは二人でデートをしてから奴隷を買いに行こう」


「本当に最後でいいんですか? お兄様はずっと奴隷のことを考えているのに」


「構わないとも。先に奴隷を購入しちゃうと、連れて歩くことになるし、両親に預けるにも一度ここへ戻らないといけない。大切な時間を一秒たりとも無駄にしたくないんだ。ね?」


「~~~~! は、はいぃ……」


 嬉しそうに俯くマリー。


 ああ、可愛い。照れるマリーも可愛い。マリーが可愛い。なにもかもが可愛かった。




 メイドの女性に、「行ってきます」と告げて外へ出る。


 宿の扉を潜ると、頭上に燦燦と世界を照らす太陽が見えた。


 今日もいい天気だね、まったく。


 デートが始まる。


———————————————————————

あとがき。


☆2000ありがとうございます!

皆さまの応援で三章のプロットも無事に完成しました!

これからも応援よろしくお願いします!

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