第24話 悲劇の悪役は

 盗賊との戦闘が終了する。


 馬車の中から降りてくる両親、妹の姿が見えた。


 全員、盗賊をことごとく殺し尽くした俺のことを見つめている。無理もない。足元に転がる凄惨な光景を見て、いろいろとショックを受けているのだろう。


 最悪の場合、俺は家族との縁をここで切ることになる。


 不穏な未来を想像しながら、俺は口をひら——。


「——お兄様!」


「おっと!」


 言葉を発する前に妹のマリーが俺の懐に飛び込んできた。


 予想外の行動に目を見開く。


 すると、彼女は涙を浮かべて言った。


「ど、どうしてあのような無茶を……! お兄様がお強いのは護衛の騎士から聞いていますが、それにしたって一人で戦うなんて……!」


 睨むような目が俺の額を貫く。


 ——恐れられると思っていた。


 まるでバケモノを見るような目で見られると思っていた。


 だが、現実は違う。


 マリーも父も母も、俺を心配するような不安な目をこちらに向ける。遅れて、両親がこちらにやって来た。


「どうやら先手はマリーに取られてしまったようだね。我々の言いたいことをそっくりそのまま伝えてくれたらしい」


「まったく……。本当にあなたは、若い頃のお父さんにそっくりですね」


 父が苦笑し、母が呆れる。


 俺はどこか縋るように呟いた。


「お、俺が……気持ち悪くはないのですか?」


「気持ち悪い? なぜ?」


「なぜって……。そんなの決まってます! あんな簡単に人を殺して、容赦の欠片だってなかった!」


「人を殺したって……。お前は優しい子だね、ネファリアス。あれは盗賊。我々の命や人生、生活を脅かす存在だ。遅かれ早かれ騎士がその命を奪っていた。もしかすると状況が悪くて私が出ていたかもしれない。であれば、ネファリアスは騎士や私のことを【人殺し】だと言うのかい?」


「……言いません」


 それは違う。父も護衛の騎士もみんながみんなを守ろうとしただけだ。


 悪いのはそれを脅かす敵。


 父が言いたいのは……。


「そうだろう? だから気にするな。お前は正しいことをした。我々を守ってくれた。あんなに強い相手を前に、臆せず立ち向かった。それは誰にでもできることじゃない。実に誇らしいことだ」


 父もまた俺のことを抱きしめる。間に挟まったマリーがやや苦しそうな声を出す。


「お、お父様……。苦しいです」


「あはは! ごめんよマリー。でもいまは感動する場面だから我慢しておくれ。ネファリアスは急に大人びてしまったからね。そんなにやたらめったら走る必要はないんだよ。お前もマリーもまだ子供だ。ゆっくり歩いていけばいい。でも、ありがとうねネファリアス。自慢の息子だよ、お前は」


「お父様……!」


 やばい。泣きそう。


 まさかそこまでしっかり想っていてくれたなんて。


 俺にとっては転生先の家族以外の何者でもなかった。本当の意味で家族になりたいと願ったが、彼らはネファリアスの家族だ。


 俺の家族じゃない。


 それでも。それでも!


 みんな俺を受け入れてくれた。いくら変わろうと、俺らしくあろうとしても……受け入れてくれた。


 それが嬉しくて、俺も父を強く抱きしめる。


「ぐ、うぅ……っ。お兄様も苦しいですぅ……」


「あ。ご、ごめんよマリー。大丈夫?」


「平気ですが……。もっとマリーのことも抱きしめてください。お父様ばかりズルいです」


 ぷくうぅっ、と頬を膨らませるマリー。その様子に俺も父も揃って笑いながら同時にマリーを抱きしめた。


 マリーは嬉しそうに笑う。


「やれやれ……。それしてもネファリアスはどうやってあれほどの力を? 聞くところによると、あなたの【ギフト】は相当に変わったものだと聞いているわ」


「え? ああ、まあ。それのおかげですね」


 唯一、冷静な母は周りに転がる死体を眺めながらそう呟いた。


 いっけね。まだ家族には俺の【ギフト】のことを話してなかった。


 ちょうどいいし、これを機会にどんな能力か軽く説明しておこう。


 継続的に強くなれる力だとわかれば、みんな俺のことを応援してくれるだろうからね。




 一旦、話は終わる。


 魔物が死体の臭いに釣られて集まらないよう騎士たちが森の中へ投げ入れ、身包みはすべて剥ぐ。


 本当は死体も持ち帰って金に換えたいところだが、さすがに王都までぶら下げて歩くのは危険すぎる。


 腐って臭いし、魔物が寄ってくる。最悪、彼ら自体がゾンビになったりもするらしい。


 道を塞ぐ大量の死体を片付け、戦利品はすべて俺のスキルで収納し、馬車は再び動き出す。


 アイテムも経験値もガッポリ稼げたので満足だ。最悪の結末も回避し、俺はしがみ付いたままのマリーの頭を撫でながら笑う。


 まずは第一歩。理想のシナリオに近付くことができた。






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名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:システム

Lv:43

HP:5700

MP:2770

STR:90

VIT:70

AGI:70

INT:51

LUK:51

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv10】

【状態異常耐性Lv10】

ステータスポイント:49

スキルポイント:72

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