第25話 王都
盗賊たちと鉢合わせる、という予期せぬ状況に陥った俺たちアリウム男爵家。
だが、馬車を囲んだそいつらを俺が叩きのめしたことで、状況は変わる。
護衛の騎士たちは怪我することなく最悪の展開を避けられ、家族もまた無事だった。
これがアリウム男爵家に待ち受けていた悲劇だとしたら、俺は事前にそれを防ぐことができたのだ。
最愛の両親と妹のマリーを救うことができた。
まだ物語が始まるまでに猶予があるものの、すでにゲームを攻略したかのような気持ちを抱く。
そして、しばらく馬車が揺れ、途中の町に寄って宿泊すること数日。
とうとう、俺たちは王都に到着した。
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外壁に向かって馬車が走る。正門へ伸びる道には長い列が出来ており、そこに並ぶこと二時間。
アリウム男爵家の馬車は無事に王都の内側に入ることができた。
張り詰めていた俺の緊張感も一気に霧散する。
視界に飛び込んできた煌びやかな景色を眺めて、俺もマリーも感嘆の声を漏らした。
「わぁ……! これが王都ですか! すごく綺麗ですね、お兄様!」
「そうだね、マリー。アリウム男爵領とはぜんぜん違う」
「それはそうだよ。ここは王国の中枢。王族が住む王都だからね。ほら、見てごらん。あのひときわ高い建物が王族の住む王宮だ。今回のパーティーはあそこで行われるんだよ」
そう言って父が説明してくれる。
俺もマリーも同時に王城へ視線が伸びていき、その圧倒的なスケールにまたしても感動の声が出る。
「あれが王城……! なんだか今さらながらにドキドキしますね、お兄様」
「うんうん。王城に入ったマリーは、さながらお姫様のごとく、だね」
「そ、そんな! マリーが世界で一番可愛くて美しいお姫様だなんて~~~~!!」
「あはは。マリーに勝てる子はいないよ。たとえ……いや、それは不敬にあたるから言わないお約束だね」
ぶっちゃけそこまで言ってないが、たしかにマリーは世界で一番かわいい。本物のお姫様だってマリーの前では霞むほどだ。
けど、そこまで口にするとバレた時がやばい上、両親に怒られるかもしれない。ハッと口を閉じて、その代わりにマリーの耳に口を近づけた。
ひっそりと囁く。
「でも……本当に、俺にとっての一番はマリーだけだよ」
「~~~~!?」
マリーの顔が真っ赤に染まる。
いまにも爆発しそうな顔で口元がへにょへにょになり——。
きゅ~っ、と馬車の中で倒れる。
「もう……! なにをやってるのよマリー、ネファリアス。これから宿に着くんだから少しは落ち着きなさい!」
「ネファリアスのそういうところは、ぜんぜん私たちに似てないね。あははは」
「笑いごとではありませんよあなた! ネファリアスが将来、女性を誑し込むような男になってしまったらどうするのです!」
「それはそれで凄くないかな?」
「すごくない!」
父が母にシバかれていた。
俺はそれを眺めながらも倒れたマリーの看病をする。
——心配しなくてもいいよ、お母様。俺はべつに女性が大好きってわけじゃない。
いずれは自分の人生においてもっとも大切な女性を見つけ、その子と幸せになるだろう。
もしくは……すべてを背負って孤独に生きるか。
どちらに転んでもいい覚悟はできている。
だが、今だけは……。すべてが始まるまでは、マリーのそばに、両親のそばにいさせてほしい。
気絶したマリーの頭を撫でながら、そう俺は内心で呟いた。
▼
ゆっくりと石畳の上を進む馬車が、しばらく泊まる予定の宿の前に到着する。
貴族が利用する建物なだけあって結構な広さだ。馬車を降りた俺たちは建物の中に入る。
「お兄様、お兄様」
「なんだい、マリー」
馬車が宿に着く頃にはすっかり体調も回復したマリーが、笑顔で俺の服を引っ張る。
俺もまた笑顔で返事を返した。
「王都の観光はできますか? 私、お兄様と一緒に回りたいです」
「もちろんだとも。時間はあると思うよ。パーティーが始まるのも明後日だし、少なくとも明日は一日中暇だね」
「! では一緒に外へ出かけましょう。マリーはお兄様とデートがしたいです!」
「そうだね。せっかく王都に来たんだから観光くらいしないともったいないね」
「はい! お父様もお母様も二人でデートくらいしてくださいね」
「ま、マリー!?」
「気の利く娘だねぇ。ありがとう、マリー。せっかくだからお母さんを連れてデートしてくるよ」
「あ、あなたまで……そんな、冗談を……」
「冗談じゃないよ。それとも私とデートするのは嫌かい?」
「嫌なわけが……!」
イチャイチャ。イチャイチャ。
普段は俺らの前で親らしく振る舞う母も、父に迫られては形無しだ。
息子と娘の前で顔を真っ赤にして俯く。
そういうところはマリーも遺伝かな? と思いつつ、空気を読んで俺とマリーは自分たちの部屋に向かった。
「ふふ。明日が楽しみです」
「ああ。俺もだよ、マリー」
ようやく王都に来れたんだ……。
マリーとデートしながら、ヒロインの情報も少しは集めるか。
手始めに……あの奴隷の彼女の情報がほしい。
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