俺だけレベルアップする異世界で、悲劇の悪役がすべてを救うまで～クソゲーと言われた世界のシナリオをハッピーエンドへと導け！～

第23話 闇を払う

　盗賊たちのリーダーが剣を振り上げる。

　身の丈ほどの巨大な刃が、陽光を反射しながら俺の頭上におろされた。

　当然、俺は剣を盾にその攻撃を防ぐ。

　【ギフト】持ちらしい強烈な衝撃が剣を貫いて全身に降り注いだ。

　地面が砕け、しかし俺は平然と佇む。

　いまのが全力だとすると、俺のほうが筋力数値は高い。おまけに耐久力をガードの上から貫くほどの威力もなかった。いくら上段から振り下ろしてもダメージはない。

「——おらぁっ!!」

　次いで、攻撃を防がれた男は右足で蹴りを繰り出す。左手で殴り返そうとするが、その瞬間——不自然に俺の動きが止まった。

　なにを——。

　考える暇はない。

　男の蹴りが俺の側頭部を打ち抜く。

　パァン！　という破裂音のような音を立てて、俺は横に吹っ飛んだ。

　大してダメージは受けていない。すぐに体勢を戻すが、そこへ男が追撃をかける。

　向かって左から大剣が迫った。

　再び剣で防ごうとするが、その途中で不自然に腕が止まる。

　まずい。

　——喰らう！

　本能が咄嗟に上半身を動かして仰け反った。

　顔先数センチを剣が通りぬける。

　慌てて後ろへ退いた。

「なんだ……？」

　さっきといまの現象、まったく原因がわからない。

　恐らく相手の【ギフト】がもたらすスキルだろうが、それにしてはピンポイントでガードが妨害される。

　なにをされているんだ？

「ハハッ！　どうしたどうしたぁ？　こんなもんかよクソガキぃ！　さっきまでの威勢はどうした!!」

　考えてるあいだにも男が迫ってくる。

　——ガードが無理ならかわすまで。

　振るわれた剣を、今度は半身になって避ける。

　完璧な回避だ。攻撃は当たらない。

　最低限の動作で、最速の反撃に繋げられる。

　——そう思っていた。

「くっ——!?」

　かわす直前、なぜか俺の体が剣の軌道上に引き寄せられた。

　避けられると思っていたはずの攻撃が、目前に迫る。

　ギリギリ二つのあいだに剣を挟みこんで防御するが、無理な体勢からガードしたせいで完全に衝撃を殺せない。

　足腰にかなりの負担がかかる。

「チィッ！　いまのも防ぐのかよ、クソが！」

　男は全体重を乗せてくる。

　だが、それでも俺のほうが筋力は上だ！

　できるかぎりの力を込めて、武器ごと相手を後ろへ弾いた。

　すぐに距離をとって離れる。

　……危ないところだったが、おかげで相手のスキルがひとつ判明した。

「おまえ……俺を引き寄せてるな？」

「ハッ。さすがにバレるか。だが、バレたところで対処方法なんてねぇぞ？　人間を動かすのは力が足りねぇが、それでも十分に活かせる」

　たしかに。あの引き寄せはかなりウザい。

　けど、効果としてはほんのわずかなものだ。本来は武器や小物を遠くから引き寄せるための力だろう。

　それを戦闘にまで活かす発想には驚きだが、タネさえわかれば対処は簡単。

　パワーでゴリ押すか、スキルでゴリ押すか。

　より安全な後者を選ぶ。

「次で終わりにしてやるぜ！」

　そう言って男は剣を構えてこちらにやってくる。

　変わらぬ攻撃に変わらぬ慢心。

　そこを俺は突く。

　あえて、——なにもしない。

「あ!?」

　男が動揺する。

　体が剣の軌道上から逃れられないように引っ張られるが、それすら無視して俺は無防備な状態で相手の剣を受け止めた。

　当たる直前に、【硬化】のスキルを使って。

　——ガキィッン!!

　人間の皮膚に当たったとは思えない音が響いた。

　男の剣が、たしかに俺の左腕を捉える。しかし、その刃が腕を切り裂くことはなかった。

　薄皮一枚すら切れずに止まる。

「————は？」

　目を見開く男。

　なにが起きたのかわからないと言った顔だ。

　それを見て、俺は剣を振る。

　連続してスキルを発動できなかったのだろう。男は疑問を残したまま首を斬られた。

　地面にぽとりと落ちた男の生首を見下ろして、最後に教えてあげる。

「へたに防御しようとすれば邪魔される。自分の邪魔にもなる。なら、最初から攻撃を受けたうえで反撃すればいい。これなら、もっとも速く攻撃を当てられる」

　まさにスキルを活かしたゴリ押し戦法。

　この手の相手にはこれがよく利く。

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

　脳裏に恒例の報告が入ると、相手が死んだことを改めてわからされる。

　だが、俺はとくに気にせず視線を逸らした。

　その先で、馬車から出てきた両親たちとかち合う。

　どこか怯えた様子で三人は俺を見ていた。

　今さらながらに、ごくりと喉を鳴らす。