第21話 悲劇のとき

 自領のそばにあるダンジョンを攻略した俺。


 それからは、ダンジョンと自宅を往復する日々を過ごした。


 さすがにレベルが上がれば上がるほど、必要になる経験値量は増えた。次第に、効率の悪さを感じはじめる。


 しかし、新たなレベリング方法を模索するよりも先に、とうとう、王都行きの日がやってくる。


 アリウム男爵家の家紋が入った馬車を前に、我ながら子供らしいワクワク感が胸を満たす。


 乗り込んだ両親やマリーに続いて、最後に俺が馬車の席に腰をおろした。


 扉が閉まり、馬が走り出す。


 遠ざかっていく自宅を眺めながら、王都にあるダンジョンへ夢を馳せる。


「王都、楽しみですねお兄様」


 そんな俺の耳に、横からマリーの声が届いた。


「うん、俺も楽しみだよ。マリーはどこへ行きたいかもう決めたの?」


「いえ、まだです。お父様たちの話だけだとよくわからなくて……。実際に自分の目で見てから決めようと思います」


「マリーらしい考えだ。パーティーを除けば1週間くらいは滞在するらしいから、じっくり楽しむといいよ」


「はい!」


 元気よく答えるマリーに、正面から父が言う。


「楽しむのもいいけど、本来の目的を忘れないでくれよ? ネファリアスはともかく、マリーには婚約者候補を探すっていう仕事もあるんだから」


「…………興味ありません」


 ツーン、とマリーが顔を逸らす。冷たく言われて父が哀しそうに涙を浮かべた。


「ダメよマリー。ネファリアスは家督を継ぐためにやるべきことがたくさんあるけど、あなたには結婚して幸せになってほしいの」


 母が父に助け船を出した。


 しかし、マリーには通用しない。


「結婚するだけが幸せではないと思います。例えば、お兄様のお手伝いをするとか。それなら結婚しなくても良いしみんなが幸せになれます」


「ネファリアスが結婚したらどうするのよ……」


「構いません。お兄様は世界で一番カッコイイ男性です。誰もがお兄様の魅力に落とされてしまうでしょう。それは仕方のないことです」


「どういうこと?」


 さすがに突っ込む。


 だがマリーは華麗にスルーした。


「私とて子供じゃありません。お兄様の結婚くらい許容します。嫌ですけど、いずれ家督を継ぐ子供を誰かに産んでもらわねば、アリウム男爵家が潰えてしまいますからね。嫌ですけど」


「ぜんぜん子供じゃん……」


 本音が漏れてるよ本音が。


 嬉しいけどさ。


「ですから、私はあくまでお兄様を支えるだけの立場に甘んじます。おまけで慰みをもらえる程度の立場で我慢します。子供さえ産まれれば相手を追い出してもいいですしね。むしろ私が産みたい」


「「…………」」


 もはや兄への好意を隠そうともしないマリーを見て、両親の視線が俺に突き刺さる。


 ——こっちを見られても困るんだが?


 それで言ったら俺だってマリーの相手は厳選に厳選を重ね、俺より強い相手を選ぶ。


 せめて勇者くらい強くないと無理だ。世界を救えるくらいでようやく許せる。


 ……うん。はい。俺も超絶シスコンですがなにか?


 両親を睨み返すと、二人はどこか諦めたようにため息をついた。


「もっと早くに二人を引き離すべきだったかしら……まさかここまで重症だったとは思わなかったわ」


「そうだね……僕もびっくりだよ。一体どうしてこうなったのか……」


「絶対にネファリアスがマリーを甘やかしたせいね。最初は普通だったもの」


「ネファリアスはマリーが生まれた頃から可愛がってくれたからねぇ。目に入れても痛くないよ! って言ってた言ってた。あはは」


「笑い事じゃないでしょ! あなたがそうやってなにも言わなかった結果がこれじゃない! いつもいつも私にばかり……!」


 あ、父さんが母さんに首を絞められている。


 よくある喧嘩なので俺もマリーも止めたりしない。


 二人で仲良く談笑を続けた。




 ▼




 馬車が街を出て数時間経つ。


 見慣れた景色はどこかへ消えて、周りには自然と踏み固められた街道、それに俺らを守るための護衛騎士しか見えない。


 この退屈な時間があと2日は続くのかと思うと、若干気が滅入る。


 なにかマリーと話でもしようかと思って首を横に向けた——そのタイミングで。


 馬車が急に停まった。


「「「「——ッ!?」」」」


 いきなり急停止したせいで、俺もマリーも両親のほうへ放り出される。


 俺は母に。マリーは父に激突した。


 幸いにもそこまでの衝撃はない。揃って顔をあげる兄妹の安否を確認したのち、父が大きな声で御者を呼んだ。


「おーい! どうした? なにかあったのか!?」


 すると、御者ではなく周りを囲んでいた護衛の騎士が返事を返す。


「旦那様! 馬車から出ないでください! 賊が出ました!」


「ぞ、賊!?」


 その言葉に、全員が顔色を悪くする。


 中でも俺は、この状況に嫌な予感がした。


 そこへ、馬車の外から野太い声が響く。


「ハハハ! 閉じこもっていようと関係ねぇ。お前らを殺して、女子供は奴隷行きだ!」


「————」


 やっぱり、なのか?


 コイツら、なのか?


 複数のピースが脳裏で組み合わさり、最悪の答えを俺に告げる。


 外にいる賊が……やがて、ネファリアスの運命の変える存在かもしれない、と。


 恐れていた瞬間が、とうとう訪れた。






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名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:【システム】

Lv:41

HP:5600

MP:2710

STR:90

VIT:70

AGI:70

INT:51

LUK:51

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv10】

【状態異常耐性Lv7】

ステータスポイント:43

スキルポイント:66

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