第20話 報酬うまうま

 ダンジョンの最奥にいたのは、死霊系モンスターの【デュラハン】だった。


 白銀の鎧にひと振りの剣。空いたもう片方の手には、自らの首が握られている。


「デュラハンか……ちょっとだけ面倒な相手だな」


 コイツ自体はさほど強くない。勇者だったら恐らく瞬殺できるだろう。


 だが、俺との相性はかなり悪い。


 死霊系統はただでさえ弱点属性が希少な光属性なのに加え、デュラハンは見たまんまの鎧姿だ。


 普通に斬りかかってもまともなダメージは与えられないだろう。


 悪魔戦の時と同じく、素手による近接格闘で殴り倒すしかない。


 剣を鞘に納めてポキポキと手を鳴らす。


 俺が近付くとデュラハンは動き出した。


 地面に突き立てられた剣を抜き、濃密な殺気を放つ。


 ——それ以上こちらに来れば斬る。


 そう言ってるように見えた。


 しかし関係ない。


 ここまで来てひいてられるかよ。悪魔という明確な格上が現れた以上、俺に撤退の文字はない。


 拳を強く握りしめ、勢いよく地面を蹴った。


 デュラハンが迫る俺の顔に向けて、剣を振り下ろす。


 体を横に捻ってかわした。


 引いた腕を力のかぎりデュラハンの胴体へと叩きつける。


 クリーンヒット。


 衝撃でデュラハンが後方へ吹き飛ぶ。


 さすがSTR80。


 悪魔戦のときはまったく通用しなかったが、デュラハン相手なら十分に数値は足りている。


 わずかにへこんだ鎧を見て、にやりと笑った。


「いいじゃん。やっぱ戦いには筋力だよなぁ!」


 言って、地面を蹴る。


 再び交差する俺とデュラハン。


 デュラハンは左右から剣を振って迎撃しようとするが、AGIの面でも俺のほうが上だ。軌道を見てから余裕で回避できる。


 そして、またしてもデュラハンの鎧に俺の拳がぶつかった。


 メキメキッと鈍い音を立てる。


 攻撃範囲が短い分、相手の懐にさえ入れれば剣の有利を覆せる。


 胸元。腹部。腕。膝。


 目につく部位へ手当たり次第に拳を浴びせる。


 気付けばデュラハンの装備はボロボロになっていた。


 死霊系の相手に対して物理攻撃が有効なのは笑えるな。


 かと言って魔法系のスキルは【治癒】しか持っていない。


 途中で【浄化】のようなスキルを取得すればもっと簡単に倒せるだろうが、殴り倒せるならポイントがもったいない。


 取るならもっと汎用性の高いスキルを優先したかった。


 なので。


 デュラハンには申し訳ないが、このまま殴られ続けてもらう。


 ひしゃげ、凹み、割れる。


 もはや原型を留めないほどに破損した鎧に、最後の一撃が打ち込まれた。


 とどめは心臓。


 金属が砕かれ、生前のデュラハンの青い皮膚が見える。


 同時に後方の壁まで吹き飛び、重力に従って地面に落ちた。


 受身をとる余裕すらなく、地面を数回バウンドしてから止まる。


 ぴくりとも動かない。


 少しして、


『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『ダンジョンクリアボーナスを与えます』

『ソロクリア報酬を与えます』

『装備:亡霊の剣』

『スキル:状態異常耐性』


 というシステムの音声が脳裏に響くのだった。




 ▼




 ほぼ一方的なデュラハンとの戦闘が終わる。


 大量の経験値と報酬を得た俺は、自らのステータス画面を開いてにやけた。


———————————————————————

名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:【システム】

Lv:35

HP:5300

MP:2530

STR:90

VIT:70

AGI:70

INT:51

LUK:51

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv10】

【状態異常耐性Lv7】

ステータスポイント:25

スキルポイント:48

———————————————————————


「結構あがったなぁ……。苦戦しない程度の雑魚と考えると、ダンジョンってめっちゃウマウマ」


 しかもダンジョンをソロ攻略したことにより、デュラハンが使っていたと思われる【亡霊の剣】と、かなり頼りになりそうな【状態異常耐性】を手に入れた。レベル7とかお得すぎる。


 さらに道中、多くの魔物を倒したことにより魂を集め、ステータスにオール+10が与えられている。


 ガッポガッポすぎて逆に怖いくらいだ。


「もっと上のダンジョンに潜ったら、一体どれだけ強くなれるんだ……? はー……いまから王都行きがクソ楽しみな件」


 たっぷり5分ほどステータス画面を見つめてから閉じる。


 次いで、【アイテムボックス】から【亡霊の剣】を取り出した。


 【亡霊の剣】は、不思議と禍々しいオーラを放つ西洋剣。


 頑丈そうなのと振り回しやすい以外の利点が見つからないが、報酬ってくらいだから強いよね? これ。


「それで? この剣の性能はどうやって確かめればいいんだ? 装備欄?」


 メニュー画面に表示されている【装備】ボタンをクリック。


———————————————————————

武器:

頭:

腕:

手:

胴体:

足:

———————————————————————


 ……ふむ。この中にドロップでもすればいいのかな?


 試しに装備画面に【亡霊の剣】を近づけてみる。


 すると、剣が画面に触れた瞬間——。


———————————————————————

武器:【亡霊の剣】

頭:

腕:

手:

胴体:

足:

———————————————————————


「あ、追加された」


 どうやら俺の考えは正しかったらしい。


 画面に新たに表示された文字をタップする。


———————————————————————

【亡霊の剣】

個体名:デュラハンが持っていた武器。

デュラハンの憎しみと呪いが込められている。

効果:STR+15 攻撃時、呪い付与(低確率)

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「ほーん。結構いいじゃん。でも、わざわざ装備に入れないと確認できないのはめんどくさいな……。あんまり装備ってないのか?」


 微妙に不親切なシステムに悪態をつく。


 だが、装備が追加されたことで俺のステータスはさらに伸びた。


 こりゃあいい。


 レベルを上げる以外にも強くなれる方法を見つけてしまった。


 本当に……俺はどこまで強くなれるのかな。


 湧き上がる高揚感を抑えながら、地上へ戻る。


 今後もダンジョンを見つけたら優先的に荒らしていこう。そう、決意するのだった。

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