第19話 ぶち殺し

 悪魔との戦闘終了後、街で傷んだ服を着替えてから自宅に戻る。


 新品の服が増えて、そろそろマリーへの誤魔化しが効かなくなってきた。


 それでも俺は、立ち止まれない理由が増えてやる気だけを募らせる。


 ひとまずダンジョン攻略を優先し、次の日にはアリウム男爵領の近くにあるダンジョンへと足を運んだ。


 アリウム男爵領のそばにあるダンジョンは、いわゆる洞窟型と呼ばれるタイプのダンジョンだ。


 複雑に入り組んだ内部構造は、侵入者を罠と魔物で誘い殺す。


 【ギフト】を持たぬ者が挑めば、たちまちの内に死んでしまうだろう。


 それだけダンジョンは恐ろしい場所である。


 ただ、ダンジョンにはもちろん利点もある。


 一つ。魔物が多い。地上より圧倒的な数の魔物がダンジョンには生息している。


 二つ。魔物が多いということは、それだけ経験値も多い。


 三つ。金を稼げる。手に入れたアイテムを売れば一角千金も夢じゃない。残念ながらアリウム男爵領にあるダンジョンでは無理だと思うが。


 四つ。装備も落ちる。これがかなり重要。


 国から強力な装備を貸し与えられる主人公と違って、俺はすべて自費で賄わなければいけない。


 今後、アリウム男爵の下から離れればなおさら金策に苦労するだろう。


 少しでも旅立ちまでに金を集めねば。


 そういう意味だと、王都のパーティーの件は悪くない。


 王都に行けるなら、その周辺にあるダンジョンに挑めるってことだ。


 王都なら両親からの許可も下りるだろう。……下りるかな? 下りないよねぇ……うん、こっそり家を出よう。


 次に王都へいけるのは、いつになるかわからない。


 というか、いっそ王都に滞在し続けるのも良案だ。家族だけ帰らせて、そこで別れれば再会はかなり遠ざかる。


 プランAとして保留にしておこう。


 意識を現実に戻し、ダンジョンの中へと踏み出した。


 ゲームでは特定のダンジョンしか攻略できない。ストーリーに関係したダンジョンしか俺は知らない。


 その中にこのダンジョンは含まれていないため、完全初見で攻略しないといけない。


 わずかな不安が脳裏を過ぎり、まるでそれを察したかのように奥から魔物が現れる。


 一匹や二匹じゃない。


 色とりどりの、種族すらも違う魔物がこちらへ押し寄せる。


 そこには会話のようなものはなく、すべての個体が殺意を同時に向けてきた。問答無用で殺しにくる。


「……いいね。そうこなくっちゃ」


 わかりやすくて助かる。


 目の前で命乞いとかされたら、まるで俺が悪者みたいになるじゃん?


 どうせ殺すなら、相手も殺す気まんまんで挑んでくれたほうがいい。


 そっちのほうが、遠慮なくぶっ殺せる。


 剣を鞘から抜いて、減速することなく迫る魔物へ向けた。


 戦闘がはじまる。




 ▼




『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』


 本日何度目かのレベルアップ報告を聞いて、俺は盛大にため息をこぼす。


「ハァ~~~~! どんだけ来るんだよ……」


 剣を地面に突き刺すと、足元に大量の魔物の死体が転がっていた。


 もはやほとんど足場もない状態だ。


 最初は10体ほどだったのに、戦闘音を聞きつけて奥からワラワラ出てきやがった。


 おかげでレベルは上がったが、序盤で一気に体力を減らされた。


 さすがはダンジョン。


 ゲームの頃よりよっぽど凶悪になってる。


「これ、今日中にボスまで辿り着けるのか? それとも、道中の雑魚はほとんど殺したとか?」


 前世であったマップ機能が使えないからなんとも言えない。


 現実になったことで、ゲームの頃より不自由だ。


 その不自由も本来なら楽しめる要因なんだろうが、さっさと強くなりたい俺からしたら困る。そりゃあ、雑魚を殺戮するよりボスを周回したほうが経験値いいからね。


 どんなボスがいるかは知らんが、出会ったら覚えとけ。


 まとめて経験値に変えてやる……!


 逆にやる気を漲らせる俺は、魔物の死体を【アイテムボックス】にぶち込みながらさらに奥を目指す。


 薄暗い洞窟内に、俺の息遣いと剣の音、魔物たちの悲鳴が響き続けた。




 ▼




 ダンジョンに潜ること数時間。


 すでに時間の感覚は曖昧だ。


 メニュー画面に時計の機能があればよかったなぁ……と思いながらも無言で進む。


 気が付けば夥しい量の血が服に付いていた。


 結局こうなるのかと前回の反省をなにも活かせていない自分に苛立つ。


 いっそ裸で戦ってやろうかと思った。近くには誰もいないしね。


 まあやらんけど。尊厳までは捨てたくない。


 そんなこんなでさらに体感1時間ほど。


 ようやく、ダンジョンの終わりが見えてきた。


「あれは……!」


 ひらけたエリアに出る。


 わずかな明かりによって照らされたそこには、首を持たぬ白銀の騎士が立っていた。


 見覚えのあるモンスターだ。たしか名前は……。




「——デュラハン」


 死霊系に属するモンスターだったはず。


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名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:【システム】

Lv:31

HP:4600

MP:2110

STR:80

VIT:60

AGI:60

INT:41

LUK:41

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv10】

ステータスポイント:13

スキルポイント:36

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