第18話 強すぎる
俺が剣を構えたことにより、悪魔もまた動き出す。
先行は悪魔。
ゆったりとした動きで身を屈めると、——次の瞬間には目の前にいた。
「ッ——!?」
反応がやや遅れる。
それでもなんとか振り上げた悪魔の拳を、剣でガードすることに成功した。
しかし。
「ぐぅっ——!?」
ガードしたにも関わらず、悪魔の腕力は想像を絶した。
防御の上から衝撃が体に伝わる。
踏ん張りが利かずに後方へ吹き飛ばされた。
数回ほど地面をバウンドしてから体勢を戻す。その頃には、すでに背後に悪魔がいた。
——クソッ! 速すぎるだろ!!
咄嗟に剣を振るが、俺の剣身は悪魔の首元に当たって甲高い音を立てた。
金属を叩いたかのような振動が伝わる。
——はあ!? 一ミリも肌に刃が通らんのだが!?
STR80の攻撃でさえ、悪魔の肌に傷をつけることはできなかった。
この時点で、俺の勝率はほぼほぼゼロに近い。送還するかどうか悩む。
けれど、思考を巡らせる暇すらなく悪魔の蹴りが入る。
今度は腕でガードした。
バキバキと嫌な音を立てて吹き飛ぶ。
世界が回っているかのような錯覚を抱きながらも、どうにか体勢を立て直す。
だが、片腕が動かない。完全に折られている。
「マジかよ……。こんなに実力差があるなんて聞いてないじゃん」
ひとまずスキルを使って腕を治す。
激痛に苦悶の表情を浮かべながらも我慢していると、離れた位置から悪魔が魔法を撃ち込んできた。
闇色の球体が足元に飛来する。
後ろへ飛んで避けると、地面に巨大なクレーターができる。
そして、球体は消えない。地面に留まりながら周囲の万物を引き寄せた。
重力の発生。
空中では踏ん張ることもできずに引き寄せられる。
そこへ、影響を受けていないと思われる悪魔が迫った。
「————【硬化】!」
咄嗟にスキル名を叫んだ。
迫る拳に合わせて体を硬くする。
しかし。
「がっ——!?」
硬化した状態でさえも、ダメージが内側を貫く。
骨が折れることはなかったが、盛大に血を吐いて何度目かの吹き飛ばしを喰らう。
そうして再び重力が俺を引き寄せ、悪魔が拳を握る。
——まずい。無限コンボに入った。このままだと死ぬまで殴られ続ける!
剣を捨て、眼前に現れた悪魔に拳を突き出す。斬撃が効かないなら、今度は殴打。
互いに互いの拳がぶつかる。
俺は辛うじて【硬化】があるからまだ凌げる。
対する悪魔は、素のステータスが高すぎて全然ダメージが入らない。
剣よりはマシな程度である。
そこで完全に悟った。
いまの俺じゃあ絶対にコイツは倒せない。無限に近い時間をかけても恐らく勝敗は明白だろう。
「クソッ……」
——手も足も出ないことが悔しかった。
強くなったつもりでいた。どこかに傲慢と驕りがあった。
——俺はまだ弱い。
少なくとも物語後半でこの悪魔を主人公は倒す。
この悪魔を倒せるくらいにならないと、魔王討伐なんて夢のまた夢だ。
唇を強く噛みしめて、最後にじろりと悪魔を睨む。
悪魔の表情に変化はない。楽しそうでもないし、苦しそうにも見えない。
ただ機械のように淡々と戦闘をこなしていた。
それが【システム】によって作られた存在だからかどうかは知らない。
けど、次こそは……もっと強くなってから、必ずおまえを殺す!
そう心に誓い、悪魔の膝蹴りを受けてはるか後方へと吹き飛ばされた。
もはや立ち上がる気力すらない。
地面に叩きつけられながら、数十メートル先まで転がる。
全身がボロボロだ。ありえないほど血を流した。マリーにバレたら面倒だな……。
やがて運動エネルギーが消え、長く地面を抉った俺は止まる。
仰ぎ見える青空は、いまの俺の心境とは真逆の色を浮かべていた。
死に掛けているのに、思わずその光景に魅入る。
そこへ、追撃を加えにきた悪魔が視界に映った。
バチバチと紫電をまとった拳が迫る。呆然とその光景を見つめながら、俺は小さく呟いた。
「……送還」
すると、パッと悪魔が消えた。
いままでのやり取りが嘘のように、ボロ雑巾になった俺だけが残る。
「————【治癒】」
すべて終わり、体の傷を治してから起き上がった。
……完全なる敗北だ。
「まだまだ……強くなる意味ができたな」
拳を握りしめながら、悔しげにそう呟いた。
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