第17話 召喚権

 ぐっすりと眠って翌日。


 早朝に目を覚ました俺は、すっきりとした気分で起き上がる。


 目をごしごしと擦ってから、気だるい体を縦に伸ばす。


 今日はダンジョン攻略日和。


 だが、ダンジョンを攻略する前に調べておきたいことがあった。


 昨日はあまりの眠さに忘れていたが、俺のギフトに新たな項目が追加されている。


 マンティコアを倒した際に獲得した【召喚権】だ。


 字面から察するに、なにを呼び出すためのシステムだと思われる。


 メニュー画面を開き、早速、召喚権をクリックした。


 すると、これまでと違ってウインドウの画面が切り替わる。


 半透明の板に白い文字が刻まれていく。


『現在のレベルで【召喚権】を使うと、最悪の場合、個体名:ネファリアス・テラ・アリウムが死亡する恐れがあります。途中で送還することはできますが、くれぐれもご注意ください』


「…………はあ?」


 召喚権を使ったら俺が死ぬ?


 ってことは、呼び出すのはやっぱりモンスターの類か。それも、どうやら俺と敵対するタイプのやつを呼び出すらしい。


 さらに、呼び出したやつはクソ強いことが確定した。少なくともマンティコアと同等かそれ以上ってことになる。


 正直、すっごく気になった。


 敵の力量が、——ではなく、そいつを倒したときに貰える報酬が。


 これまでのギフトの恩恵を考えると、より強い相手と戦ったほうが得るものが大きい。


 きっと想像を絶する報酬が待ってるはずだ。言わば、【召喚権】とは俺に対する試練。乗り越えるための壁だ。


「どれくらい強いか、ダンジョンに行くまえに確認しておくか」


 倒せそうなら倒す。無理そうなら送還してダンジョンでレベル上げだ。


 ついでに盗賊から巻き上げた装備品の確認や、ステータスの割り振りなどを行ってから部屋を出る。




 ▼




 家族と一緒に朝食を食べてから、日課の剣術による鍛錬を挟んで午後。


 昼食をすべて平らげた俺は、家族の目を盗んで家を飛びした。急いで人気のない外の森へ足を運ぶ。


 連日のように外出していたなど家族に知られれば、間違いなく長時間の説教を喰らうだろう。


 それに怯えながらも、俺はレベリングしなきゃ済まない思考に陥っていた。


 これも【システム】をくれた存在の思惑どおりかと思うと、ちょっとだけ気に喰わなかった。


 でもいい。感謝はしてる。


 足を舐めろと言われれば舐められるくらいの恩がある。


 だから俺は、言われたとおりに強くなる。いつかすべてを超えるために。


 そして、ある程度街から離れたところで足を止める。


 ここまで離れれば戦闘の音は届かないだろう。


 メニュー画面を開き、もう一度だけステータスを確認してから【召喚権】をクリックした。


『現在のレベルで召喚権を使うと、最悪の場合、個体名:ネファリアス・テラ・アリウムが死亡する恐れがあります。途中で送還することはできますが、くれぐれもご注意ください』


 またしても同じ警告文が表示されるが、それを無視して「はい」のボタンを押した。


 すると、数メートル先の地面に紫色の魔法陣が描かれる。


 バチバチと凄まじいエネルギーが集束し、やがて、その不気味な光がひとつの形を作り上げた。


 人型の男性。


 黒い角を生やし、同じく黒い翼を持った……ゲームで見たことのある【悪魔】が、俺の前に現れる。


 思わず数歩うしろに下がって呟いた。


「おいおい……嘘、だろ?」


 まだ物語は始まってすらいないというのに、ゲーム後半で出てくるモンスターがなぜ目の前に!?


 漆黒の瞳をこちらに向けた悪魔は、感情のそげ落ちた顔でジッと俺を見つめる。


 いまだ戦闘態勢にすら入らないところを見ると、俺がなにかアクションを起こす必要があるらしい。


 まったくもって勝てる自信はなかったが、不思議と俺は鞘から剣を抜く。


 さっさと送還しろよ、という内なる自分の声をかき消して、一歩、また一歩と前に出た。


 ああ、ダメだ。逃げ出したくない自分がいる。


 勝てないとわかっていても、上を見たくてしょうがない。




「ハハッ……。とっくに俺は、狂っちまったみたいだな」


 戦闘が始まる。






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名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:【システム】

Lv:27

HP:4400

MP:1990

STR:80

VIT:60

AGI:60

INT:41

LUK:41

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv10】

ステータスポイント:1

スキルポイント:23

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