第15話 不穏な運命
自宅に戻る。
帰る途中で服を買った。人のいない場所で着替えた。
マンティコアも【アイテムボックス】の中にあるし、装備も入れた。
途中、誰にも会わないように気をつけて部屋に戻った。
……それだけして、なんとかマリーの疑惑を欺く。
いやぁ、帰って早々にマリーが部屋に来たときはマジでビビった。口から心臓が出るんじゃないかってくらいビビった。
けど、扉を開けるまでに心を落ち着かせて対応したおかげでなんとかなる。
最初は、「お兄様……なにか変な臭いがしませんか?」とヤンデレ娘みたいな台詞が飛び出してきたが、「え~? 気のせいじゃない?」と笑って無理やり誤魔化した。
しばらくマリーは疑っていたが、傷もないし服も新品だから誤魔化せたと思う。
唯一、
「そう言えば、なぜお兄様は新しい服を着ているのですか? いつの間に購入を……」
と言われて白目を剥きそうになった。
なんでマリーは俺の私服を把握してるのかな? たしかに買ったばかりの服ではあるが、普通、兄の私服をすべて記憶しておく?
妹の隠れた? 一面を見た気がする。
……うん、ぜんぜん隠れてなかったわ。
「? どうかしましたか、お兄様」
「いやなんでも。今日もマリーは世界一かわいいなぁって」
「——ッ! そ、そんなことありません! お兄様は世界一かっこいいですけどね!」
ぷいっとそっぽを向くマリー。
ああ可愛い。宇宙一かわいい。もはや女神。
マリーがいてくれるだけで、俺は永遠に頑張れる。家族がいてくれるから、人を殺したあとでも笑える。
一人だったらきっと罪悪感に押し潰されていた。
こみ上げる喜びと愛おしさ。それに従ってマリーの頭を撫でる。
「ん……」
気持ち良さそうにマリーが頬を緩めた。
これが、俺の守りたい日常だ。
「ねぇ、お兄様」
「なんだい?」
「盗賊がいなくなったら、私とデートしてください。しばらく家に引きこもってると退屈です」
「デートか。それくらい別にいいよ。なにを買おうか」
「別にものが欲しいわけではありません。お兄様と一緒に過ごしたいだけです」
「それなら家でもいいんじゃ?」
「もう! 乙女心を察してください!」
ぽかぽか。胸元を叩かれる。可愛い。
「あはは。ごめんごめん。わかってるよ。デート、楽しみだね」
「……はい!」
▼
マリーと穏やかな時間を過ごして夜。
仕事を終わらせた両親とともに夕食の席に着く。
「ふう……疲れた」
「お疲れ様です、あなた」
「どうしたんですか、お父様。普段より疲れてる様子ですが」
父の疲労顔にマリーが首を傾げる。
「そうかな?」と言って父は笑うが、たしかにいつもよりお疲れだ。
「前に話しただろ? 盗賊の件だよ。一応、騎士に見回りさせてるんだけど、音沙汰もなくてね。食料とかの問題もあるだろうから、そのうち街にも寄ると思ったんだけど……これがサッパリで。手掛かりもなにもないから、仕事だけが増えて困るよ」
「大変ですね……」
「まあね。でも、いなきゃ居ないでいいんだ。街のみんなも平和に過ごせるしね」
「もしかすると街の外で魔物でも狩って生活してるかもしれないね」
しれっと俺は言う。
ほんとはその盗賊を何人か殺してきましたよ、とは言えずに。
「なるほど。それは一理あるね。だとしたら、個人的にはさっさとどこかへ消えてほしいものだよ。わざわざ僕の領のそばに来なくても、ね」
「コソ泥の考えることなんてそんなもんだよ。本当の大悪党は、王都とかにいるだろうし」
これは本当の話だ。後にわかる。
「あー……そうだそうだ。忘れてた。二人に話があったんだ」
「「話?」」
俺とマリーが同時に反応を示す。
「うん。だいたい2週間後くらいかな? みんなで王都に行くよ。国王さま主催のパーティーが行われるんだ。緊急性のある用事がないかぎりは出席するように言われている」
「王都……パーティー?」
二つの単語に妙な引っかかりを覚える。
だが、答えは出ない。
モヤモヤとした気持ちを引きずりながらも、父の話に耳を傾ける。
言い知れぬ不安要素が足元に這いずっていることを、この時の俺は気付かなかった。
仮に気付いていたしても、どうしようもなかったわけだが……。
運命が大きく動き出す。
本当の試練は——ここからだった。
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