第13話 力と力のぶつかり合い

「…………マンティコア、か」


 人の顔に獅子の体。体長10メートルにも迫ろうかという巨大な魔物と遭遇する。


 前回のオーガの比ではない。今度こそ確実に最悪の状況に陥った。


 しかし、俺をさして脅威として見ていないのか、マンティコアは地面に転がる死体を食べている。


 ——いまなら逃げられるか?


 そう思ってわずかに後ろへさがる。


 すると、マンティコアの剣呑な眼差しが向けられた。


「……なんだよ、おい。逃がすつもりはないってか? 貪欲なやつだな」


 どうやら食事を優先しただけだった。俺を逃がす気はないらしい。


 もぐもぐとあっという間に盗賊たちが食べられる。装備を奪っておいてよかったと言うべきか悩む展開だな。


 マンティコアが放つ威圧感に負けて、俺はその場から動けないでいた。


 せめて少しでも可能性を見い出すために、意識のみでステータス画面を開いて能力値を増加させる。


 スキルまで考慮してる暇はないので、この場を生き抜いてからそれは考えよう。


 ひとまず、ステータスを伸ばす。


———————————————————————

名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:【システム】

Lv:20

HP:2700

MP:970

STR:50

VIT:40

AGI:30

INT:21

LUK:21

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv5】

ステータスポイント:0

スキルポイント:42

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 STRとVITを増やした。これで少しくらいは相手になるはずだ。


 食事を終わらせたマンティコアがこちらに視線を向ける。


 俺は剣を抜いた。


 同時に、マンティコアが地を蹴る。


 素早い動きで俺との距離を詰めると、前足を上から振り下ろした。


 横に避ける。


 着地と同時に、今度は俺が地面を蹴った。剣を構えて後ろ足を斬る。


 だが、マンティコアはそれを避けた。


 虚しく剣身が空を斬る。


 いまのところお互いの速度にはそこまで差はない。


 問題は、STRとVIT。


 ここに差があるとそれだけで勝利がグッと遠ざかる。


 極端な話、貫通できないほどの防御力を有してたらお手上げだ。永遠に殴り続けても殺せないのだから。


 頼むからそれだけは許してくれ!


 そんな思いとともに、なおも俺は剣を振る。


 マンティコアの攻撃は、基本的に大振りが多い。そのため、隙も多く反撃のチャンスが山ほどあった。


 いずれ、俺の攻撃も当たる。


「——固い! が!」


 ダメージは入った。その証拠に、マンティコアの腹部にわずかな血の痕が見える。


 いける。勝てる。殺せる。


 持久戦になる可能性は高いが、勝率が1パーセントでもあるなら諦めない。


 全意識を戦闘に傾け、思考すらも加速させる。


 しかし、決定的な一撃が足りない。


 こちらはただでさえ攻撃を避けるのに手一杯で、それらしいダメージを与えられない。


 なにか、なにかないのか!? この均衡を崩せるような一手は!


 内心で叫ぶ。繰り返される攻防にストレスが溜まり、思わず焦った。


 焦り、マンティコアの攻撃を受けてしまう。


 前足によるなぎ払いが直撃。凄まじい衝撃を受けて後方へ吹き飛ぶ。


 2、3本の樹木をへし折って地面を転がった。全身を激痛が巡る。


 口から大量の血液を吐き散らし、忌々しげに前方のマンティコアを睨んだ。


 マンティコアは嬉しそうに笑う。ようやく均衡が崩れて楽しそうだ。


「ぐ……がっ!」


 気持ちの悪さに血を吐きながらも立ち上がる。


 剣を構え、続きを求めた。


「まだ……まだだ! ——【治癒】!」


 スキルを使って体力を回復。体が少しだけ軽くなる。


「なにもう勝った気でいやがんだ、てめぇ。勝負かここからだろうが……!」


 十分に動けるくらいまで回復すると、再び俺はマンティコアの下へと迫る。


 にやけ顔のまま攻撃してくるマンティコアに剣撃を叩き込み、ふと、ある一点を睨む。


 ——あそこなら!


 思考がまとまるより先に行動に移していた。


 純粋な暴力をくぐり抜け、マンティコアの腕を蹴り上げて跳躍する。


 当然、マンティコアは上を向く。


 お互いの視線が交差し、俺は迷いなく剣を横に振った。


 マンティコアは防御が遅れる。剣身がやつの両目を切り裂いた。


「そこは鍛えられねぇだろ」


 やり返せたことに満足げに笑う。


 痛みに呻き、怒りに任せてマンティコアは腕を振った。


 そのうちの一発が俺に当たる。スキル【硬化】が間に合ったがそれでも吹き飛ばされた。


 地面を一度だけバウンドして、くるりと体勢を直して着地する。


 血を吐いた。けどそこまで痛くない。咄嗟に【治癒】スキルを使って回復すると、間髪入れずに突っ込む。


 相手は視力を失った。片や俺は、【治癒】スキルがあるからまだ戦える。


 流れは完全に奪った。一撃入れて油断するからこうなる。


 魔物特有のごり押しに感謝しつつ、俺はその後も剣を振るい続けた。


 マンティコアか自分が倒れるまで。




 ▼




 ……。


 …………。


 ………………。


 戦闘が終わった。


 俺は血だらけで地面に横たわっている。見上げた先の空が青い。しかしかすかなオレンジ色を宿しはじめた。


「……あーあ。完全にマリーに怒られるやつだ」


 そう言って横を向いた。体が痛む。


 だが、視線の先には裂かれた両目を見開く——マンティコアの死体が転がっていた。


 ギリギリである。


 今回も腕を折り、最後の最後で足まで折られた。【治癒】スキルがなかったら確実に死んでるくらいの血も流した。


 本当に、なにかひとつでもステータスやスキルが足りなかったら死んでたと思う。


 ——でも勝った。俺は、勝ったのだ。


『レベルアップしました』

『強者との戦闘に勝利しました。報酬を与えます』

『ステータスオール+20&【召喚権】』


 脳裏に鳴り響くレベルアップ報告などを聞きながら、深く、深くため息をつく。




「召喚権ってなんやねん……」

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