第10話 盗賊たち

 兄を悩殺しようとしてくる可愛い妹マリーとの一夜が過ぎる。


 一応いっておくと、昨晩はなにもなかった。マリーがぴったり抱き付いてきたが、なにもなかった。


 俺は耐えたのだ。鋼の精神で耐え抜いたのだ。


 前世で掲示板に経緯を説明したら、叩かれながら表彰されるレベルの偉業だ。


 きっと悲劇うんぬんがなかったら手を出してた。男は誘惑に弱い。


 ……いや、俺が誘惑に弱い。


 そんなこんなで翌日。




 マリーゴールドさんが俺の上に乗っかっていた。




 心臓が止まるかと思った。


「……ま、マリー、さん? どうして裸で俺の上に乗っているのかな?」


 痛いくらいの鼓動に耐えながら、大量の汗を流して尋ねる。


 いつもどおりの表情でマリーは答えた。


「だって、お兄様のここが立派になってたから、お兄様が望んでいるのかなって」


「お兄様のここ……?」


「ここ」


 白く小さなマリーの人差し指が、ある一点を示す。


 俺の下半身。


 一部だけ掛け布団をもっこり押し上げている……。


「————!?」


 声にならない悲鳴を上げて、慌てて俺は起き上がる。上に乗っていたマリーが、「きゃっ」という声を出して落ちた。


 しかし、彼女に構う余裕はない。


 乙女のように顔を真っ赤にして布団に包まった。


 蓑虫状態で俺は言う。


「こ、ここここれは! 生理現象だから! 男なら誰でも朝はこうなるの! しょうがないの!!」


「そうなのですか……? てっきり、お兄様がやっと私に興奮したのかと……」


「興奮はいつもしてるけど、そんなあからさまな挑発はしないから! だから早く服を着ろ!」


 そばに置いてあった彼女の服に手を伸ばす。勢いよくマリーへぶん投げると、元の蓑虫状態へ戻る。


 ——ヤバい。


 違う意味で興奮したからまだ下半身が元気だ。年頃のわりにはかなりデカイ逸物のせいで、余計にたいへんな目に遭った。


 こういうスペックまで高くなくていいから! ネファリアス!


「もう……激しいのね、お兄様って」


「誤解を招くようなこと言わないで!?」


「はいはい。今日のところは退いておくわ。興味深いものも見れたしね」


 そう言って服を着るマリー。


 彼女の表情に、不思議な妖艶さを垣間見た。おかげでまた強く下半身が痛む。


 くそぉう。我ながら妹に欲情するとは変態がすぎる……。


 ——いや? 待てよ?


 俺は本当のネファリアスじゃないから、むしろ正常な反応なのでは……?


 ギリギリのところで精神を落ち着かせることができた。けれど、朝からどっと疲れてしまった……。




 ▼




 服を着たマリーとともに一階のダイニングルームに向かう。


 そこで朝食を食べると、俺もマリーも午前中は別々の行動をとる。


 マリーは勉強やら趣味を。俺は片手でもできる剣術の鍛錬を行った。その合間にスキルで骨を治しながらおよそ一週間。


 やたら、「構って構って」オーラ全開のマリーに振り回されながらも、とうとう、折れた腕が完治した。


 ぶんぶんと自室で激しく腕を振り回してみる。


「……うん、とくに問題ないな。これなら戦える」


 盗賊の話を聞いてから長かった。すぐにでも討伐したい気持ちを理性で抑え、訓練に励むことで怒りを発散した。


 途中、スキルのレベルを上げようかと本気で悩んだ。


 しかし、ポイントの使い道は大事だ。


 緊急事態でもないかぎりは無闇に使うわけにはいかない。


 ただでさえ、レベルが上がれば上がるほど、次に必要なポイントの数まで増えるのだから。


「さて、と。それじゃあ装備を整えて行くか。——盗賊狩りに」


 時刻は午前9時。


 朝食を食べてから少ししか経っていない。


 マリーは刺繍でも嗜んでる頃だろうし、今日の午後は自室でゆっくり読書がしたいと言ってある。


 計画は完璧だ。どこも完璧ではないが完璧だ。


 にやりと口角をつり上げて笑うと、なるべく迅速に装備を整えて外に出る。


 マリーはもちろん、密告される可能性のあるメイドにも見つかってはいけない。


 自宅の廊下や階段を、まるで忍者か泥棒のように忍び足で通り抜けた

 奇跡的に、誰にも見つからなかった。




 ▼




 人の目を盗んで自宅から出ると、真っ直ぐ街の外を目指す。


 盗賊の詳しい潜伏先は知らない。そもそもいるのかどうかも不明だ。


 それでも行動することに意味があると思う。だから俺は森に足を踏み入れると、計画性もなくランニングをはじめる。


 名付けて——【手当たり次第に走り回ればそのうち会えるんじゃね?】作戦だ。


 脳みそ筋肉みたいな作戦である。


 だが、情報もなしに外へ出るとこんなもん。最初から時間がかかることは予想していた。


 家に帰る時間さえ調整すれば、まあバレることはないだろう。


 適当に周囲を索敵する。




 ▼




 走りまわること一時間。


 さすがに疲労が見えてきた俺は、近くの木に背中をあずけて腰をおろす。


 さあぁっ、と吹き抜ける風が心地いい。ここが危険な外でなければピクニックでもしたい気分だ。


 しかし、周りへの警戒を疎かにはしない。きょろきょろとしきりに視線を動かす。


 ——そんな時。


 ふいに、かすかな音が聞こえた。単なる風や枝葉の揺れる音じゃない。人間の声だ。


 それに付随して、金属の奏でる甲高い音まで耳に届く。


 ——まさか?


 期待を胸に抱いた俺は、音のするほうへこっそりと近付く。すると、次第に音は大きくなっていった。


 やがてハッキリと聞こえてくる複数の男の声に、いよいよ俺の意識が覚醒をはじめる。


 どす黒い感情が湧き出した。


 高鳴る心臓を抑え付けながらも先に進む。


 そして、ついに彼らを目撃する。


「ハァ……食料調達とかめんどくせぇ」


「しょうがねぇだろ。俺たちはお尋ね者だ。街で食料なんざ買ったら捕まっちまう」


「少しくらいならバレねぇだろ」


「その油断が命とりだっての。浅いねぇ、お前らは」


「うっせ。いいから倒した魔物を運ぶぞ。……っと、その前にスキル使っておくか」


 魔物の死体を見下ろす四人の男たち。そのうちの一人が、突如、ハッとこちらに振り返った。険しい顔で叫ぶ。


「お、おい! そこになにか居やがるぞ! 隠れてるってことは人間じゃねぇか!?」


「ッ————!?」


 バレた!? なぜ!? 音も立ててないし、殺意だって抑えた。にも関わらず、男は正確に俺の隠れている場所を指差している。


 ——スキルか? さっきスキルを使うって言ってたし、索敵系のスキルがあってもなんら不思議じゃない。


 思い出してみると、主人公の仲間のひとりがそんな感じの【ギフト】持ちだった気がする。


 くそっ。油断した。


 慌てて剣を鞘から抜いて立ち上がる。


 男たちはすぐ目の前まで迫っていた。






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名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:【システム】

Lv:17

HP:2050

MP:880

STR:30

VIT:20

AGI:20

INT:11

LUK:11

スキル:【硬化Lv5】【治癒Lv5】

ステータスポイント:11

スキルポイント:33

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あとがき。


わかってます……。探知スキルとればいいんでしょ?

でもまあ、ポイント残したいから……(貧乏性)。

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