第5話 ステ振り
「ハァ……ハァ……」
【灰色狼】の群れに襲われて、どれだけの時間が経っただろう。
ただ相手を殺すことだけを考えて剣を振っていたら、いつの間にかそこには何も残っていなかった。
地面には夥しいほどの血痕と、灰色狼の死体が横たわる。
肩を大きく上下させながら荒い呼吸を繰り返し、俺はようやく張り裂けそうなほどの緊迫感を振り払った。
そのタイミングで、後ろから声がかかる。
「ね、ネファリアス様……。まさか、これだけの数の【灰色狼】をひとりで倒してしまうとは……」
「俺もびっくりしたよ。ザッと数えても10体くらいいるよね、こいつら」
「は、はい。最初は私も加勢しようかと思いましたが、灰色狼を倒すごとにネファリアス様の動きがよくなっていき、その数が半分も減った頃にはすっかり加勢する気力も無くなりました。お見事です」
そう言って、護衛の騎士は尊敬の眼差しを向けてくる。
俺は一言、「ありがとう。まだまだ、この程度の魔物にも苦戦しちゃったけどね」と告げてから、手にした剣を鞘におさめる。
俺の動きがよくなった原因は、【灰色狼】から得た経験値によるレベルアップだ。序盤はレベルが上がりやすいのがゲームの鉄則。
リアルであるこの世界にその理論を持ち込んでいいものかどうかは知らないが、低レベルな灰色狼との激闘を繰り広げ、すっかり俺のレベルは上がっていた。
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名前:ネファリアス・テラ・アリウム
性別:男性
年齢:15歳
ギフト:【システム】
Lv:10
HP:1250
MP:670
STR:11
VIT:11
AGI:11
INT:11
LUK:11
スキル:
ステータスポイント:27
スキルポイント:27
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悪くないステータスだ。たぶん。
少なくとも初期値で灰色狼が倒せたことを考えると、11もあればさらに簡単に灰色狼を倒せることができる。
ちなみに、ステータスが急激に伸びたのはレベルアップによる影響だけではない。
灰色狼をすべて倒した際に、システムが俺に告げたのだ。
『一定数の魔物の魂を集めました。報酬をプレゼントします』
と。
そして、ステータス画面を見たら、ポイントを割り振っていないのに+10されていた。
強くなる分には文句などないので受け入れたが、思えば魔物の魂ってなんだ?
ゲームでいう【ドロップアイテム】のようなものだろうか?
そういう詳しい説明を省くから、いまいち信用ならないんだよなぁ、この【システム】。
ひとまず、激戦を潜りぬけたことに安堵の息を漏らし、次の魔物が来るまえにステータスポイントの割り振りを行う。
ここで大事なのが、ゲーム脳的に【STR】だと思う。
序盤ってわりと火力で押せるゲームが多いし、効率を考えるとどうしても腕力を求めがちになる。
生存優先なら【VIT】や【AGI】だろうが、灰色狼と戦ってみた感想はひたすらに筋力不足。
動きはギリ目で追えてたし、STRを上げればさらに簡単に倒せるようになると思う。
念のため、少しだけ【VIT】にも振っておく。キリのいい数字まで。
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名前:ネファリアス・テラ・アリウム
性別:男性
年齢:15歳
ギフト:【システム】
Lv:10
HP:1450
MP:670
STR:30
VIT:15
AGI:11
INT:11
LUK:11
スキル:
ステータスポイント:4
スキルポイント:27
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「……よし。これでもっともっと効率が上がる! はず」
自信満々にステータス画面を最後にもう一度だけ見てから消す。
しばらく一人でステータスをいじってたせいで、護衛の騎士が怪訝な目をこちらに向けていた。
慌てて理由を話す。
「——あ、悪い。いま俺の【ギフト】を使ってたんだ。ちょっと特殊なギフトでね」
「な、なるほど? そう言えばネファリアス様はギフトを授かっているのでしたね。どんなギフトなんですか?」
「どんな……。うーん、まあ……魔物を倒せば倒すほど強くなれるかもしれないギフト、かな?」
「そのようなものが……。わざわざ装備を整えて外に来たのは、それが理由ですか」
「まあね。せっかく強くなれるなら、それを活かさない手はないだろう?」
「たしかに。であれば、先ほどの戦闘も納得がいきます」
「あはは。いまの俺は、さっきの俺よりも強くなった……のかな? 次の戦闘で楽しみにしておいてよ」
それだけ言って、俺は森の奥を目指そうと前に一歩踏み出した。
——その時。ふと、思い出す。
足元に転がる死体をどうしようかと。そして、それを解決する方法が俺にはあった。
再びメニュー画面を表示する。
【アイテムボックス】の項目をクリックして、画面の端にある【収納】ボタンを押した。
すると、近くに転がっていた灰色狼の死体が一瞬にして姿を消す。
その光景に、護衛の騎士が驚きの声をあげた。
「な、なな!? いまのは……ネファリアス様ですか!?」
「うん。これも俺のギフトによる……まあスキルかな。便利でしょ。灰色狼の死体を回収して保存できるんだ」
「おお……! 空間に干渉したりするギフト持ちが使えるスキルですね。私も見たことがあります」
「外に出るまえに家で何度も性能はたしかめたから、このまま灰色狼の死体は持ち帰るね。売ったら少しはお金になるし」
「ネファリアス様のご自由に。倒したのはネファリアス様ですから」
「そう? ありがとう」
わざわざ危険な外まで護衛してくれているのだから、少しは分けようかと思ったのに、こちらの意図を察して護衛の騎士は言外に「受け取れません」という気持ちを伝えてきた。
押し付けるつもりはない。そこで会話を終わらせて、さっさと灰色狼の死体を【アイテムボックス】の中へとぶち込んだ。
すべての死体を回収し終わると、再び俺の魔物狩りがはじまる。
——が。
俺が見つけるより先に、相手のほうからこちらに寄ってきてくれる。灰色狼よりずいぶんと大きな、二足歩行の魔物が。
俺も護衛の騎士も、そいつを見上げて同時に呟いた。
「「——【
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あとがき。
【ギフト】は、人間に与えられる神からの恩恵。持ってる人は少数。加護みたいなもの。スキルは別枠。
(説明忘れるやつ)。
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