第2話 ステータスオープン

『システムがリンクしました。個体名:ネファリアス・テラ・アリウムにを与えます』




「……システム? リンク?」


 目のまえに表示された半透明のウインドウ。その表面に白い文字でそう書かれていた。


 何がなんだかまるでわからない。それでも、すでに異世界転生を味わった俺の思考は、非現実的な光景をまえに冷静ではあった。


「どういう意味だ? なにかくれるっていうのは、字面から察しはつくが……」


『哀しき運命に逆らおうとする者よ。未来を変えたいと望むなら、そのための力を与えよう。すべてを壊し、新たな未来を掴み取れるかは……キミ次第だ。精々、乗り越えてみせるがいい』


「ッッ!?」


 画面が切り替わる。


 無機質なウインドウから、今度は完全に俺の記憶に覚えがある画面へと。


 それを見た瞬間、無意識に声を出していた。


「これ……ゲームのシステム画面か?」


 表示されたのは、ゲームでよくあるメニュー画面。


 【ステータス】【装備】【アイテムボックス】【スキルリスト】の項目が並ぶ。


 音声や操作性の変更ができる【設定】や、データを保存しておく【セーブ】と【ロード】などの項目は消えているが、並び方に色彩、それらは、完全にゲームの頃のままだった。


 ——どうしてこれが、俺の前に……?


 システムを与えられるのは、ゲームだと主人公——プレイヤーが操作するキャラクターだ。俺は元プレイヤーであっても、この世界では単なる悪役に過ぎない。


 それとも、この世界ではネファリアスこそが主役なのか……? 俺が過去に送った、【ネファリアス救済ルート】だったりするのか?


 目の前のシステム画面を呆然と眺めたまま、深い思考の海に浸る。


 気になることは山のように出てくる。それこそ、先ほどの謎の人物? からの返事がほしいくらいの量だ。


 しかし、あれ以降、システム画面を残してなんの返事も連絡もない。あとは俺の判断に任せる、ということだろうか?


 試しに、【ステータス】画面をクリックする。


 再び画面が切り替わり、これまた見覚えのある文字列が表示された。


———————————————————————

名前:ネファリアス・テラ・アリウム

性別:男性

年齢:15歳

ギフト:【システム】

Lv:1

HP:300

MP:100

STR:1

VIT:1

AGI:1

INT:1

LUK:1

スキル:

ステータスポイント:0

スキルポイント:0

———————————————————————


「確実にゲームと同じだな……。いや、待てよ?」


 ふと自分のステータス画面の違和感に気付く。


「——ステータスポイント? スキルポイント? なんだそれ」


 こんな項目、ゲームじゃなかった。


 調べようにも、説明書なんて存在しない。字面から察するかぎり、ステータスポイントはステータスを上げるためのもの。スキルポイントは……スキルを強化するためのもの?


 ——あ。


 そこでさらに思い出す。


 先ほどはあえてスルーしていたが、メニュー画面自体にも見慣れない項目はあった。


 ——【スキルリスト】だ。


 これもまたゲームにはなかった。


 四苦八苦しながらステータス画面を前のメニュー画面へと戻す。


 どうやらこのウインドウ、タッチ以外にも念じるだけで動かせる。頭の中でメニュー画面を開け、と強く思えば勝手に画面が切り替わった。


 便利なんだかよく判らないな……。


 だが、それは置いといて【スキルリスト】を開く。俺の想像どおり、そこには膨大な量のスキルが表示されていた。


 見覚えがあるものもいくつか確認できる。


「なるほど……。これがあるってことは、やっぱりスキルポイントはスキルを獲得、ないし強化するためのものか」


 連鎖的にステータスポイントもさっきの考えであってることになる。


 とすると、ここでひとつの可能性が浮上してきた。


 ——もしかして俺……この世界では、最強の存在になれるのではないか?


 考えてみるとつくづくこの恩恵はチートだ。


 ゲームの主人公でさえ【勇者】のギフトを授かり、【勇者】のギフトでしか使えないスキルを用いて魔王討伐の旅にでる。


 ゲームだから進めないと覚えないスキルもあったが、それでもその総数は最初から決まっていた。


 それに比べてネファリアスは、最初こそ他のギフト持ちほどスキルは使えないが、レベルさえ上げればステータスもスキルも永遠に上昇、増加させることができるかもしれない。


 あくまでレベルとポイントの上限値がなければ、の話だが。


 しかし、先ほどメッセージを送った何者かはこう言った。


『哀しき運命に逆らおうとする者よ。未来を変えたいと望むなら、そのための力を与えよう。すべてを壊し、新たな未来を掴み取れるかは……キミ次第だ。精々、乗り越えてみせるがいい』


 と。


 それはつまり、俺が諦めないかぎり未来を覆す可能性があるってことだ。この【システム】には。


「……そうか。変えられるかもしれないのか……」


 ゲーム【クライ.ストレイライフ】には、残酷な最期を迎えるキャラが多くいる。


 ヒロインですら、生きたまま魔物に喰われる展開もあるのだ。


 それを、俺だけが変えられるかもしれない。


 第一は自分と家族の安全だが、それさえ済ませればヒロインたちを助けるのも悪くない。悪くないどころか、最高だ!


 吐き気を催すほどのシナリオを、俺だけが理想の未来エンディングにもっていける。


 そのためならば、俺はきっと頑張れるという確信があった。


 前世のプレイヤー目線なら無理だろう。怖くて、辛くて、簡単にコントローラーを投げ捨てた。


 けれど、ここは現実だ。ロードしたらやり直せるゲームじゃない。自分の命すらかかってる状況に、その命を懸けられないはずがない!


 再び拳を強く握りしめた俺は、くすりと笑みを浮かべてウインドウ画面を消した。


 ドアノブを捻り、一階で待っているであろう家族たちの下へ向かう。


 もはや、欠片ほどの憂いもそこにはなかった。




 ——これは、悲劇を迎える悪役の話。


 ——否。


 ——これは……悲劇を乗り越える男の物語。




 それを誰かが望むなら、俺は喜んで乗り越えてみせよう。


 この世界あくむすら。

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