第2話 クラス屈指のモテ男子!
私にとって最推しのラノベ、『お義兄ちゃんと、一つ屋根の下』。
その作品は、元々は、ネットにあるひとつの小説サイトに投稿されたものだった。
私がそれを見つけたのは、本当に偶然。連載開始して間もない頃にたまたま目に付いて、ちょっと読んだら、すっごく面白いかった。当時はまだ書籍化どころか読者もほとんどいなかったけど、すっかりハマった私は、新しい話が更新される度に、いつも作者様に向かってコメントを残した。
ちなみに、作者の名前はリリィさん。さらについでに言うと、私のネット上での名前は、クミクミだ。
それから徐々に人気が出始め、今では文句なしの人気作になった。そして書籍化したばかりか、ついこの前、なんと2巻目が発売されたの。最初から推してたからって偉いってわけじゃないけど、古参のファンとして、こんなに嬉しいことはない。
2巻目が発売された日には、リリィさんにこんなコメントを送って、さらにはこんな返事がきたんだよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【クミクミ】
リリィさん、2巻発売おめでとうございます!(^o^)!
色んなお店で限定特典がついていて、いかに人気作品かというのがわかります。
もちろん、全店舗で予約しました(๑•̀ㅂ•́)و✧
我が家の本棚に並ぶのが、今から楽しみですヽ(=´▽`=)ノ
【リリィ】
わわっ。全店舗で予約なんて、お財布は大丈夫ですか?( ゚Д゚)
そこまで応援してもらえるなんて、とっても嬉しいです。
クミクミさんにはほとんど読まれていなかった連載当初からずっと応援してもらって、本当に感謝しています。
それがなかったら、今こうして連載を続けていることもなかったかもしれません+゚。*(*´∀`*)*。゚+
◆◇◆◇◆◇◆◇
以上。
リリィさんは人気作家になってからも、私のコメントにいつもちゃんと返事をくれていて、その度に嬉しくなる。
リアルでは会ったことはないけど、きっと気作で素敵なお姉さんなんだろうな。あと、美人。私の勘がそう告げている。
この人と、そして『お義兄ちゃんと、一つ屋根の下』を推しててよかったって、心から思うよ。
だけどそんな最推しの作品も、お父さんと翔子さんが再婚したら、私に義理の兄妹ができたら、好きだってことを隠さなきゃならないよね。
そう思う理由は、話の内容。
『お義兄ちゃんと、一つ屋根の下』ってタイトルからだいたいわかると思うけど、簡単にストーリーを説明すると、平凡な高校生である主人公、理恵が、学校一のイケメン王子様、良介と、親の再婚で義理の兄妹になる。そるから色々あって、最終的にはひとつ屋根の下でイチャイチャラブラブするっていう、義兄妹の恋愛ものだ。
その、義兄妹の恋愛ってのが問題なの。
言っておくけど、私はリアルと二次元をごっちゃになんてしない。たとえ自分に義理のお兄ちゃんができたとしても、理恵と良介みたいにラブラブになるなんて思っちゃいない。
けどさ、相手の子からすると、もし自分の義理の妹になる子が義兄妹ラブは小説を読んでいるって知ったら、しかも大いにハマってるって知ったら、さらにさらに、「ひとつ屋根の下ラブ最高!」とか、「お義兄ちゃん推せる!」なんて叫びながら床をゴロンゴロン転がり回ってるって知ったら、変にギクシャクしちゃうかも。
万が一、現実と二次元の区別がつかない奴って誤解されたりでもしたら、お父さんと翔子さん、結婚どころか破局の危機に、なんてこともありえるかも。そんなのダメーっ!
うん。やっぱり『お義兄ちゃんと、一つ屋根の下』が大好きことは、バレないようにしよう。
もちろん作品には一切罪はないし、最推し作品を隠しておかなきゃならないってのは、ちょっぴりモヤモヤするかも。
だけど余計なトラブルなんて起きない方がいいからね。
というわけで、私が一人でそんな決意をした数日後。いよいよ、家族になるかもしれない私達の顔合わせが、もっと正確に言えば、私と翔子さんのお子さんと顔合わせの日を迎えた。
場所は、普段利用するようなファミレスとは違う、高級そうなレストラン。
私の服装もそれに合わせて、わざわざこの日のために買った、少し大人っぽいピンクのワンピースっていう、ちょっとオシャレなものを用意した
だけどどれだけおめかししても、しょせん私は私。馬子にも衣装って感じで、場違いになってやしないか心配になってくる。
「いやいや。今回大事なのは、見た目よりも中身。まずは、第一印象を良くしなきゃ」
色々不安もあるけど、できれば相手の子にはいい印象を与えたい。
だから、どんな風に挨拶したらいいか、頭の中で何度もシュミレーションしていた。
「はじめまして、北条久美です──はじめまして、北条久美です──」
練習してきたセリフを、もう一度小声で繰り返す。たったこれだけを練習する意味あるのかって自分でも思うけど、とりあえず、いきなり噛む心配はないよね。
お父さんにくっついてお店の中に入ると、先に来ていた翔子さんが、わたし達を見つけてやってきた。
「哲夫さん、久美ちゃん、こんにちは」
哲夫さんってのは、お父さんの名前。お互いしたの名前で呼びあってるところか、いかにも恋人って感じがするよね。
「翔子さん、こんにちは」
私も挨拶をしながら、翔子さんの隣にいる男の子を見る。
彼が、翔子さんの息子さゆ。私にとって、義理のお兄さんになるかもしれない人。
中途半端にあれこれ聞くより、直接会ってどんな人か確かめた方がいい。
そう思った私は、彼がどんな人かは一切聞いていないし、写真だって見ていない。だから、顔を見るのもこれが初めてだ。そのはずだった。
だけど──
「ふぇぇぇぇっ!?」
次の瞬間、私は素っ頓狂な声をあげる。
それがよほど大きかったのか、周りの人が何事かとこっちを見るけど、そんなのを気にする余裕もなかった。
初めて会うはずの男の子。そう思ってたのに、そこにいたのは、とっても見覚えのある顔だった。
「さ……さ……佐野君!?」
彼の名前は、佐野悠里くん。私と同じ中学、同じクラスに通う同級生。
その容姿は、サラサラとした栗色の髪にアイドルもかくやと言いたくなるような甘いマスクという、紛うことなきイケメンだ。さらには爽やかな雰囲気も相まって、何人もの女の子の視線を引きつける、クラス屈指のモテ男子。そんな彼が、目の前にいる。
「うそ。なんで…………?」
見間違いかと思って目を擦るけど、何度やっても別人にはなってくれなかった。
「北条さんだよね。なんでって、母さんや哲夫さんから、話聞いてない?」
母さん?
そういえば、パニックになった頭で、翔子さんのフルネームが佐野翔子だったことを思い出す。
「じゃあ翔子さんの子供って、佐野くんだったの?」
「知らなかったの?」
知らなかったよ!
キッと睨みつけるように、隣にいるお父さんに顔を向ける。
「どうして教えてくれなかったの!」
「だって、下手にどんな人か聞いたら余計に緊張するから、何も教えないでって言ったじゃないか」
「だからって……」
そりゃ確かに言ったよ。でもさ、そんな大事なことなら別って思わない? 同じ学校のクラスメイトなんて、心の準備が必要でしょ。
何度も「はじめまして」って言う練習してたけど、全然はじめましてじゃないじゃん!
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