第6話怪異 蠱毒の少女2
怪異 蠱毒の少女2
とりあえず……俺は自分を落ち着かせて
出島先生を見る
黒い長い髪を後ろで纏め、いまだに酒を呑んでいる
「それで、そろそろ説明をしてもらっても良いか?」
いい加減説明が欲しくて俺がそう言うと
「笹本は都市伝説とか信じる方?」
そう言い出されて、俺は腕を組む
冗談か本気か?
そう考えて……本気だと判断した
あんな経験をしてこれを冗談と思うほど頭は硬くはない
「冗談とは思わないが……出来るだけ説明してくれないか?」
それとは別に……都市伝説のジャンルが広すぎるから特定しておきたかった
「まあ……都市伝説と言っても範囲は広いから〜
今回の件の説明?と言うか特性を言おうかな」
そう言って、先生は累を手招きして呼ぶと……
「累ちゃん、はい!あーん!」
俺の買ってきたツマミの封を開けると口の中に入れ……
指が唇に触れ唾液がつくと……
先生は一瞬表情を曇らせて、素早く手拭きで拭き取り
「病院でも見たと思うけど、累ちゃんは蠱毒の呪術に該当する存在で能力としては全身の体液が毒って事です」
赤く爛れた指を見せる
「……大丈夫か?」
先生の傷を見て心配したが、先生は笑顔で平気だよ!と笑っていた
そんな先生を見て
俺は病院での出来事を思い出し……泡を吹いて倒れていた男の姿が脳裏に過ぎる
「毒物を食べ続けてこうなるのか?」
とてもじゃないが、信じられなかったが
「別に毒性を持つのはおかしい事じゃないんだよ」
その答えに俺は驚いた
「公害病って言葉を知っているかい?」
その言葉に俺は頷き工業廃棄物で引き起こされる病
「水俣市で発生した水俣病、これは海に排出された工場の廃水をプランクトンから食物連鎖で毒性が濃縮され、人間に広がったもの
本来毒のないはずの魚から毒が出るんだ」
つまりは、分解されなければ、毒は蓄積され体内に留まる
排泄などで一部は出るかもしないが……
「そのさらに昔、忍びに毒を与えて耐性を持たせる慣わしもあるし、暗殺者の一族には毒の体液を持った少女の話もある」
フィクションと思われるようなものも出てきてあまり信用が出来なくなるが、毒性を持つと言うのはわかった
「まあ、普通毒物食べて蠱毒にするとか、毒性が強すぎて難しい筈なのにね……それに……」
笑顔だった先生の顔に圧がかかり
「なんて歪な精神構造なんだろうね」
それはすぐに形を潜めたが怒りの感情だった
「笹本は野良犬や野良猫を触ったことはあるかい?」
また先ほどの様に笑顔で話しかけられて、俺は頷く
「いろんな感情があるけどさ、可愛いとか愛情があったとしても怯えるよね」
敵意がこちらになくても、急に触れば噛まれる
当たり前の事だ
「心を折らず、触られる事を不快に感じるように育てれば……どうなるかな?」
その言葉に、俺は首を傾げた
「愛を不快なものと体に教え込ませ、パニックを起こし易くする」
累の情報提供は……
「この子は武器として誘拐され、罠として育てられた」
保護される事自体が目的
「さて、笹本刑事、君には聞かなければいけない事がある」
俺は先生を見る
「ここに私たちが来たのは、あの時は物語に囚われ、まともな判断が出来ていなかった」
つまりは、事件の概要 人物 経緯の確認
先程の情報も病院内で確認して……
写真を懐から取り出して……
床に落としてしまい、慌てて拾い集め
手が震えた
「なんだ?なぜ俺は同じ顔の写真を2枚持っているんだ?」
俺は服装が違うが同じ顔の写真を2枚持っている事にきづいた
それを引き金に、いろんな記憶を取り戻す
容疑者の女が……累の叔母だった
双子の姉
こんなことすら認識できなくなる事に……
これが囚われると言うことか
「それで……結局、なんで俺に話すんだ?」
都市伝説や認識が阻害されていることは分かったが……それが今回の件との関係がさっぱり繋がらなかった
「世の中にはこんな不思議なことが……多く存在するんだけど……最近と言うか……
ここのところ……模造が多くみられる」
そう言われて、さらに訳がわからなくなった
「模造?それが……」
「つまりだね……似たような事件が……物語がたくさん出現しているんだよ」
俺に発言を遮り語られた事に……恐る恐る聞いてみた
「それって……模倣犯とか作成者が居て……人為的に発生させているとか……そう言うことか?」
俺の発言に先生は首を横に振る
俺はそれに安心しそうになったが
「そこまでは……わからない
だから、調査をしなければいけない……
さて、勘の良い笹本なら……なんでこんな事を話しているか理解できるよね?」
そう言われて、俺は頭に手を当て、天井を見る
「つまりは、協力者が欲しいと言うことか」
その言葉に先生は笑顔を見せる
「国家権力ってね、利用ができる状況があれば……
これほど便利なものは使わなきゃもったいないからね〜」
あの病院も潜入していたらしいが……
確かに俺が協力すれば手間が省けるところもあるだろう
「それで……俺へのメリットは?」
あんな事があって、自分から関わるなんて正気の沙汰じゃない
常識を超えた事件に関わる……
それは命に関わる事だが……
「それは笹本が刑事だからって言えば良いのかな」
その言葉に俺はよくわからなくなった
「だって、刑事は民間人を守る為に命を賭ける職業でしょう?」
その言葉に俺は笑ってしまい、おつまみを食べていた累がビクッと身を振るわせて、俺を見る
「確かにそうだな!俺は刑事だ!民間人を守る為に命をかける仕事だ!メリット?リスク?民間人の笑顔が守れれば、それで本望だろ!」
正義の味方……とまでは言わないが……
人の役に立ちたいとそんな気持ちがあり、選んだ職だ
「笹本、君は良いね!ただの職業に命をかけるなんて普通はしない!だから、キミを選んだ!
君は選ばれたんだよ!」
俺の答えに先生は笑顔でビールを流し込むと上機嫌に笑い……
「もし気に食わなければ、累ちゃんをけしかけるところだったよ!」
怖い事を言いやがった!
「それより、笹本!つまみが切れたぞ!
もっと作れ!」
空になった皿を見て俺はため息を吐き、無視しようとしたが……
腕の裾を軽く引かれる感覚がして、そちらを向くと……累が……空の袋を持って……恐る恐る俺を見て……
「わっ……わたし……もっ……もっと食べ……たい……」
そう言われて……俺は……これまでの累の生活を思い出し……哀れみから……
累の頭を撫でようと手を伸ばすが……
「笹本!!!!!!」
先生の切羽詰まった声に……思わず手が止まったが……その髪が指を掠めた瞬間!火傷のような痛みが走り……
「熱っ!?」
病院での痛みを改めて思い知らされた
そして……俺に触られそうになった累は頭を抑え体を屈めると……怯えたように震えていた……
そこで……改めて彼女のこれまでの生活を思い知らされると同時に……
「笹本!彼女に素手で触るのは控えろ!
君は私とは違うのだよ!」
蠱毒の少女……触れる事が……許されない孤独の少女
そんな少女と……怪異を追う先生との初めて関わった怪異譚だった
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