私の記憶–後編

 「真奈、話すことがある。」

 「なに?お父さん。」

 ここは、どこだ?体が小さくなっているような‥。あの男の人は誰だ?話しかけられている女の子は、私‥?なんで‥こん‥、な。

 

 「うわぁっ‼︎」

 真奈はソファから飛び起きた。シャーレも

膝の上で跳ね上がった。

 「あの夢‥‥。私の過去の記憶?」

 いや、そんなわけがない。自分の記憶ならば第三者視点になることはない。ならばあの夢はなんだったのだ。自分の想像だったのだろうか?それにしてはやけにあの男性と女の子が私に似ているではないか。しかもあの女の子は男性のことをお父さんと呼んでいた。女の子が自分ならばあの人が自分の父親になるということだ。

 そんなことを考えていると、シャーレが真奈ををじっと見つめてきた。

 「まさか、シャーレの記憶⁉︎」

 いや、それもおかしい。どうやって人にネコが自分の記憶を見せることができるというのだ。だが、そんな超常的なこともあるかもしれない。この世界には自分の知らないことがたくさんあるんだ。ネコと意思疎通する方法も‥‥、痛っ⁉︎

 「ちょっとシャーレ⁉︎なんで蹴ってくるのよ‼︎」

 シャーレは真奈を蹴った後、壁の方へと歩いて行った。そしてある場所の下で歩みを止めた。

 時計は8時を指していた。夜ではない、朝だ。シャーレはお腹が空いていたのか。怒鳴ってごめんね、またいつか高いおやつ買ってあげるから。

 シャーレキックの原因がわかったはいいものの、あの夢の謎は残ったままだ。あまり過去の記憶に興味があるわけではないが、気になって仕方がない。一旦病院に行ってみようか。あのお医者さんは記憶が戻ったらもう一度来て欲しいと言ってたし。いや、記憶が完全に戻ったわけでもなく、別に体のどこかが悪いわけでもないのだからこられても病院側が困るだろう。じゃあ、親戚の誰かに話を聞こうか。何か知ってるかもしれない。

 「よし、決めた‼︎」

 真奈はこの長い連休を親戚の元を訪ねてまわると決めた。

 

 おじの家は2つ県をこえたところにある。農業をやっているんだとか。真奈は必要な着替えとお金、その他の必要そうなもの、ネコと移動する用のバック、シャーレの餌を用意しておじの家へとむかった。

 「いらっしゃい、真奈ちゃん。とりあえず上がって何か飲もう。」

 真奈はおじには家に行くという連絡はいれたが、なんの用事かは言っていない。親戚は皆、真奈の記憶がなくなった理由などを教えてくれないからだ。なんの用事かを伝えるとおじの家に行くことを断られるかもしれない。だからついてから話すことにしていた。

 「こんにちは、おじさん。」

 居間で真奈は淹れてもらったお茶を飲みながら話を切り出した。

 「今日ここにきたの」

 「弟のことだろう?わかっているよ。いつかそれにたどり着くと思っていた。その時がくれば真奈ちゃんに話さなければいけないんだということも。」

 なんでわかったんだ?私ってそんなに顔に出やすいタイプか?

 「うん、お父さんについて聞こうと思ってここにきたの。けど、おじさんよくわかったね。」

 おじはそれにこたえずに何も喋らずに天井を見上げていた。

 「真奈ちゃんには、あの時のことは話さないと私は決めている。話す時が今だとしても。話さなければいけなかったとしてもだ。」

 おじの家には数日泊まったがおじは最終的に何も教えてくれなかった。

 

 帰りの車の中で真奈は自分ががっかりしていることに気づいた。前までは過去の記憶に何も興味がなかったというのに。

 「目の前に記憶の鍵があったって考えると、少し落ち込んじゃうな。」

 シャーレは真奈の気持ちがわかったのか、鳴いて返した。


 家に着くと急に疲れが襲ってきた。農作業をすることがないから手伝ったのが問題だったのだろうか。真奈はソファに倒れ込んだ。

 片付けるのを忘れていたあの時買ったブランケットをかけて寝ようとするとシャーレが上に乗ってきた。

 「私のこと、クッションかなんかだと‥、思って‥な‥」

 

 「どうしたらいいんだ。」

 暗い部屋の中で男の人が一人呟いているのが目にうつった。あの時の夢の男の人だ。しかし、あの時よりも顔色が悪くなっているように見える。表情も暗い。

 真奈の視点はやはり低くなっていた。高さはちょうどネコくらいの高さ、そして真奈は体を動かすことができなかった。

 男の人を見ていた真奈の体が勝手に動きだした。目線に自分の足が入った時、真奈はこれはシャーレの足だと確信した。

 男の人に近づくと床に数枚の紙が落ちていた。数枚はなにを書いているかはわからなかったが、写真から察するに実験の報告書だった。その他の紙は病院からの紙だった。

 病院からの紙には男の子の写真と名前、そして病気の内容が書いてあった。

 「穂高ほづかなぎ?私と同じ苗字だ。こんな人、親戚にいたっけ?」

 気づけば真奈は床の上に転がっていた。シャーレが横から真奈を見つめていた。

 「シャーレ、あの男の子は誰?」

 真奈の呟きには反応せずにシャーレは部屋の奥へ向かって歩きだした。

 真奈にはあれがシャーレの記憶だとわかっていた。この2回の夢は全てシャーレと同じ視点だった。何より真奈と共に前まで住んでいたのなら家族のことも記憶に残っているはずだからだ。

 あの男の人は私の父親なのだろう。シャーレの記憶の中にいた私が「お父さん」とよんでいたからだ。では、あの男の子は誰だ。

 そんなことを真奈が考えていると、玄関のベルが鳴った。

 外に出てみると、あのブランケットを安く売ってくれたおばあちゃんが立っていた。

 真奈が驚いているのも気にせず、おばあちゃんは喋り始めた。

 「何か大切なことは思い出せたかい?真奈ちゃんが記憶をなくしたって聞いたから、記憶を戻せるようにネコの記憶をブランケットを使って真奈ちゃんと繋いだんだよ。真奈ちゃんの家にネコがいるのは知っていたからね。」

 真奈は理解できなかった。なにを言っているのだ?ネコと記憶をつなぐ?ブランケットでそんなことができるのか?

 「あなたは、何者なんですか?」

 真奈の捻り出した問いに目の前の老女は一言で答えた。

 「魔女だよ。」


 その後、おじの家で全てをきいた。

 真奈には弟がいた。弟は生まれた時から、とても大きな病気にかかっていた。真奈の両親も治せるように尽くしたがダメだったそうだ。そして真奈の父親は研究していた研究に弟を使った。その別生物というのがシャーレだったという。その後、この研究を危険視した政府によって真奈以外の家族は死亡。シャーレは移植された記憶を取り出されたらしい。おじはこれを政府の人からきいたそうだ。これを黙っていてくれれば真奈の命は狙わないということを条件に。

 あのおばあちゃんに真奈がその後会うことはなかった。商店街の人によると遠くの町に引っ越したそうだ。

 真奈はこのことは夢だったと思うようにしている。なにも証拠がなく、あの後にシャーレの記憶を見ることもなかったからだ。

 仕事が終わって真奈は家に帰ってきた。ブランケットを膝にかけるとシャーレが真奈の足の上で寝始めた。

 「どんな夢見てるの?シャーレ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る