第5話 叩きつける感情
この世界自体があまり良い世界ばかりじゃない。
それはどういう意味かといえば横山が良い体験をしてないから、である。
俺は横山が恨む様な言葉を呟くのを見ながら目線をずらす。
それから俺達は帰宅した。
そして俺は家の中を見渡してみる。
「お兄ちゃん」
「.....ただいま」
俺は妹の宮藤奏多(くどうかなた)を見る。
優しげな顔をしながら俺を見る奏多。
奏多の容姿だが.....こんな容姿だ。
一言、美少女、と言える。
顔立ちは黒髪であり。
そして長髪をしている。
目が大きい様な顔も小さい容姿をしている。
つまり完全な美少女である。
まあ何というか。
それに比べ俺は、捻くれたもんだな、と思う。
顔立ちもそこそこだし美少年とは言えない。
そんな人間だが奏多は俺を慕っている。
「今日は遅かったね。どうしたの?」
「.....そうだな。ちょっと横山と一緒に夕陽を見てた」
「夕陽?.....あ。もしかしてあの秘密の?」
「そう。あそこに初めて別のお前以外の人を連れて行った」
「そうなんだね.....珍しいね。お兄ちゃんがあそこに人を連れて行くなんて」
夕陽を見た場所に奏多以外の人を連れて行ったのは史上初。
なので奏多にはかなり驚かれた。
俺はその様子に玄関から上がって麦茶を飲む。
すると奏多はコップを差し出してきた。
「私にも入れて」
「分かった」
それから麦茶を入れてから同じ様に飲む。
すると、フー、と息を吐きながら麦茶を飲み干してから周りを見渡す。
そこにあるのは畳まれた洗濯物、テレビ、ゲームなどがある。
俺は複雑な顔をする奏多を見る。
「奏多。大丈夫か」
「.....お父さんが心配だね」
「.....!.....成程な」
父親、宮藤五代(くどうごだい)。
俺達の親父である。
そして.....亡くなった母親の代わりの親である。
五代は相当に働いている。
忙しく、だ。
「.....職業が職業だしね」
「会社員だからな」
「残業とかも忙しいしね」
奏多は俺を見ながら眉を顰める。
俺はその姿を見ながら溜息を吐く。
そうだな、と言葉を発した。
それから周りを見渡す。
「奏多。遊ばないか」
「.....どういうので?」
「ゲームだな。.....お前ゲーム好きだろ」
「え.....いや。ゲームは好きだけど.....今するの?」
「今しないとダメだな」
俺は言いながら、取り敢えず手を洗って来るから、と告げて手を洗い。
それから着替えてから戻る。
そして奏多を見た。
奏多はゲームの準備をしている。
「お兄ちゃんがしたいって言うから準備している」
「.....サンキューな。奏多。有難う」
「うん。良いけど何で今ゲームをしたいの?」
「それはまあ簡単に言えばお前の為だが俺の為でもあるな。お前に寄り添う意味が最も高いけどな」
俺はそんな言葉を発する。
奏多は、?、を浮かべながら俺を見る。
その姿を見ながらゲームのコントローラーを触りつつ俺は笑みを浮かべた。
それから、奏多。寂しいか、と切り出す。
すると奏多は、そう言ったらそうだけどね、とゆっくり答える。
「.....そういうのがあるから俺は心配だからな。.....だからこそゲームをしたいなって思ったんだよな」
「そういうの.....?.....あ。成程ね。お兄ちゃんは心配し過ぎだね」
言いながら俺に苦笑いを浮かべる奏多。
俺はその姿に、まあ心配のし過ぎが俺だからな、と苦笑いで返した。
それから、奏多。お前は頑張り過ぎているからな、とも言う。
奏多は、そんな事無いよ、と返事をしながらコントローラーを握る。
ただここまで言いながらも俺の本心は別だが.....。
本心としては俺はきっと、今の状況を少しだけでも緩和したい、と思っているのだろう、とは思う。
具体的に、忘れたい、と。
でもそれは奏多には絶対に言わないが。
「私は.....お兄ちゃんの優しさに感化されているだけだから」
「.....感化.....?」
「私はお兄ちゃんから学んでいるだけだから」
「.....そうか」
俺はそう返事をしながらゲームを観る。
それからゲームをし始めた。
するとそれから30分ぐらいが経った時。
インターフォンがいきなり鳴った。
俺はゲームを一時停止してからカメラを覗くと.....そこに三日月が立っている。
「.....」
「.....どうしたの?お兄ちゃん」
厳しい顔をしているとそう聞いてきた。
俺はその言葉に、いや、と答える。
それから、ちょっと表に出て来るから、と言う。
そしてリビングを出てから玄関を開ける。
「.....何をしに来た」
「何って.....私達恋人じゃない」
「.....」
どの口が言っているのか。
そもそもお前の状況は俺は知っている。
だからこそ有り得ないと思う。
こうして平然としているのが、だが。
「まあいいや。えっとね。プリントを届けに来たの。これ先生から渡されたから。渡すの忘れてた」
「.....そうか」
「.....どうしたの?そんな厳しい顔をして」
「何でもない。疲れているみたいだ」
「そう?」
苛立ちが.....ある。
確定した事は無いが。
だけど浮気ではあろう。
思いながらも俺は、今はその時じゃない落ち着け、と言い聞かせてから。
そのまま笑みを浮かべる。
「有難うな」
「うん。じゃあ」
「.....」
ドロドロの胸の内。
そう考えながら俺は三日月を見る。
それから去るその背中を見ながら.....俺は玄関を閉めてからプリントを勢い良く床に叩きつける様に殴り捨てた。
クソッタレが。
せっかくお前の事を忘れていたのに思い出させるな、と思う。
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