第4話 オレンジ色の夕日

龍騎に関しては良い噂は流れてない様だ。

俺も実感しているのでその部分は納得である。

だけど龍騎自体がそんな噂もありながらもヘラヘラしているのが気に入らない。


そのうち地獄に叩き落とさなければ気が済まないだろう。

俺自身が。

思いながら俺は帰宅していた。

すると、先輩、と背後から声が。


「.....ああ。横山か」


「一緒に帰りましょう」


「.....今日は部活は無いのか?」


「部活動は先生が他の学校に技を教えに行くのに休みになりました。先生の仕事の都合ですね」


「.....ああ。そうなのか」


笑顔になる横山。

因みに横山の部活動は柔道部。

横山曰く、動かないのは私は似合わない、だそうだ。

俺はその言葉を聞いながら、じゃあ部活なんて入らなければ良いのに、と思ってしまったが.....横山には目的がある様だった。


「先輩は良いですよねぇ。帰宅部だから」


「良い訳じゃ無いけど.....でも確かにな。身軽だしな」


「ですかー」


「.....お前は何故.....無理な感じの部活を続けるんだ?」


「私が部活動を続ける理由は.....そうですね。内緒です」


「.....お、おう」


「えへへ」


横山は言いながら鼻息を荒くする。

俺はその言葉を聞きながら、まあその。強くなる為か、と言葉を発する。

すると、いえいえ。内緒です、と答える。

いや。もう分かっているけどな。


俺は目線を戻す。

強くなるのは聞いた事はある。

何か強くなって誰かを守りたいと。

誰を守りたいのかは教えてくれないが。

でもそれが本心では無いのも知っている。


「でも今は目標が変わりました。.....倒すべき相手が増えまして」


「.....?」


「だから私は強くなります」


「お、おう。それはそれでも良いけど.....取り敢えず無理はするなよ」


「はい。無理はしませんよ」


屈託ない地獄の笑みの様な表情をしてから、ククク、と笑う横山。

何だコイツ、と俺は顔を引き攣らせながらも。

強くなるのは良いけどな、と思う。

なんか強い女子って憧れるしな。


「なあ。.....その。柔道はキツイか?」


「そうですね。でも大会とかはまだ無いです。うちの柔道部は出来たばかりですから」


「そうだったな。部員4人ぐらいしか居ないよな?」


「ですです。だから鍛える事しかしません」


「.....聞いても良いか」


「はい」


立ち止まって夕暮れの空を見上げる俺。

それから、お前が柔道部に入ったのはそれだけじゃないその。真の目的があるんだろ、と聞いてみる。

すると横山は、!、と浮かべる。

そう。

横山が柔道部に入ったのは.....。


「.....交通事故で死んだ弟の為じゃ無いです。浮気が嫌いなのも」


「.....」


「柔道はもう完全な好きな人の為です」


言いながらも手が震えている。

俺はその姿を見ながらまた空を見上げる。

あの日。


浮気したヤローの乗った飲酒運転の車に跳ねられた2人。

そして軽傷で済んだ横山と。

亡くなった傑くん。


「お前は強いよな」


「.....強いんじゃ無いですよ。轢き逃げに遭って.....恨んでいるだけですよ。私の弟を殺した男が逃げてから浮気野郎を」


「.....そう言いながらもお前は俺に付き合っているよな?何故だ。そして好きな人が居るんだろ」


「.....先輩とその人だけは別です。.....私の心の氷を溶かした。.....だから先輩は男の子ですが私にとっては特別な人です」


「.....そういうのの心の溝を埋める為にやっているのもあるのか?」


「そうですね。まあ確かにそうかもしれませんね」


そうか、と返事をしながら俺は苦笑いを浮かべる横山を見る。

飲酒運転で逃げた男は後日捕まったが。

その男は浮気がバレてやけ酒をして車を運転してから横山と傑くんを跳ねた。

そして逃走したゴミクズだ。


だから浮気を妬んでいる部分もありそうだ。

横山が.....浮気を嫌うのは。

復讐を唱えるのは。


思いながら俺は、なあ。横山、と尋ねる。

すると横山は顔を上げて笑顔を浮かべてから、はい、と返事をする。

俺はそんな横山に対して目線を向けて、ちょっと付き合ってくれ、と言う。

すると横山は、?、を浮かべて反応した。


「行きたい場所がある」


「.....え?それは何処ですか?」


「坂を抜けた先だけどな」


「え.....?」


それから俺は横山の手を握る。

そしてそのまま駆け出して行く。

そうしてから崖の上の草むらを抜けた先に来る。

すると、わあ!、と横山は反応する。

そこには大きな丸い夕日が見える。


「.....とっておきの場所だ」


「凄いですね」


三日月にも見せた事がない場所である。

俺は笑みを浮かべながら横山を見る。

すると横山はうっとりした顔で、良いですね、と笑顔を浮かべる。

そして.....涙を拭った。


「多少なりとでも和むだろ」


「ですね。.....先輩。そういう所が男前です」


男前、か。

オレンジ色の夕日に当てられながら俺達は煌びやかな目下のビルの群れを見つつ。

そのまま暫くそうしていた。

何故.....横山をこの場に連れて来たのか分からないが。


内緒の場所に、である。

まあでも.....良いか。

そう考えながら俺は景色を見ていた。

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