第154話 それぞれの思惑

~薙鬼流ひなみ視点~


 朝のホームルーム。担任の先生が私達に文化祭のチケットを配る。希望者のみに配られるチケットなのだが、私のクラスは殆どの生徒がチケットをもらった。ホームルームを終え、先生が教室を出ると何人かの生徒が私に近づいてくる。


「はい、これ」


 私にチケットを渡してきた。前もって何人かの友達にチケットを譲ってもらえるように頼んでいたのだ。


 ──かたりんのゲリラLIVE……


 私の所属する『ブルーナイツ』の同期と先輩を誘う為だ。Vチューバーにはアイドル好きが多い、元々アイドルを目指していた人がVチューバーになったパターンもあるし、霧声麻未先輩に関してはアイドルのマネージャーをしていた人だ。かたりんのことが好きな人もいれば、若い女の子がどういったことに興味があるのか知りたいという先輩もいる。


 女性Vチューバーの視聴者の8割以上が男性である場合が多い。女性比率を少しでも上げたいと思ってる先輩達がこぞって行きたいと言い出したのだ。


 ──そう言いつつもJKが好きなだけとかありそう……3期生のマリア先輩とか2期生の鷲見先輩、1期生の来茉蘭くるまらん先輩とか……


 エド先輩のこと紹介しちゃおうかな?いや、それはまずい。たぶんエド先輩は嫌がりそう。


 ──それに最近会ってないし。


 コラボ配信の際エド先輩は、好きな女性のタイプで弱いところを見せられて良いなと思えたって言っていた。あの配信以来、私は積極的にエド先輩にアプローチしにくくなっている。弱いところは共に優勝したアペの大会で見せてはいるが、最近の出来事ではない。おそらく良いなって思ったのは別の女の子に対してだ。


 ──その場しのぎの嘘をついていた?どちらにしても私のことでは絶対にない。いっそのこと文化祭の時に告白してみようかな?


 この前同じクラスの女子バスケットボール部に所属する友達が言っていた。


『うちの高校では、文化祭終了時に打ち上げられる花火を見ながら告白すると永遠に結ばれる七不思議があるらしいよ』


 七不思議ってなに?ってなったけど都市伝説的なヤツだと解釈した私は初めこそ信じていなかったが、女バスや女バレのOG達が彼氏と一緒に写る画像を見せられ徐々に気になるようになった。


 ──マッチングアプリの広告のような写真だったけど……この際、何にでもすがってみても良いのではないか?


 私は密かに、告白する心構えをし始めた。


─────────────────────


~一ノ瀬愛美視点~


『お疲れ様でしたぁ~』

『お疲れ様でぇす』

『お疲れっしたぁ~』

『お疲れ様でした』


『V verse union』略してVユニの東堂キリカさんと橘零夏たちばなれいかさん、元プロゲーマーの新界さんとルブタンさんに次いで私は言った。


「お疲れ様でした」


 私含めた5人は配信を切ったが、通話はそのままにして、配信後の会話を楽しむ。


 文化祭の仕事が忙しくなり始めた。こういう期間にCZカップの練習をしてもなかなか集中できない。そう思った矢先に新界さんから5人パーティーで戦うゲーム『バルラント』の誘いがあったのだ。


 配信を終えてルブタンさんが口を開く。


『あ、あのぉMANAMIさん?大丈夫でした?ちょっと強めに言ってしまって……』


 私をライバル視していたルブタンさんだが、私が女子高生だとわかると態度が一変──私は気づかなかったけど──したみたいだ。リスナーさん達からは掌クルクルやなとかルブタンがいつもと違うなんて言われていた。そんなルブタンさんをリスナーさんやキリカさん、零夏さんがいじりながら配信が始まった。ゲームが開始されるとルブタンさんのボルテージが徐々に上がり暴言紛いの発言をし始め、メンバーがミスをすると「おいぃ~!?」「あれれぇ~?」と煽り気味に声を発する。その流れで私がミスをすると同じように煽ってきたが、直ぐに訂正し謝罪をしてきた。その後何度か同じようなことがあり、私をわざと煽っては謝罪するような流れが配信内で出来上がったのだ。


 私は言う。


「いえいえ、とても楽しかったです」


『よかったぁ~!もうおっさんやから何がその子を傷付けるかわからんやん?』


 ルブタンさんの言葉に零夏さんが返す。


『えぇ~ルブタンさん私には謝んないんですかぁ?』


『お前にはなに言うてもええからな』


『ひどぉ~い』


『配信切ってんのにまだそのテンションなんかお前は!?新界さんなんかもう寝てるんちゃうか?』


『起きてるけど?』


『うおっ、ビックリしたぁ!!』


 チャットルームが笑いに包まれる。キリカさんが言った。


『てか今さらなんだけどシロナガックスが年下の女の子だって知ってめちゃくちゃテンション上がったんだけど!』


『わかる!!しかもjk!!』


 零夏さんが賛同すると、ルブタンさんが口を挟んだ。


『2人からしたらjkなんて、もう遠い昔のことやからなぁ』


『はぁ?』

『永遠の17歳なんだけど?』


『じゃあMANAMIさんと同い年やん?』


『そうだよねぇ?』

『そうそう、今度文化祭やるしぃ。来る?』


『行く行く~ってなんでやねん!?』


『……』

『……』


 暫しの静寂が流れてキリカさんが話題を変えた。


『てかさ、MANAMIちゃんの高校は文化祭とかやらないの?』


『おい!無視すなて!!』

 

「やりますよ?最近その運営で忙しくて」


『MANAMIさんも無視す──』


 ルブタンさんのツッコミを遮るようにキリカさんと零夏さんが言った。


『え~!!行きたい!!』

『私も行きたい!!』


「全然、良いですよ!」


『やった~!!』

『やったやった!!』


「ルブタンさんと新界さんも来ますか?」


 eスポーツが好きな学生もたくさんいる。彼等が来てくれたら文化祭も盛り上がると私は判断した。


『え?良いんすか?新界さんどうします?』

『行ってみたいです』


 新界さんの返事を聞いてルブタンさんも行くことを決めたが、ルブタンさんがVユニの2人に言った。


『でも流石に俺らといたらお前ら身バレするんとちゃう?』


 そう質問された零夏さんは言った。


『あ~、確かに……』


 キリカさんが私に尋ねる。

 

『てかMANAMIちゃん、どこの高校?』


「東京の青葉高校です」


 するとキリカさんが言った。 


『え、青葉!?私の母校なんだけど……』


「え~!!!?」

『はぁ!?』

『マ!?』

『!?』


 まさかキリカさんが私の通う高校のOGだったとは。


『え~やだぁ!年齢バレるんだけど……日本史の中台先生とかまだいる?』


「はい!いますよ!!」


『えぇ~!!担任は?』


「鐘巻先生です」


『鐘巻っ!!?なっっつ!!』


 ルブタンさんが私達の会話に割って入った。


『てかeスポーツ大会で高校名出てたやん?なんでそんとき気付かんかった?』


『プレイが凄すぎてそこに全然注目してなかった!』


『あぁ、それわかるわ』


『でもこれで、私が青葉の文化祭行っても怪しまれないよね?OGが友達連れてやって来たって感じで』


『おぉ確かに!』


『てかさぁ、MANAMIちゃん知ってる?』


 キリカさんが尋ねる。


「何をですか?」


『文化祭終了時に打ち上げる花火を見ながら好きな人に告白すると、永遠に結ばれるって七不思議』


『なんやそれ?』

『え~♡!?』

『……』


「え?そうなんですか?」


『そうそう、なんか女バスの先輩が言っててさぁ』


 零夏さんが訊いた。


『それでそれで?キリカはコクったの?』


『永遠には結ばれなかったけど、付き合えたっちゃ付き合えたかな?』


『きゃ~!!良いな良いなぁ~♡MANAMIちゃんはいないの?好きな子』


「わ、私は……」


 織原君のことを想った。


『あっ!いるんだ!!』

『え~!紹介してよ!!』


『新界さん、俺らこの部屋抜けましょか?』

『…そうっすね……』

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