川原 茉莉萌
第1話 アタシの一日目
【
――えっ! ちょっと待って!
――ウソでしょ!? アタシ死んじゃったの!?
卵型のソファーから飛び起きたアタシは、壁についた銀色のプレートを両手で勢いよく押した。
バーンと大きな音がして、アタシは部屋からでた。
「川原さま。お出かけになりますか?」
ドアの横に真っ白い男が立っていた。
髪も服も白い。
なによ? コイツ――。
「って……ヤダ、良く見たらイケメン!」
「コンシェルジュのサキカワと申します」
「あ、そういえばさっき放送で、コンシェルジュがどうとか言ってたわね」
サキカワは笑った顔でアタシをみている。
「で? なに?」
アタシがそう聞くと、サキカワは出かけるときの注意点とやらの説明を始めた。
「お手もとのチケットは、そのままポケットやカバンなどにしまったままでご利用できます」
「チケットってなによ?」
ハッと手もとをみると、いつの間にかハガキのようなカードを持っていた。
〇〇〇〇年 〇月 ×日 二十時四十八分 ~
〇〇〇〇年 〇月 □日 二十時四十八分 迄
「チケット下の日付が期限となります」
サキカワはその期間のあいだなら、行きたいところに行けるといった。
「ホントに!? どこにでも行っていいの!?」
「はい。ですが、行かれる場所は、一度でも行ったことがある場所に限られます」
「ハア? 行ったことがある場所だけ? そんなの、なんの意味もないじゃないの!」
アタシが抗議しても、サキカワは「規則ですので」としか言わない!
青い者両しか乗っちゃダメとか赤と黄色は避けろとか、もうワケわかんないわよ!
それに、とり憑いたら「大変なことになる」って、大変なことってなんだっていうの!
「行き先を思い浮かべていただけますと、そこへ向かう
くれぐれも、赤や黄色の者両には乗らないように、という。
よくわかんないけど、とにかくすぐに出かけなきゃ!
行き先は、カレのところに決まってる。
決まってるけど……どこにいけば会えるのよ?
「サキカワ! どこに行けばカレに会えるのよ!」
「どこに……と申されますと……?」
アタシはとぼけた答えを返してきたサキカワに苛立って怒鳴った。
「だから! カレに会いに行くのよ! 行き先ってどうしたらいいのかって聞いてるの!」
「それでしたら、まずはカレシさまのご自宅へ向かわれてみては、いかがでしょう?」
「自宅なんて知らないわよ!」
キーッと地団駄を踏んだ。
サキカワは相変わらず薄笑いを浮かべたまま、直立している。
その表情が、さらにフッと緩んだ。
コイツ、ホントにイケメンだわ……。
サキカワがなにか言いたげな顔をしているのをみて、なぜか、ハッとカレの職場が思い浮かんだ。
「思いついた! ああ、あれが者両ってヤツね」
アタシは一番手近なヤツに飛び乗り、白の間を離れた。
遠ざかる中、サキカワが「くれぐれも注意点はお守りいただけますよう……」とかなんとか言っているのが聞こえた。
注意点?
(ああ、そういえば最初になんかゴチャゴチャ言ってたわね)
確か……邪な行為がどうとか、危害を加えたらイケナイとかなんとか?
アタシは思わず笑ってしまった。
危害なんて加えるワケないじゃないのよ。ねえ?
移動をしながら、少しずつカレの職場に近づいているのがわかる。
ソワソワしながら、髪が乱れていないか、服装は変じゃないか、確認しようとガラスをみた。
「ハア? 映ってないし! これじゃあ自分の姿がわかんないじゃない! ちょっと……サキカワ! サキカワ!」
アタシが呼ぶと、サキカワはすぐに姿をみせた。
涼しい顔で「いかがなさいましたか?」と聞いてくる。
なんとなく、アタシに仕える執事のような気持になってきた。
「ガラスに姿が映らないんだけど!」
「ああ……なるほど」
「なるほど、じゃないわよ! これじゃあ髪や服が乱れても、チェックもできないじゃないの!」
「ご心配には及びません。お手持ちの手鏡を覗いていただければ、お姿の確認ができるようになっております」
「手鏡?」
手もとをみると、いつの間にか自分のバックを持っている。
中を確認してみると、今日に限って鏡が入っていない。
「ない……入ってないじゃない!」
「それは私どもにはなんとも……どうしても気になるようでしたら、ご自宅に戻ってお持ちになるのがよろしいかと存じます」
うーっと頭を掻きむしりたくなるほどイライラするけれど、そんなことをしたら、本当に髪がぼさぼさになってしまう。
仕方なく、アタシは急遽、自宅に戻ることにした。
「川原さま、行ってらっしゃいませ」
サキカワは
その姿をみて、アタシは少しだけ気分が良くなった。
最寄り駅につくと、アタシは者両を飛び降りて家まで走った。
古びた木造のアパートだ。
本当は、オシャレなマンション……アパートでも、新しくてオートロックがついている物件が良かったのに。
部屋の鍵を開けようとして、手がドアをすり抜けた。
「ヤダ! うっそ!!! アタシ通り抜けができるんだ……」
これは……なにかと便利だわね。
ドアを通り抜けて部屋のスタンドミラーを使い、身支度を奇麗に整えた。
棚の上にあった手鏡をカバンにしまうと、改めてカレの職場に出かけた。
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