ラスト・チケット
釜瑪秋摩
白の間
第1話 白の間
――体がすっぽり埋まってしまうほどの、卵型のソファーで目が覚めた。
――腰かけているというより、ほぼ横になっている状態。
――天井は真っ白で、ソファーも真っ白。平衡感覚が狂ったような気持になる。
――プツプツと雑音が聞こえ、まるで古いスピーカーから流れるような声が耳もとに届いた。
人生という長い旅路を終えたみなさま。
ようこそ、この「白の間」へお越しくださいました。
中には短いかたもいらっしゃるかもしれませんが……大変お疲れさまでした。
――長い旅路を終えた……?
――どういうこと?
ここでは、みなさまが現世で最後に過ごされる七日間の、管理をさせていただいております。
まず、お手もとのチケットをご覧ください。
――いつの間にか、ハガキ大のカードを手にしていた。
――言われたとおり、それをみる。
こちらのチケットは、みなさまが現世で使用できる最後のチケットとなっております。
一番上に記載されている日付と時間が始まりのとき。みなさまが現世を離れたときとなっております。
一番下に記載されている日付と時間は終わりのとき。みなさまが現世を離れるときとなっております。
この七日間のあいだ、この『
国や距離は関係なく、ご希望の場所へ訪れていただくことが可能でございます。
――現世で使用できる?
――現世を離れたときと、現世を離れるとき?
――それは同じ意味なんじゃあないの?
――って、旅を満喫しろって言われても……。
――それに『乗者券』ってなに? 『乗車券』の間違いなんじゃあないの?
ただし、ご利用に際しては、いくつかの制限がございます。
チケットの裏面をご覧ください。
一つ。
訪れることが可能なのは、ご自身が一度でも訪れた場所であること。
※ただし特例として参列の場合は訪れたことがなくても可。
二つ。
者両はかならず青を選ぶこと。
三つ。
復讐や脅迫など邪な行為はしないこと。
四つ。
者両および現世に生きる人々に危害を加えないこと。
これら制限を破る行為があった場合、大変なこととなりますのでご注意ください。
――制限があるのはわかった。破ってはいけなということも。けど、大変なことってなに?
――車両じゃあなくて者両? なにそれ?
有効期限は七日間でございます。
終わりのときに間に合うよう「白の間」にお戻りいただきます。
早いお戻りは問題ありませんが、お時間までにお戻りにならない場合は強制的に戻されます。
くれぐれも、お時間のお間違いなきよう、お気をつけください。
このチケットをご利用にならない場合や、早いお戻りの場合には、この「白の間」にてお過ごしいただきます。
各部屋にてお休みいただくか、これまでを振り返る、各種映像をご覧いただくことも可能でございます。
ご希望がございましたら、コンシェルジュまでお申し出いただけますようお願いいたします。
――コンシェルジュって……。
後ろの扉を開いた瞬間から旅の始まりとなります。
最初の乗者まではご不明な点も多いかと思いますので、コンシェルジュがご案内いたします。
旅の途中でなにか迷った際には、いつでもコンシェルジュへお申しつけください。
思い出の場所へいくも良し。お通夜やご葬儀に参列するも良し。
それではみなさま。どうぞお気をつけて。
――お通夜やご葬儀って……。
――ああ……そうか。
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