6話 7月22日 強盗退治 八神大智
帰る方向とは逆に歩くこと約5分。目的のファミレスは思ったよりも近くにあった。
店内に入ると「いらっしゃいませー!」と、女性の店員さんが出迎えてくれた。
「二名様ですね。ではこちらへどうぞ」
店員さんに案内されて中へと進む。
夕食の時間帯でもあり、中にはけっこうお客さんが入っていた。家族連れや友達同士、カップルなんかも目立つ。
俺もカップルとかに見られてるのかな……
ついそんな事を考えてしまう。そんな風に見られたら七瀬さんに迷惑がかかってしまう。
ふと、入り口付近のテーブル席にいた二人組と目が合う。
高校生ぐらいだとは思うが、どちらも大人びて見える。一人は黒髪が腰の辺りまである女の子で、七瀬さんにも負けず劣らずの美形顔。少しきつめの顔つきだが、それが彼女の良さをさらに引き立てていた。もう一人は……何だろう? 女の子だとは思うが男にも見える。ショートカットがよく似合うかなり中世的な顔つきの女の子だ。ぱっと見、美男美女のカップルにしか見えない。
その美男美女と目が合ったのは一瞬で、二人はすぐ俺たちから目を逸らすと、何やらコソコソと会話を始めた。
うっ……さっそく何か言われてるのか? まさか七瀬さんと同じ高校の
またそんなことを考えてしまう。せっかく七瀬さんに誘われてきたんだから、いったんそういう事は忘れよう。
「こんな近くにあったんですね」
そんな会話をしながら店員さんに案内されて席へと着くのだった。
食後に頼んでいたパフェが届き、七瀬さんと二人で食べようとしたまさにその時、それは起きた。
「キャー」という悲鳴が突如店内に響き渡る。どうやら入り口の方かららしい。
見ると入口の辺りで何やら店員さんと男が……。
「頭を低くして隠れて!」
男の手の中に握られたものを見て、俺は七瀬さんに鋭くそう言い放った。
「えっ……」
「いいから早く!」
戸惑う七瀬さんだが、今は説明している暇はない。
俺は七瀬さんがテーブルの下に潜り込むのを確認すると、素早く行動を開始した。
男はまだ店員さんに向き合ってる。今のうちに距離を詰めなければ。
男の死角になるように移動する。皆男に注意を取られており誰も俺の動きには気づいていないようだ。――その方が都合がいい。
「いいから金を出せ!」
男のそのセリフで状況が分かってきたのだろう。たちまち店内がざわつきだした。しかし、十分に男との距離を詰めた俺は、すでに背後に回り込み制圧するタイミングを見計らっていた。
うかつには手を出さない方がいい。ナイフならともかく拳銃では……
そう、男の手に握られていたのは拳銃だった。
「おい、お前、何してる!」
男が突如動き出した。近くのテーブル席に座る少女に近づいていく。少女はビクッと体を震わせ男を振り返った。入店したとき俺たちの方を見ていた黒髪の長いあの少女だ。
男がその少女の襟首をつかんで強引に引き寄せた。
「キャー」
少女の手からスマホが落ちた。どうやらスマホで何かしていたらしい、そこを男に見つかってしまったという事か……。
男はそのまま少女を後ろから抑え込み、拳銃を少女のこめかみに当てる。
「早くしろ! このガキが死ぬぞ!」
男はまた店員さんに向き直ると、少女を盾に詰め寄った。
まずいな……人質を取られたのは厄介だ。
いつでも男にとびかかれる位置に移動していた俺だったが、これではますます手が出せない。かといって、長期戦に持ち込むつもりもない。一瞬のスキをついて奇襲すれば十分に勝機はあるはずだ。
「は、はい!」
店員さんは青ざめた顔で返事をすると、レジのドロアーを開け、中から現金をとり出そうとする。しかし、恐怖と焦りで思うようにいかないのだろう。何とか取り出したお金を床にバラまいてしまう。
「何やってんだ!」
イラついた男が店員さんに銃を向ける。——少女から銃がそれた。
そのスキを俺は見逃さなかった。
瞬時に男との間合いを詰める。男が握った拳銃を撃鉄とシリンダーごと覆うように右手で握りこむ。これで
あとは大丈夫だ。拳銃を抑え込んだまま小手返しの要領で男の右手を内側にひねる。そのままの勢いでバランスを崩した男は、地面に叩きつけられた。
「ぎゃっ!」
何ともかっこ悪い呻き声が男の口から漏れる。
しかし、俺はそんな事にはかまわずに男を抑え込んだまま、関節を極めた男の手から拳銃を奪い取った。そのまま片手でシリンダーから弾薬を排出する。これで拳銃は無力化できた。
安心してふと我に返る。店内には穏やかなBGMが流れているだけで、それ以外の音が何一つ聞こえてこない。辺りを見回す。そのまま時が止まったかのように、誰もが動きを止めていた。そして——
「助かった……」
誰かがそう呟いた。
まるでそれが合図だったかのように店内の時間が徐々に動きだす。
「兄ちゃんすげーな!」
近くの席のおじさんが興奮気味に立ち上がった。
「兄ちゃんは命の恩人だ!」
そう言って俺に拍手をしてくる。
「いや、そんな……」
そんなおじさんにつられてか、周りの人たちも拍手をし始める。徐々に大きくなる拍手に合わせ歓声も交じり始めた。
記憶がないとはいえ、こんなに人から注目されたことなどないだろう。戸惑いつつも安心してばかりはいられない。男は俺が押さえているだけだ。暴れられても厄介だろう。
俺は警察への通報と怪我人の確認をするよう店員さんに指示を出した。我に返った店員さんは大慌てで事後処理を開始する。
ほどなく駆け付けた警察官が男を引き連れて行った。当然俺は事情調書を受けるが、記憶喪失のためなかなか面倒だった。そのまま俺もパトカーに乗せられ警察署へ行くはめに……
人質になった少女も気になるところだが、それよりも七瀬さんだ。事情は説明したのだが半ば放心状態になっていた。本当はちゃんと家まで送っていかなければならないのに……。
はたして俺は、警察官に連れられて警察署へと向かうことになったのだった……。
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