第3話
というわけで。晩御飯の後、私は楓ちゃんと樹くんの部屋を訪れた。
私も楓ちゃんも樹くんも、もうパジャマに着替えてて、後は寝るだけなんだけど。
ここで私は、こう提案した。
「ねえ。今日は私も、ここで寝ていいかな? まだ話したい事、たくさんあるもの。3人で枕並べて話そうよ」
「あ、いいねえ。枕並べて寝るなんて、昔幼稚園にお泊まりした時みたいじゃないか」
目を輝かせる楓ちゃん。実は私も、その時の事思い出したの。
初めてのお泊まりでドキドキてたけど、楓ちゃんや樹くんと夜遅くまで一緒にいれて、楽しかったんだよね。
だけど樹くんは。
「却下」
ええーっ、どうしてー!
一発逆転を狙っての作戦だったのに、一言で断られちゃった。するとそんな樹くんに、楓ちゃんは眉を吊り上げる。
「こら樹、せっかく華恋ちゃんが言ってくれてるのに、断ったら失礼でしょ」
「楓ちゃん、別に失礼なわけじゃ。でも、私もっと樹くんとお話したいんだけど……ダメ?」
「うっ……」
樹くんの顔が一瞬、赤くなったような気がしたけど。すぐにまた淡々とした口調で返事を返してくる。
「僕はその……疲れてるから。話をしたいなら楓が、華恋の部屋に行ったらいいんじゃないかな」
「あっ……」
そうだった。樹くん疲れてるんだ。
アメリカからここまでの長旅だったのに、押し掛けたら迷惑だよね。
焦っていると、楓ちゃんがポンと肩に手を置いてくる。
「私は疲れてないから構わないよ。華恋の部屋に、お邪魔させてもらえる?」
「えっと、でもそれじゃあ、樹くんが一人になっちゃうんじゃ」
日本に来たばかりなのに、楓ちゃんを取られて寂しくないかなあ。
「平気。別に楓がいなくたって、どうってことないから」
「むうっ、可愛げのない弟め。後で僕も交ぜてって言ってきても知らないから」
「言わないよ。それと華恋、簡単に男子と一緒に寝たいとか言わないでよね。華恋は女の子なんだから」
「へ? でも楓ちゃんだって、樹くんと一緒に寝るはずだったんじゃ?」
「楓とは姉弟だからいいの。とにかく華恋、二度と変な事言わないで」
「ご、ごめんなさい」
樹くんが何をそんなに怒っているのかは分からなかったけど、仲良くなるどころか嫌われちゃったかも。
けど挽回しようにも、疲れているのにいつまでも部屋にいるわけにはいかずに。楓ちゃんと一緒に、私の部屋へと移動する。
私は普段ベッドで寝てるけど、その横に布団を敷いて楓ちゃんが寝る。
そして電気を消すと、楓ちゃんが話しかけてきた。
「ごめんね。本当は樹と、話したかったんだよね」
「うん。でも何だか空回ってばかりで。樹くん、私の事嫌いになってないかなあ」
「大丈夫、それは絶対にないから。ねえ、隣に行ってもいい?」
「えっ? う、うん」
布団を抜け出して、ベッドの中に入ってくる楓ちゃん。
昼間も思ったけど、私とは違うシャンプーの香りがしてドキドキしちゃう。
「ねえ華恋。最初に会った時の事、覚えてる? 私あの時、華恋に酷い事言っちゃったよね」
「それって、しゃべり方が変だってバカにしてるって、言ったこと? あんなのどうでもいいよ」
「どうでも良くないよ。あんな事言ったのに、華恋はそれから毎日、友達になろうって言ってくれて。それが凄く嬉しかった」
言いながら楓ちゃんは、ムギュッて抱き締めてくる。
こ、こういうスキンシップには、まだ慣れないや。向こうでは、これが普通だったのかなあ?
「樹だって一緒だよ。だから、華恋を嫌いになるはずない。私が保証するよ」
更に強く抱き締められて、ドキドキは最高潮。
そ、そうだったらいいんだけど。はぁ~、明日はもっとちゃんと、樹くんと話したいなあ。
って、この時は思ってたんだけど。
楓ちゃんとはしばらく話をしてたんだけど、やっぱり旅の疲れがあったのか、すぐに寝入ってしまって。
反対になかなか寝付けなかった私は、水を飲みに起きたんだけど。そしたら廊下で、樹くんとバッタリ会っちゃったの!
お父さんもお母さんももう寝ていて、家の中は真っ暗だったけど。
トイレに起きてたのかな。廊下の向こうからこっちに歩いてきた樹くんと、鉢合わせしたの。
「あれ、樹くんどうしたの?」
「ちょっと……。華恋は? 楓が迷惑掛けてない?」
「まさか。今は部屋で、ぐっすり寝てるよ。樹くんは、一人で寂しくない?」
「別に」
返ってきたのは、またも素っ気ない返事。
男の子と話すのって、やっぱり難しいのかも。なんて思っていたら。
「華恋……その、ごめん。僕、態度悪くて」
「へ? 急にどうしたの? 別に悪くなんか無いけど」
「ううん。愛想悪いって、自分でもわかってる。本当は華恋と話したいこと、たくさんあったのに」
「えっ?」
暗くて見えにくいけど、樹くんは照れたように目を泳がせる。
私もいきなりそんな事言われたもんだからちょっと照れたけど、それよりも樹くんの仕草が可愛くて胸がキュンってなっちゃう。
これはもしかして楓ちゃんの言ってた通り、照れてただけだったってこと?
「相手は私なんだから、遠慮することないよ。昔みたいに、たくさん話そう」
「ありがとう。けど、昔みたいには無理かも。華恋が……可愛くなりすぎてるから」
「か、可愛い!? いやいや、そんな事全然。それなら樹くんだって、凄く格好よくなってるじゃない。向こうでモテてたんじゃないの?」
恥ずかしかったから話を反らすべく言ったけど、樹くんは言いにくそうに顔を伏せる。
「ううん。そもそも僕、女子は苦手だし」
「え、そうなの?」
「うん。何を話したら良いかとか、どう接して良いかとか分からなくて、ちょっと」
「そうだったんだ。あ、でも待って。それじゃあ私も、あまり話さない方がいいってこと?」
「ううん、それは違う。華恋は、特別な女の子だから」
「ふ、ふえぇ!?」
特別な女の子発言に、頭が沸騰……ううん、爆発しそうになる。
な、何これ? 昼間は塩対応だったのにまるでお砂糖をお腹に流し込まれたみたいに甘々な事言ってる!
と、特別って言うのは、幼馴染みだから特別って事だよね。それは分かっているのに、私ってばどうしてこんなにドキドキしてるんだろう。
「華恋、どうかした?」
「な、なんでもない。これからよろしくね、樹くん」
とにかく、女の子が苦手で緊張してただけだってわかって良かった。こんなに格好いいのに勿体ないなって思うけど、ギャップがあって可愛い。
昔とは変わった所もあるけど、やっぱり樹くんは樹くんだ。
上手くやっていけるかちょっと不安だったけど、これならきっと大丈夫だよね。
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