我が家の二人の王子様

第2話

　草薙楓ちゃんと、草薙樹くん。二人と初めて会ったのは、幼稚園に入った時。

　他の子達に交ざらずに二人でいた楓ちゃんと樹くんに、私が声をかけたの。

　ただ、この時返ってきた言葉は。

「な二？　アンタもわたシ達のしゃべり方ガ、変だって言うノ!?　バカにしないでよネ！」

　片言の日本語でそう言いながら、キッと私を睨んできた楓ちゃん。そして樹くんは怖がるように、楓ちゃんの背中に隠れていたっけ。

　後で分かったことだけど、二人は日本人だけど生まれはアメリカ。最近日本に越してきたばかりだから日本語がまだ上手じゃなくて、幼稚園の子達にバカにされていたんだって。

　だけど私は、別にそれがおかしいとは思わなかった。

　初対面で拒絶されたのはショックだったけど、それが逆に私の友達になりたいパワーに火をつけて、めげずに何度も声をかけ続けたの。

　その甲斐あって、最初は警戒していた二人ともすっかり打ち解けて、気づけば親友になっていた。

「華恋、今日ハぼくとあそボウ」

「あ、樹ズルい。華恋は私とあそブんだカラ」

「二人ともケンカしないで。三人で遊べばいいじゃない」

　ってな具合で毎日一緒になって遊んで。

　途中、一つ歳上の楓ちゃんは小学校に通い始めたけど、それでも放課後になると幼稚園まで会いに来てくれてたっけ。

　だけど私と樹くんが小学生になろうという時、突然別れが訪れた。二人のお父さんの仕事の都合で、またアメリカに行くことになっちゃったの。

　私達は三人とも、サヨナラなんてしたくない。ずっと一緒にいたいって駄々をこねたけど、どうすることもできずにお別れの日を迎えて。あの時私は悲しくて泣いちゃったし、楓ちゃんや樹くんも目に涙を浮かべていたなあ。

　だけどあれから6年が過ぎて、私達は再会を果たしたわけなんだけど。

「はい、ここが楓ちゃんと樹くんの部屋よ。これからはうちを、自分の家だと思っていいからね」

「はい、ありがとうございます、おばさん」

　お母さんに、笑顔で返事をする楓ちゃん。

　ここは我が家の、数日まで物置だった部屋。楓ちゃんと樹くんが今日からうちで暮らすなんて、まだ信じられないや。

　二人は昨日までアメリカに住んでいたんだけど。お父さんの仕事の都合でまた家族揃って、今度はインドに引っ越すことになった……はずだったんだけど。

　新しい国にホイホイ引っ越してばかりだと、楓ちゃんと樹くんが落ち着いて勉強ができないってなって、家族会議が開かれたんだって。

　それで最初は、アメリカの知り合いの所に二人を預けようってなったみたいなんだけど、どうせ預けられるなら日本の方がいいって樹くんが言い出して、楓ちゃんもそれに便乗。

　そうして日本にいる知り合いということでうちに話が舞い込んできて、後はなんやかんやあって。今日から二人はうちに、ホームステイすることになったの。

　あれ、二人は元々日本人だから、ホームステイにはならないのかな？　まあ細かい事はいいか。

　最初お母さんから話を聞いた時はビックリしたけど、また二人に会えるって思うとすっごく嬉しかった。

　ふふふ～、楓ちゃんや樹くんがうちに住むなんて、何だか夢みたい。

　楽しくなりそうで、ワクワクだよ。

　あ、でも二人はお父さんとお母さんから離れて、日本に来るんだよね。寂しくないかなあ？

　嬉しいけど、ちょっと心配。二人がどう思ってるか、分からないものね。

　だけど、再会した楓ちゃんはというと。

「一緒に暮らせるなんて嬉しいー。何だか華恋と、姉妹になったみたいだね」

　楓ちゃんは私を抱き締めて頭を撫でながら、幸せそうに笑っている。

　良かったー。楓ちゃんは喜んでくれてるみたい。

　私も楓ちゃんみたいなお姉ちゃん欲しいって思ってたから、メチャクチャ嬉しいよ。

　ただ、一方樹くんはと言うと。

「楓、遊んでないで早く自分の荷物を運んだら？」

　持ってきた荷物を、黙々と部屋に運んでいる樹くん。

　実は楓ちゃんとは帰りの車の中でもたくさん話したけど、樹くんとはあんまり話せてないんだよね。

　一応、元気だったとか、お父さんやお母さんと離れて寂しくないって聞いてみたんだけど、返事は「うん」とか、「別に」とか淡白なものばかり。

　楓ちゃんは照れてるだけって言ってくれたけど、少し不安になっちゃう。

「むうっ、私は華恋とイチャつくので忙しいんだ。樹、代わりに運んでおいて」

「空港でも僕が運んだんだから、それくらいやってよね。それと、あんまり華恋にくっつかないで」

「別に良いじゃない。あ、さては樹も本当は、華恋とくっつきたいもんだからヤキモチ妬いてるんでしょ？　遠慮せずに抱きついたら」

「ええっ!?」

　ボンって顔が熱くなる。

　だ、抱きつくって、樹くんが？　そ、そりゃあ樹くんの事は好きだけど、男の子に抱きつかれるのは、さすがに恥ずかし……。

「……違うから。バカなこと言わないで」

　心臓バクバクになる私とは違って、樹くんはクールにバッサリ切っちゃった。

　で、ですよね～。ドキドキしてた自分が、恥ずかしくなっちゃう。

　そんな私をよそに樹くんは荷物を置くと、また次を取りに部屋から出て行っちゃった。

　ああ、また上手く話せなかったよ～。

「ん、どうしたの華恋？　ため息ついて」

「楓ちゃん。私、まだ樹くんとあまり話せてないいなーって思って。樹くんの態度も、何だか素っ気ないし」

「んー、久しぶりに会って緊張してるだけだと思うよ。あの子人見知りだから」

「だったらいいんだけど。ねえ、樹くんって楓ちゃんとは普段、どんな話をしてるの？」

「音楽の話とか、ドラマの話はするかな。樹はミステリーもののドラマが好きでね。日本の刑事ドラマや探偵ものを、向こうで見てたよ」

　へえー、そうなんだー。

　ドラマを見ながら謎解きを考える樹くんを想像したけど、何だか似合ってる。

　後で話してみようかなー。

「じゃ、じゃあ樹くんの好きな食べ物は？　日本でやりたい事はあるかなあ？」

「そうだねえ……って、さっきから華恋、樹の事ばっかり。私の事はどうでもいいの？」

「ふぇ？　そ、そんな事ないよ。楓ちゃんの事も、たくさん知りたいから」

「ふふっ、冗談だよ。華恋の事も、たくさん教えてくれるかな？」

　もちろん！

　それから楓ちゃんとは一緒にお風呂に入って、その間もたくさん話だけど、当然樹くんとはそうするわけにもいかず。

　夜になって、仕事が終わって帰ってきたお父さんも交えて晩御飯を食べたけど、結局樹くんとはそんなに話す事ができなかった。

　けど、これくらいじゃめげないもん。幼稚園の頃だって最初は塩対応だったけど、何度もぶつかっていったんだから。