26

晴れて生徒会庶務になった。早速仕事・・・というわけではなく、来週の月曜日からということになった。


「明人、お疲れ様」


隣に座る沙紀から労いの言葉をもらう。僕は家で沙紀と夕飯を食べてからゆっくりしているところだった。


「うん、ありがとう」


今日は特に疲れた。松山の発作が起きて、気絶して、介抱してたら夜遅くになってしまった。僕は伸びをしながら、つぶやいた。


「疲れたけど、今週は充実してたな~」


僕としては自然に口から出た言葉だった。難しい試練に必要なことを考え、それを実行していく。筆記のテストとは違った難しさがあって中々ハードだった。しかし、


「ふ~ん。私を捨てて他の女と一緒にいれたことがそんなに嬉しかったのね?」


沙紀は僕をジト目で見てくる。


(なんでだよ・・・」)


「そんなことは一言も言ってないんだけど・・・」

「いいえ。そうじゃなきゃそんな言葉は出てこないはずよ」


沙紀は僕の言葉を深読みしまくってへそを曲げてしまった。


「どうせ私には年上の包容力と色香はないわよ。年も明人には月で負けてるし、所詮は妹扱い。あ~あ明人の年上で生まれたかったわ」


(中々に根が深い・・・)


僕は彼女のご機嫌取りをするしかないようだ。ツーンと明らかに不機嫌オーラを出されたらやる以外に選択肢がなかった。


「僕が悪かったよ・・・どうしたら機嫌を直してくれる?」

「自分で考えなさい。あ~あ私は傷ついたわ(棒」


ちょっとイラっとする。が、イライラしても仕方がないので考えてみる。


僕は今週生徒会庶務に選ばれるため行動していた。必然的に沙紀は僕と関われなくなるので、寂しい思いをした。しかも寂しい思いをさせた張本人の僕は年上の美人たちといちゃいちゃ(沙紀からしたら)していたことに嫉妬をする。


(うん。めんどくせぇ・・・)


全部不可抗力でどう考えても僕に悪いところがちっともない。


「って言ったら沙紀がキレるのは目に見えてるし・・・(ボソ」

「何か言ったかしら?」

「いや何も」


凄みのある笑顔で問い詰められたので、僕も笑顔で返しておく。普通に怖かった。


「ほらほら早くしなさい。そんなに難しいことでもないでしょう?ヒントも出したんだし・・・」


沙紀がソワソワとし出した。遠足を楽しみにしている小学生みたいだった。


とりあえず沙紀の言葉を反芻する。沙紀は年上の包容力と色香とか言って気がする。ということ沙紀が欲しいのはそれかもしれない。


(じゃあ僕が沙紀に甘えればいいってことか・・・いや違うな。というか恥ずかしすぎて僕にはできない。沙紀の求めているのってなんなんだろう?)

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一方、


明人ったら随分長考するわね。私のことを想ってくれているってことだけで嬉しすぎるのだけれど、あまり焦らされると困るわ。


私が明人にアピールできてないもの。それは包容力だと思うのよ。だからさっき分かりやすく年上に嫉妬したフリをしたでしょう?この程度察せられないほど、私の彼氏は馬鹿じゃないはずよ。


さぁ早く!

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「う~ん、まぁこれかな」


とりあえず僕ができる最大限の行為を考えたらこれになった。


「!何かしら?」


沙紀から犬耳と尻尾が幻視できてしまった。ぶんぶん動いているのが分かる。あんまり期待されても困る。


「はい」

「はい?」


僕は胡坐で沙紀にこっちに来なと手招きする。沙紀は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


「沙紀は僕に甘えたいのかなぁって」


沙紀は素直じゃないというか面倒くさいところがたまにある。僕に年上の当てつけをしてきたのは逆に僕に対してそういうことを求めているんじゃないかと思った。


「逆よ・・・」

「え?」

「いえ。もうなんでもないわ。それにしても明人の浅慮さには呆れるわ。私がこんなことを求めていると思っているなんて」


やれやれとジェスチャーをする。


「それじゃあやめ」

「まぁ真剣に私のことを考えてくれたんですもの。だったらしっかりと受け取ってあげるわ」


ようかと言う前に沙紀は足早に僕の胡坐にちょこんと後ろ向きで座る。僕は苦笑する。


「それじゃあ後はお任せするわ」


(ふふ、身体が接触している今なら、私の包容力をアピールするチャンスでもあるのよ)


「はいはぁい」


沙紀の思惑など知らずに僕は沙紀を甘やかすことにした。


~五分後~


「うう~御堂会長の馬鹿ぁ、なんであんな一気に仕事を持ってくるのよぉ、私だって疲れるのぉ」


最初の体勢から変わって僕と沙紀は正面から向き合っていた。沙紀は僕の胸に頭を当てて、ポカポカと胸を叩いてくる。


「お~よしよし」


僕は沙紀の頭を撫で続ける。最初のうちは強がっていた沙紀だが、今ではこの有様だ。今は彩華さんの愚痴を言っている。


「『沙紀ちゃんなら余裕だよね?』じゃないの!あの女狐!絶対に私が苦しむのを見て楽しんでるんだから!」

「でも、それは期待されてるからじゃないの?」

「きついものはきついの!この庶務争奪戦の三日間は明人と私が接触しないように仕事量が三倍くらいになったんだから!」

「裏でそんな戦いが繰り広げられていたのね・・・」


でも今回ばかりは御堂会長の英断だと思う。沙紀がついてきたら試練にならなかっただろうし、何より松山と接触されていたら滅茶苦茶にされていたと思う。


「うう~疲れたぁ。他の女とイチャイチャして!明人の馬鹿!もっと私を甘やかしなさい!」

「はいはい」


僕は肯定も否定もしない。ただ沙紀の求めることをしてあげる。


(沙紀がもとめていることは間違っていなかったようで何よりだ)


「うう・・・にぃにの馬鹿ぁ」


ただ幼児退行してしまっているのでやりすぎたかもしれない。


~1時間後~


「そ、その忘れて頂戴///」


沙紀は自身の行為を思い出して顔を隠してしまっていた。


「疲れてたんだから仕方がないよ。沙紀としても僕にこうして欲しかったんでしょ?」

「違うわよ!///で、でも結果的に最高だったけど、ゴニョニョ」

「最高だったならやったかいがあったよ」

「うぅ~なんで聞こえてるのよぉ」


沙紀は自分の顔を洗濯してあった僕の寝間着で覆ってしまった。


「こんなはずじゃなかったのにぃ・・・」

「まあまあ沙紀に頼られてこっちも嬉しかったよ。世話になりっぱなしだったから少し返せた気分だよ」

「う~イケメンすぎる・・・」


(大袈裟だなぁ)


僕は沙紀の頭をよしよしと撫で続ける。するとついに回復したのか沙紀はガバっと顔を上げた。


「明人、明後日デートしましょう」

「デート?」

「ええ。振り返ってみれば私たちって恋人らしいことを一つもやってないじゃない?」


(結構やっている気がするけど・・・)


ここで話を止めては沙紀の機嫌を損ねるだけなので、僕は頷く。


「だから、明後日の日曜日にデートをしましょう。プランは私が考えておくわ」


突然やる気を出した沙紀に怪しさは拭えない。また何か企んでいそうだけど悪いことではないだろう。


「了解」

「いい返事ね。それじゃあ楽しみにしてて頂戴」


沙紀はそう言い残して家に帰った。


(今日の恥辱は日曜に返してあげる。見てなさい明人。私の包容力と色香にメロメロにしてあげるんだから!)

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