25

「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!!」


松山がリズミカルに奇声を上げて制止してきた。彩華さんと他の役員は松山の方に向き直る。


「どうしたの?優君」


彩華さんは不思議そうに松山に尋ねる。


「あ、彩華姉さん。今、幻聴が聞こえたんだけど」

「幻聴?」

「ああ、岩木が生徒会庶務に選ばれたっていうさ」


僕が選ばれたことが信じられないらしい。まさかの幻聴扱い。


「明人君が選ばれたのは現実だよ?」

「嘘だ!!!!」


生徒会室にひぐら〇のような絶叫が響き渡る。生徒会役員含めて僕ら全員、ビクッと反応してしまう。そして、勢いそのまま、松山は彩華さんに問い詰める。


「お、お、おれたまがテストだけじゃなくて、二度も負けるなんてあるわけがない!」

「ブフ」


彩華さんの後ろで松山の醜態を見て楽しんでいる生徒会執行役員の皆様。


「『おれたま』って(笑)」

「笑っちゃダメだよ、リンリン」

「とかいってる花蓮も笑いを堪えてるでしょ?」

「由紀さんもポーカーフェイスを保っていますけど、貧乏ゆすりが酷くなっていますよ?ププ」

「沙紀×2(サキサキ)の態度が一番酷いわ(じゃん)」

後ろで言われたい放題の松山。特に沙紀の態度は酷い。もう笑いを堪えようとしている態度ではないのだ。


「まぁ事実だからね~」

「そ、そ、そんなわけあるかぁ!!」

「も~子供みたいに喚いて」


松山は子供の癇癪のように喚いてしまう。彩華さんはダメな子供を持った母親みたいに見えてきた。


「優君も言ってたじゃん。大事なのは負けた経験をバネにして這い上がることだって。生徒会選挙が二学期にあるから、そこで勝てばいいでしょ?」

「うるさい!!負けることに価値なんかあるわけがないだろ!?」

「ええ・・・」


自分が言っていたことを完全に反故にしてしまった。


(まぁ、負けるなんて微塵も思ってなさそうだしな)


「じゃあどうすれば分かってくれるの?」


彩華さんももう面倒くささを隠そうとしない。松山を相手にするのが嫌すぎて他の人に助けを求めているが、誰も手伝おうとしない。


「俺が勝つまでだ!」


(なんてやつだ・・・)


僕は松山に対して恐れを抱いてしまった。


「みんな岩木に幻術をかけられているんだ!もしくは洗脳にあっている!目を覚ませ!」

「何言ってんの?」


(あ、やっべ)


僕は自分の口から声が出てしまって、余計に火に油を注いでしまった。松山はゆでだこのようになって僕を糾弾してきた。


「沙紀を洗脳したみたいに彩華姉さんたちにも同じことをしたんだろ!?」


絶句とかいうレベルじゃない。さっきまで笑っていた四人も気持ち悪いものを見ているようだった。


「もう、優君。帰って・・・」

「い~や帰らない。俺が彩華姉さん達の洗脳を解くまでは絶対にあきらめない!」


主人公感満載のセリフだった。さながら僕は悪の権化みたいなポジションなのだろう。ここまで自分の役割に徹することができるなら役者にでもなった方がいいんじゃないかと思う。


「それに俺は俺のことを好きになってくれた彩華姉さんのことを見捨てるわけがないだろ?」

「は?」

「「「「え?」」」」」


松山はとんでもない爆弾を落としてきた。彩華さんはもちろん、蚊帳の外にいる僕らも驚いてしまった。


「え、ええ~と優君。私が優君のことを好きだって言ったことってあるっけ?」

「ないけど、態度が雄弁に語っていたよ。俺はそこらの人間と違うから察せられるんだ。だけど、俺には好きな人がいるんだよ。ごめんな?」


そういって彩華さんをフリつつ、沙紀の方にウインクをする松山。被害者たちは、


「もう無理~凜ちゃん助けて!私の幼馴染がアレすぎて辛いよぉ!」

「ちょ、彩華!?」

「明人ぉ、目が汚されたわ!」

「沙紀!?」


戦闘不能どころか行動不能になってしまった。


「おい岩木!沙紀を離せ!」

「私の明人に話しかけんなカス!」


沙紀は僕の身体を壁にして身体を隠して、応戦した。


「俺の沙紀どころか彩華姉さんまで傷つけやがって!」

「優君のせいだよ!」


松山は生徒会の面々を叩き潰していく。ここまで日本語が通じないとどう対応するのが正解なのか分からない。


「ユッキー、リンリン。これは私たちが事態を収拾するしかなくない・・・?」

「同意・・・面倒だけどアレにこれ以上ここに居られたら、精神が持たない」

「やるしかないわね・・・」


僕と松山に試練を与えてきた三人はひそひそと話し合っている。


「松山くん」

「なんでしょう。栗田さん」


ビジネスライクな笑顔。由紀さんは吐き気を堪えながら松山に事実を伝えた。


「私は明人を選んだの。理由は化け物じみた記憶力と庶務に必要な献身さと謙虚さを持っているから」


選ばれた理由を言われると謎のこそばゆさがある。由紀さんにそう言われると嬉しい。


「次は私だね。アッキーは私からの課題に対して、しっかりと成果を出したそれだけだよ。望月さんがあんなに喜んでくれている姿を見るなんて初だよ。気遣いっていう面では圧倒的にアッキーが上だったね」


(そうかぁ。望月さんも喜んでくれていたのかぁ。それは良かった)


花蓮さんも僕を選んだ理由を教えてくれる。やっぱり何かこそばゆい。


「最後は私ね。私からの課題が一番難しかったと思うわ。生徒会副会長に必要なモノは何か。それを考えるのは本当に難しかったと思うわ。ただ、私にとっては彩華が変な方向に突っ走らないように生徒会で唯一ストッパーとして批判の精神を持つこと。それが生徒会副会長に必要なことだと思っているわ。その点明人は私の行動からそれを読み取り、実践したわ。その、だから、私は明人を選んだの」


凜さんが最後の方赤くなりながら選んだと言ってくれた。僕も照れそうになる。


「明人・・・あくまで生徒会庶務の役割にふさわしいのは明人ってことよ?それ以外に変な意味はないのよ?そこのところ大丈夫かしら?」

「だ、大丈夫だよ」


沙紀から釘を刺される。じとーっと見てくる沙紀を見て冷静になる。それよりも松山が全く話さない。全く喋らないので不気味だ。彩華さんが優しく声をかける。


「優君、これでわかったでしょ?だから諦めて。ね?」

「・・・」


松山は俯いたままだった。そして、


「・・・う」

「う?」


松山が言った言葉を彩華さんが繰り返す。そして、松山は笑顔で顔を上げた。僕はその姿に若干恐ろしさを感じた。


「違うじゃないですかぁみなさん。それ全部僕のことでしょう?」

「「「は?」」」


何言ってんだこいつみたいに松山を見る。


「だって岩木よりも、献身的で謙虚だし、気遣いもできて相手の求めるものもすぐに与えられるし、彩華姉さんにも批判的な態度を取ったじゃないか?」


絶句と言うか絶対零度の吹雪を食らったような生徒会メンバーの皆さん。


「ってか岩木。お前本当に汚いな。洗脳も大概にしろよ?」

「・・・」


僕もなんて言ったらいいのかと言葉に詰まる。


「ったく、生徒会に入りたいからって手段を選ばな過ぎだろう。お前終わってんな・・・」


なぜか僕は憐れみの視線を向けられる。


「今なら許してやるから、さっさと」

「あのさぁ、松山」


僕は松山の言葉に自分の言葉を被せた。僕も一言言っておきたくなってきた。


「・・・なんだよ」


僕はなんといったらいいのかと考える。あまり胡乱な言い回しだと、気づいてもらえないかもしれないし、かといって傷つけたいわけでもない。


「脳の病院に行ったら?脳内で言語変換できてなさすぎて心配になるんだけど・・・」

「は・・・?」

「だって松山って頭良かったじゃん。それなのに沙紀たちの言ったことが全く理解できてないんでしょ?」

「て、」


松山が顔をゆであがらせている。後ろでは、


「明人君、あれ天然?」

「天然です・・・ププ」

「沙紀、笑っちゃダメ(笑)」

「由紀だって笑ってるじゃん(笑)」

「~~~~~っ」


僕は松山を怒らせてしまったかと反省。凜さんは声を出さないようにしているが自分の机を叩いてる。


「あ、ご、ごめん。脳の病気は言い過ぎか。え~と耳が可笑しいのかな?だったら耳鼻科とかどう?」

「お、おおおおい」

「でも、僕は脳を診てもらった方が良いと思うよ?だって、洗脳とか幻覚とかそんなのフィクションの世界でしかできないんだから」

「て、ててめ」

「もしかしてアニメの見過ぎとかかな・・・」


僕は思いつく限りの松山の病気の可能性を伝えていく。プルプルしながら僕の話をちゃんと聞いてくれているようで何よりだ。すると、僕は松山の最大で最高の病気の原因について思い出した。これ以外に正解はないかもしれない。


「あ~そうだ。松山の頭がおかしくなるのって沙紀が絡んでる時だよ。それをお医者さんに伝えればいい治療法を見つけてくれると思うよ?」


僕は笑顔で言い切った。しかし、


「岩木いいいいいいいい!!!!!!!」

「うお!」


突然松山が僕に向かって突進してきた。が


「あ~ごめんなさい。足が出ちゃったわ~(棒」

「え?」


沙紀が出した足に松山が引っかかる。そして、


「ぐへえええ」


転んだ拍子に頭を来客用の机に強打し、ぴくぴくと痙攣している。


「「「「「「・・・」」」」」」


一瞬の静寂。


(なんか前にも見た気がする)


デジャヴを感じた。彩華さんがコホンと咳ばらいをした。そして、いつもの笑顔になった。


「これは事故でいいよね!」


僕らはうんと無言で頷いた。今回ばかりは凜さんも批判的にならない。


「それと保健室の先生を呼ぼう。花蓮ちゃん頼んでいい?」

「ほいほ~い」


彩華さんの言葉に花蓮さんが生徒会室を出て保健室に向かった。


「・・・とりあえず明人君。生徒会庶務おめでとう」

「「「「おめでとう~」」」」

「あ、ありがとうございます」


こうして、僕の生徒会庶務の就任式は微妙な感じで終わった。

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