23
「改めて副会長の岸田凜よ。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
最後の生徒会役員だ。岸田さんに認められれば僕は晴れて生徒会役員だ。
(今日の試練は何だろう)
パッと見、岸田さんは沙紀と同系統の美人だ。長い黒髪をポニーテールにしていて、清廉潔白というイメージが一番似合うような女性だ。
そんな人がどんな試練を与えてくるのかと身構えてしまう。
「それじゃあ今日やること、やること・・・やること?」
岸田さんは考え込んでしまった。そして、首をかかげた。
「副会長の仕事ってなんだと思う?私、こういう抽象的な言葉を言語化するのが苦手なのよね~」
(何言っているんだこの人・・・?)
「生徒会長のサポートですよね?彩華姉さんが考えた案を全肯定して、それを実現していくことでしょう?」
松山は自信満々に答えた。確かに僕もおおむねそのイメージだ。しかし、岸田さんの反応はいまいちだ。
「う~ん、間違ってはいないんだけど、そうじゃないのよね~彩華、どう定義すればいいかしら?」
突然、御堂会長に話を振る。当たり前だが、御堂会長は困ったような返事をする。
「それは自分で考えてよ~現役副会長でしょう?」
「う~ん、あっ、そうか、そうしましょう」
岸田さんは何か思いついたように手をポンと叩いた。
「今日の課題はまず副会長に求められる役割とは何なのかを考えること。文化祭実行委員会が丁度あるから、そこで副会長に必要なことを考え、実際に実行してみて。それが私からの課題かな」
「な、なるほど」
これは難しい。副会長に求められる動き。さっき松山が言っていたことが正解だと思っていたのでまた考え直さなきゃいけない。松山も僕と同じような表情をしていた。
「それじゃあ会議に行こうか!」
御堂会長が音頭を取って、生徒会役員+僕と松山は生徒会室を出た。
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「前回、文化祭のメインイベントを決めたと思います。で、悲しいことにキャンプファイヤーとミスコンは先生方から安全性と倫理性というところでボツとされました。残念!」
明らかに芝居かかった声音で実行委員会に説明する御堂会長。それに対して、残念だと思っている人たちは結構いた。特にミスコンを推していた彼は絶望で灰になっていた。
「だから、バンドとクイズ大会が文化祭のメインイベントになるかな~、とりあえずそれでいいかな?」
全員が頷く。
「うんうん!それじゃあ煮詰めていこうか!」
まずはバンドについての話し合いが始まった。
「バンドなんだけど、軽音部には絶対に出てもらうとして、後は有志で集める感じでいい?」
僕たちは頷いた。そこに関しては異論なんてあるわけがない。しかし、岸田さんが挙手した。僕は副会長の動きがどんなものなのかを理解するために観察した。
「集めるのはいいけど、例年結構な人数が集まるわよね?」
すると、話を振られた栗田・・・じゃなくて、由紀さんがコクンと頷いた。
「ん。二十組は軽く超える。毎回オーディションで五組くらいまで絞っていた」
その言葉を聞いた御堂会長は頷いた。
「なるほどね~確かにバンドをやるっていうのは青春の一ページに刻まれるからね~」
岸田さんと由紀さんの意見を聞いてそれを理解する。そして、実行委員会に問う。
「こういう意見があるんだけど、何かいい案はある?」
ざわざわとし出す実行委員たち。
「全員出すとか?」
「それだと時間がかかるだろ?」
「抽選は?」
「それだと落ちた人たちが納得しないでしょ?」
「だなぁ。オーディションが最適な気がする」
たくさんの意見が出て、これ以上は話が脱線すると思ったのだろう。御堂会長は手をパンと叩いて、強制的に黙らせた。
「こっちから聞いている分にはオーディションっていう声が一番多かったんだけど、それでいいかな?」
少し不満げな人もいたが、おおむね賛成なようだ。そこからはオーディションをする人は誰にするかや応募の諸条件を確定したりと事務的なことを議論した。ただ、
「オーディションの曲は好きな曲でいいよね」
と御堂会長が聞いて、それを実行委員が賛成というのだが、
「それだと審査の基準が分からなくなるわ。統一すべきよ」
とか、
「バンドメンバーの人数は三人からでいいかな?」
「それだと二人で出場したいっていう人はどうなるの?」
とか、
「会場の規模はとにかく大きくしたいなぁ!」
「大きくするのはいいけど、予算は足りるの?現実的に可能かどうかを考えないと」
など、いちいち小言を入れてくるのだ。御堂会長は慣れているのか、笑顔を崩さない。ただ、実行委員たちはそんな岸田さんに不満を抱いているようだ。松山でさえ不満側の応援しているようだ。当の岸田さんは素知らぬふりをしている。
(いったい、副会長は何をしているのだろう)
僕は生徒会の議事録を思い出す。過去の記録に副会長のことが書いてあるかもしれない。しかし、載っているのは会長、広報、会計、書記のことばかりだ。
(会長のことはたくさん書いてあるけど、副会長のことについては全く書かれていない・・・)
僕は過去の前例が参考にならないことに愕然とした。だけど何かあるはずだ。だって会長に次ぐに副会長という立場の人間が何も成さないわけがない。僕は必死に考えた。すると、
『広報ってさ。学校の顔なんだよ』
突然、昨日花蓮さんが言っていたことを思い出した。こんな時に何を思い出しているんだろう。今のところ、広報と違って副会長の仕事は・・・!
(ああ、なるほどそういうことか・・・)
僕は副会長に必要なことが何なのか分かった気がした。いや、確信した。僕はチャンスを待つことにした。
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「それじゃあバンドのことに関しては以上になります!予算とか細かいのは生徒会に任せてね☆」
御堂会長はウインクしながら右手でピースをする。
「それじゃあ次はクイズ大会になりま~す。私としてはクラス対抗とかにするのがいいと思うんだけどどう?」
「いいと思います!なぁみんな!」
突然の登場に驚いた。松山がここで出てくるってことは副会長の仕事が分かったということだろう。すると、松山の音頭で御堂会長の意見に大勢が賛成した。
(ここかな・・・)
正直、怖い。だけど、僕がやらなきゃいけないのはここだと思った。
「あの・・・」
「ん?どうかした?明人君」
僕が手を挙げると教室に静寂が訪れた。
「それだとクラスの中で一番頭のいい人だけがずっと活躍し続けてしまって、全員が楽しめないと思います・・・」
僕の言葉に白けてしまった人間がたくさんいた。
「空気読めよ・・・(ボソっ」
そんな言葉が聞こえた。松山は意地悪な顔になった。そして、
「岩木、全員が楽しめる文化祭なんて無理なんだよ」
「でも」
「だったら、ジャンルの数を増やせばいい。例えばお前みたいなオタクにピッタリな問題とかな」
「おお~それいいね!」
御堂会長がそう言うと僕のことなぞ忘れたように議論が進んでいった。松山は僕を潰せて、かつ、活躍の場ができて嬉しいのだろう。
だけど、これでいい。僕は岸田さんを見る。すると、口を開けたまま固まってしまっていた。
(うまくいったかな~)
その後も何か意見があるたびに僕はKYな質問で場を白けさせ、松山に論破されるという行為を繰り返した。
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実行委員会が終わると教室の片づけを始めた。といっても僕と松山だけでだ。すると、ずっと言いたかったことを我慢していたのだろう。僕に嘲笑を含んだ言葉をぶつけてきた。
「岩木、お前馬鹿だなぁ」
「ん?」
「だってあの局面であんな馬鹿なことをほざいたら、そりゃあ場が白けるって。まぁおかげで俺が三勝で生徒会に入れることが決まったけどな」
そういって松山は帰宅準備を始めてしまう。
「え、もう帰るの?」
「ああ?もうっていうか後はてめぇでできるだろう?だから俺はお先に帰らせてもらう」
「そ、そうか」
「最後の生徒会の仕事をやらせてやるんだから感謝しろよ?じゃあな、負け犬」
そういって松山は帰ってしまった。仕方がないので、僕は一人で教室を片付ける。
「あれ?松山君は?」
すると、岸田さんが入れ替わるように入ってきた。
「先に帰りました」
「そう・・・好都合というかなんというか」
岸田さんは意味深なことを呟いて、僕の手伝いをしてくれる。
「あの、僕一人で片付けられますよ?」
「いいの。気にしないで」
黙々と松山が片付けていない机や椅子を片付けてしまう。仕事が早い。僕も見習わなければ。
「岩木・・・明人はさ」
「は、はい」
突然の名前呼びに驚いてしまう。
「副会長の仕事って何だと思ったの?」
(ああ、そのことか)
「生徒会が間違った方向に行かないように、理性的に批判する存在。言うなれば生徒会のブレーキだと思っています」
「その心は?」
「実行委員会で岸田さんの発言です。明らかに空気を乱す発言をしていて、僕は岸田さんが何をしているのか分からなくなりました」
僕の言葉に岸田さんはただ頷くだけだった。
「何か手がかりはないかと僕は生徒会議事録を頭の中でめくってみたのですが、副会長のことが不自然なほどに書かれていなかった」
「うん」
「正直、お手上げでしたが、その時に突然、昨日三崎・・・じゃなくて、花蓮さんに言われたことを思い出したことがあります」
「花蓮が?」
「ええ。広報は学校の顔であるという一言を頂きました。そこで気が付きました。逆に言えば、この不自然なくらいに記録が残されていない副会長と言うのは学校の裏の顔なんじゃないかと」
僕はさっきまで考えていたことをそのまま伝えた。そして、
「つまり、表の存在として生徒会を執行する役員たちに対して、唯一批判的に対立する役目が副会長です」
これが岸田さんに抱いた印象だ。すると、岸田さんは肩を震わせてしまった。
(え?何か気に障ることを言ったかな・・・?)
「あの、岸田さん、僕、何か変なことを」
言いましたかと言い切る前に爆笑が始まった。
「はははははははもう我慢できない!恰好つけすぎぃ」
「え?」
クールビューティな岸田さんの下品な笑い声に僕は硬直してしまった。
「ごめんね(笑)」
「い、いえ」
「いや、でも、裏の顔って(笑)私はスパイかってツッコみたくなったわぁ」
「っ///」
自分の言動を振り返って僕の身体が熱くなるのを感じた。
(調子に乗るのって良くないな・・・)
「はぁ~面白かった。こんなに笑ったのは久しぶりよ」
「そうですか・・・」
僕としてはただただ恥ずかしいだけなので、勘弁してくださいって感じだ。岸田さんは片付け途中の椅子に座りながら、涙を拭っていた。
「明人の言う通りよ。常に今の生徒会の動きは間違っていないかと生徒会長に問いかけ続けるのが私の仕事。そして、間違っていたら、それを正すか代案を出すこと。これが求められているのよ」
言うは易く行うは難しだ。だって、
「空気を読まないだとか、めんどくさいとか色々言われますよね・・・?」
会議で物事が決まりそうになった時に、水を差される立場に立ってほしい。水を差してきた相手に対してどう思うだろうか?この人がその程度のことを気づいていないはずがないのだ。そして、なんともないという態度で僕の質問に答える。
「ええ。普通に嫌われるわよ。だけど彩華率いる生徒会がうまくいくためには仕方がないの。そのためだったらいくらでも嫌われてあげるわ」
僕は何も言えなくなった。その献身に対して僕は
「綺麗すぎます・・・」
「え?」
僕の独り言は思った以上にデカかったらしい。
「え、ええ、ありがとう///」
「あっ、いえ」
そして、互いになぜか気恥ずかしい時間を消費する。
「そ、それじゃあ片付けも終わったし戻りましょうか!」
「そうですね!」
「後、私のことも下の名前で呼びなさい。特別に許可するわ」
「あ、ありがとうございます、凜さん」
「ええ」
ドアを開けると、
「ありゃ」
「ん?」
「あれれぇ」
「・・・」
生徒会の面々が盗み聞きをしていた。
「ちょ、ちょっと、何をしているのかしら?」
「遅かったので様子を見に来ました」
「そ、そう。ありがとう。ただ、沙紀。なんでそんなに私のことを睨んでいるのかしら?」
「気のせいです」
凜さんと沙紀が何か話している。すると、僕の下に御堂会長と由紀さんと花蓮さんが来た。
「お疲れ様です。御堂会長、由紀さん、花蓮さん」
「むぅ~私のことだけ、名前呼びじゃないなんて許せない!彩華と呼びなさい」
「わ、分かりました、彩華さん」
「うんうん分かればよろしい」
御堂会長はいつもの笑顔で満足そうに頷いた。
「片づけは終わったの・・・?」
由紀さんが聞いてきた。
「ええ」
「あれ、松山君は?」
そういえばと思い出した花蓮さんが聞いてきた。
「先に帰りましたよ。なんでも僕に生徒会として最後の仕事を記念でやらせてやるとか言って」
「全くしょうがないなぁ・・・」
御堂会長はダメな弟に対して抱くような感想を漏らした。
「それで凜ちゃん。優君と明人君だったらどっちを選ぶか決めた?」
「そ、それよりも沙紀が怖いわ!」
「凜さん?何もしていないんですよね?」
僕は無理やり沙紀を引き剥す。
「はぁ~、ありがとう明人・・・」
「いえ、沙紀もやりすぎだよ?」
「うっ、ごめんなさい・・・」
そして、肩で息をしていた凜さんはもう一度深呼吸をして呼吸を落ち着けていた。そして、
「合格よ。明人。庶務として頑張って」
「は、はい。ありがとうございます!」
「「「「おめでとう~」」」」」
「ありがとうございます!」
僕はこれで生徒会の一員だ。必要としてくれているこの人たちのために頑張ろう。
「あっ、本当は庶務に就任するかどうかの発表の予定は明日だから優君にはネタバレ禁止だよ?」
「はい」
「それじゃあ帰ろう!」
僕たちは教室の鍵を閉めて、帰路に着いた。
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