21
「こんにちは」
「ん、昨日ぶり」
僕は現在生徒会室に来ていた。目の前にいるのは
松山も僕に遅れてやってきた。ちなみに沙紀は会計の仕事があるので、机にかじりつきながら仕事をしてる。僕の様子を見たがっていたがこればっかりは仕方がない。今、生徒会室にいるのは僕と松山と栗田さんだけだ。
「まずは書記の仕事がどんなものか分かる?」
僕の方を見て、栗田さんが質問を投げかけてきた。突然のことに僕は言葉が出なくなっていた。
「え~と」
「主に議論の内容を記録することです。その時に公正かつ公平に、私情が入らないように注意することが肝要です」
僕の代わりに松山が答えた。
「ん、正解」
「よし!」
これみよがしに松山はアピールしてくる。僕から一歩リードを奪ったことに気分がよくなったのだろう。ただ、栗田さんは無表情で言葉をつづけた。
「でも。それだけなら誰でもできる。重要なのはその後」
「その後・・・?」
おおよそ松山の言っていることが書記のすべてだと思っていたので、僕は疑問を投げかける。すると、栗田さんは戸棚からノートを数冊取り出して机に置いた。
「後一時間後に会議がある。それまでに今からこの議事録を一時間で覚えて。それが第一試練」
厚さ十センチにもなりそうなノートの山をポンポンと叩きながら栗田さんは言ってきた。
「これを全部ですか・・・」
松山は顔が引きつってる。しょっぱなからこんなにきついことが飛んでくるとは思わなかったのだろう。
「ん。できなかったらそれでもいい。その時は二人とも落とすだけなんで」
「いえ、できないとは言っていませんが・・・」
「それじゃあつべこべ言わずに覚えて。私は実行委員の準備があるので先にいってる」
僕と松山は生徒会室に取り残された。
「まぁ全部は無理でも岩木には負けないか。とりあえずやれるところまでやるかな」
(思い切り聞こえてるんだけど・・・)
それっきり松山が声を出すことはなかった。特に話すこともなかったので、気まずさみたいなものはない。それに、時計の針の音が松山に緊張感を与えているのかもしれない。その証拠に集中して、議事録に目を通していた。その姿を見て、僕もやらなきゃいけないなと思った。しかし、
(まぁこの程度なら五分あれば十分だと思うけど)
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「覚えた?」
実行委員会が行われる教室の外で僕と松山は栗田さんにそう聞かれた。僕にとっては普通のことだったので、頷いた。松山は若干青い顔をしていたが、僕と同様に頷いた
「じゃあ、次の試練。これから文化祭に向けて、実行委員との会議がはじまる。その記録をうまく書けた方に私は投票する。もちろん下手くそはいらない」
僕はゴクリと唾をのみ込んだ。そうして、僕と松山は会議室に通された。そこには御堂会長他、沙紀を含めたすべての生徒会役員、文化祭実行委員が集結していた。
「由紀ちゃんが来たのでみんな揃ったね!それじゃあ会議を始めましょう!」
御堂会長は会議の始まりを合図した。僕は忘れてはいけないとノートを鞄から取り出す。今日の議題は文化祭でやるメインイベントを決めるというものだ。例えば有志でバンドをやるとか、芸能人を呼ぶとかそういったものだ。
「ーということでガンガンアイデアを出してほしい。思いついたら挙手をお願いします!」
御堂会長が場の空気を温める。そうすることによって、ここにいる人達が手を挙げやすくしていた。そのおかげか餌を待つひなのようにピーピーと意見が溢れてきた。
「芸能人を呼ぶ!」
「ミスコン!」
「マジックショー!」
「クイズ大会!」
あまりにも一気に出てきた意見に僕の手が追い付かない。しかもそれを丁寧に書いていかなければならない。
(これは思った以上にキツイぞ)
ギリギリでなんとか食らいつく。すると、最後に
「キャンプファイヤーとかどう?」
その意見が出た時に教室中に声が響き渡った。
「いいね!」
「やりたい!」
ワーワーと教室が動物園のようになってしまっていた。県内トップの高校が小学生と変わらない姿をさらしていた。
「は~い、静かに」
パンと手を叩く。すると、さっきまでの喧騒が嘘だったかのように消え去った。
「ちょっとうるさすぎるから落ち着いてね?」
御堂会長は深い笑顔で強制的に黙らせた。そして、全員が静まり返ったのを見た。
「とりあえず多数決を取ってみようか?」
「「「はーい」」」
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そして、多数決を取ると、一位が有名人を呼ぶ。二位がキャンプファイヤー。三位がミスコンだった。
先ほどではないが、ざわざわとしている。誰を呼ぶかで議論が白熱している。僕はそのあたりを全く知らないので、誰が来ようとどうでもいいというのが正直なところだった。
「芸能人とは一度会ってみたいもんねぇ。実際予算は足りるのかな?」
みんなに共感しながら実際に呼ぶことができるのかと沙紀に確認する。
「どうでしょう。今手元に持っている資料の中には有名人を呼んだという記録がありません・・記録の中ではいつ頃が最後になりますか?」
沙紀は僕らにい聞いてきた。そこで代表となって答えたのが栗田さんだった。
「十年前が最後」
「予算とかってどうなっていたのか詳細は分かる?」
御堂会長が聞き返す。栗田さんは一瞬自分で答えようとしたが、思いとどまった。そして、僕と松山の方を見てきた。
「どうだった?」
「え~と」
松山が考えているが中々思い出せないらしい。僕は察した。おそらくこれが栗田さんからの試練なのだろう。それに沙紀がさっきの質問程度を答えられないわけがない。中々答えられない松山に見切りをつけたのか栗田さんはため息をついた。
「はぁ、それは」
「以前、有名人を招聘するのにかかった費用は●●万円ほどでした」
僕はやってしまったと思った。栗田さんは僕が突然答えたので、一瞬驚いた表情をした。そして、御堂会長はそのまま僕に聞いてきた。
「その時の出し物って何があったかな?」
「有名人の招聘だけで予算の2/3以上使ってしまっていました。なので、もし有名人を呼ぶとなったら、それ以外に予算を回すことができなくなってしまう恐れがあります。」
「なるほど、ありがとう。座っていいよ」
「はい」
僕は御堂会長の指示を受けて着席した。
「余計なことをすんな。おれだって分かってたぞ?(ボソっ」
と僕にだけにしか聞こえない声で言ってきた。そんなやりとりをしている間に話はどんどん進む。
「みんな今の意見を聞いてどう思ったかな?」
御堂会長は再び実行委員の人間に意見を求める。
「まぁ有名人とは会ってみたいけど、それだけだとねぇ・・・」
「確かに、それだったら色々なことをたくさんやりたいかも・・・」
「俺はミスコンが見たい!」
「自分に正直すぎるだろ、お前・・・」
たくさんの意見が湧いて出てきた。それだけで文化祭をどれだけ楽しみにしているかが分かる。
「はいは~い。色んな意見が出てきたところでまとめるね~」
キャンプファイヤー、ミスコン、クイズ大会、バンドが行われることになった。僕と松山はそれをすべて記録した。途中途中でテストもかねて僕らに質問を投げかけられた。僕は過去の事例をすべて暗記しているので、余裕だった。反対に松山は頓珍漢で、それっぽいことをいうだけだった。
(調子でも悪いのかな)
そんなことをしながら、会議は進んでいった。
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「それじゃあ議事録の方を見せて」
生徒会室に戻ると、僕と松山はノートを栗田さんに渡した。生徒会役員が全員揃っており、時折僕らの様子が見られているのを感じる。栗田さんはそんな視線を丸っと無視してパラパラっと捲っていく。そして、松山は自信満々に僕を見てきた。負ける気なんて全くしていないらしい。
(生徒会の経験がある人間って強いなぁ)
僕からすると恐ろしいものだった。なにせこういうことは初めてなのだ。無経験ゆえに必要そうなことはすべて書いてしまったが、そこのところをどう評価してくれるのかと気が休まらない。そして、僕と松山の議事録をパタンと閉まった。
「ん。私の中では決まった」
「はい!ありがとうございます!」
松山は勝った気満々なのだろう。読んでくれてありがとうございますというよりも自分を選んでくれてありがとうございますと言っているようだった。
「結果は金曜日にお知らせということで」
「「はい」」
「それじゃあ帰っていいよ」
「お先に失礼します!」
松山は意気揚々と帰っていった。
(これじゃあ負けたかなぁ・・・)
僕も暗い気分になりながら、帰り支度をしようとすると、
「待って」
「はい?」
立ち上がろうとした瞬間に栗田さんが僕を引き留めてきた。
「君、え~と、明人。あの書き方は何?」
「書き方?」
僕にノートを見せてきた。
そこには
『令和〇年。文化祭でキャンプファイヤー実施。
キャンプファイヤー実施年数。昭和~、平成~、大正~
昭和●●年に起こった火事の原因』
などと書かれてある。
「え~と何が可笑しいんでしょうか・・・?」
「私、十年分の議事録しか渡してないはずなんだけど・・・なんでそれ以上前のことを知っているの?」
「ああ、最初の十年分は開始五分で覚えましたから」
「え?」
「その後に、暇だったので、生徒会室に置いてある議事録をすべて覚えただけです」
「ちょっと何言ってるのかわからない・・・」
眉間を揉む姿勢をして、冷静さを取り戻したのだろう。横目でちらっと見えたのだが、沙紀が作業をしながら得意気な顔をしていた。
「ちなみにだけど、一年間だけメリーゴーランドを作ったことがある年があるんだけど、いつ?」
「え?平成●●年ですよね?あの時は予算オーバーしてしまって、先生方が足りない分を補足してくださったとありました」
「・・・正解」
栗田さんはうむと納得した。そして、僕が座っている席の方に来た。
「よしよし」
「何をしているんですか?///」
「優秀な子にはご褒美を。後、その無能だと断定してしてしまって思ってごめんなさい」
「いえ・・・」
突然年上の女性に頭を撫でられたのでびっくりしてしまった。沙紀がゼンマイの切れた人形のようになってしまっていた。
「おお~、由紀ちゃんが謝ってるの初めてみたかも」
御堂会長が会話に入ってくる
「ん、これを見て」
御堂会長を含めて役員に僕のノートを全員に見せる。
「これ凄いね・・・」
「へぇ~やるじゃない」
「おお!ヤバいね!」
沙紀は驚いた様子はない。むしろ何か喜んでいる節まである。栗田さんは僕の方を向いて総評をしてくれた。
「主観を排除して、なるべく客観的であろうとする姿勢は素晴らしい。前例とかも書いておいてくれたのは感謝」
「お、大袈裟すぎですって」
「何より、気の使い方が素晴らしい。自分はあくまで庶務で、私のサポートに徹するということがありありと伝わってくる。おかげで凄く読みやすい」
ここまで言われると照れてしまう。僕はこれ以上は勘弁してほしかったので、話を無理やり変える。
「そ、それよりも松山は!凄く自信満々だったんですけど」
すると、栗田さんは無表情に戻る。
「ああ・・・自己顕示欲が強すぎて無理。あれは庶務の器じゃない」
「そ、そうですか」
(あんな自信満々だったのに・・・)
すると、栗田さんは僕の下にやってきて、また僕の頭を撫でてくれた。
「いい子いい子」
「あの、恥ずかしいです///」
やめてくださいと暗にほのめかしていたのだが、僕の思いは無視して頭を撫でられ続ける。そして、
「明人で決定でいい」
「へぇ~そこまでユッキーに言われるなんて凄いね!こりゃあ明日が楽しみだ」
「お、お手柔らかにお願いします」
「はいは~い」
僕は正面に座った三崎さんと栗田さんに囲まれた。そのせいかは分からないが、さっきから沙紀の視線が痛すぎる。ブラインドタッチをしながら僕の方をずっと見続ける沙紀に僕は恐怖を感じずにはいられんかった。
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