20

ガラっと生徒会室のドアを開ける。すると、生徒会メンバーが全員集結していた。居心地の悪い視線が僕に集中した。そして、見知った顔の御堂会長は笑いながらこっちに駆け寄ってきた。


「沙紀ちゃんに、それに明人君!よく来てくれたねぇ!」

「さっきぶりです」

「ど、どうもです」


僕と沙紀が生徒会室に着くと御堂会長は僕を客席に案内してくれた。すると、沙紀も僕の隣の席に座る。


「沙紀ちゃんは自分の席があるよね?」

「いえ、私もそうしようと思ったんですが、どうしても・・・・・明人が離れたくないらしいので、仕方なくこっちに座ります。そうよね?」


そんなことを一言も言っていないが、有無を言わせない笑顔に僕は頷くことしかできない。すると、ガラッと再び扉が開いた。


「遅くなりました」

「優君もさっきぶり~」


松山も遅れてやってきた。客用の席は僕と沙紀が座っているので、松山は僕の正面に座った。さっきのこと、そして、沙紀が僕の隣で密着しながら座っていることに怒っているのがよくわかる。


御堂会長は松山がやってきたのを確認して、自分の席に着く。


「よしよし、それじゃあ全員揃ったし、自己紹介としゃれこもうかぁ」


元気いっぱいに宣言する。


「といっても沙紀ちゃんと私のことは明人君も優君もお互いに知っているから必要ないよね?」


僕の方を向いて意見を求めてきたので軽く頷いた。僕の反応を見て、御堂会長は視線を生徒会役員に変えた。


「それじゃあ由紀ちゃん、先頭バッターお願い!」


御堂会長に名指しされた方はボーっと携帯を眺めているだけだった。しかし、御堂会長の指示があると、こっくりと頷いた。


「ん、三年、栗田由紀くりたゆき・・・生徒会書記・・・以上」


(シンプルすぎない?)


栗田さんはそれだけ言ってまた携帯をいじりはじめてしまう。


「もぉ、由紀ちゃんったら!もう少しちゃんと自己紹介してよぉ」

「無理、しゃべると疲れる。余計なことはあまりしたくない」

「仕方がないなぁ」


ため息をついているがそこには一種の慣れが生じているように感じた。これが栗田さんのペースなんだろう。


「じゃあ次、花蓮ちゃん」

「はいはぁ~い」


元気よく手を挙げた。そして、


「三年の三崎花蓮みさきかれんです!広報やってます!よろしくね!」


目の前でピースをしながらウインクをしてきた。


「はい、よろしくお願いします!」

「お、お願いします」


僕は勢いに押されて声がどもってしまった。陽キャの権化みたいな人で僕からしたら眩しすぎた。


「それじゃあ最後に凛ちゃん!お願い」

「はいはい」


そして、最後の人が僕らの方を見た。


「三年の岸田凛きしだりんよ。この阿呆の副会長をやっています。よろしく」

「なっ!阿呆って失礼な!」

「事実でしょう?」

「これでも学年一位ですぅ」


御堂会長はプンプンと起こりながら岸田さんに対して抗議する。二人の間には不思議な気安さがあった。それだけで二人の仲が良いということには察せられた。そして、そのまま僕と松山の自己紹介をしたが、正直、反応してくれるのは御堂会長と三崎先輩だけだったので、不安になってきた。


「とりあえずこれで顔と名前は覚えたと思いま~す。それじゃあ改めて会長の御堂彩華と」

「会計の水本沙紀です」

「以上五名で現在生徒会役員は回していま~す!」

「いえ~い!」


ドンドンパフパフと三崎さんが自分の声で盛り上げてくれる。


「それで彩華。私は庶務の席がついに埋まるって聞いてきたんだけど、どうして二人いるの?」


岸田さんはその盛り上がっている中で、御堂会長に聞いた。


「私も私も!ノリで盛り上げちゃってたけど二人いるとは聞いてないよ?ねっ、ゆっきー?」

「興味ない。私は無理やり彩華に連れてこられただけ」


三者三様の反応だが、御堂会長はその疑問に答えた。


「私も最初は明人君だけを連れてくるつもりだったんだけどね。盗み聞きをしていた優君が生徒会に入りたいと言ってきてね。だから、どっちが相応しいかを由紀ちゃんと、花蓮ちゃんと、凜ちゃんに決めて欲しいんだよねぇ」


その言葉に三人は、


「「「めんどい」」」


どストレートで言ってきた。しかし、御堂会長は予想していたのだろう。さして動揺せずに、


「ダ~メ。会長命令です。絶対に従ってください」


強権を発動してきた。ブーブーと文句が出る中で、沙紀が手を挙げた。


「ちょっと待ってください!私が入っていないのはなぜですか?」


そんなの分かり切ってる。御堂会長も半眼になりがながら、


「だって沙紀ちゃんを入れたら不公平でしょ?やる前から入れる相手が決まってるじゃん」

「ぐっ」


(そりゃそうだよ・・・)


本気で悔しそうにしていた。審査できる立場にあると思っていたことに驚きが隠せない。


「ごめんな沙紀。俺に入れたかっただろうに・・・」


(そして、お前の自信はどこから湧いてくるんだよ・・・)


沙紀のあの表情を見て沙紀が松山に票をいれると思っているのが不思議でならない。


「まぁ私も明人君をスカウトした立場だからね。審議のほどは三人に任せるしかないんだよ」


「めんどい・・・」

「使えるのかしらね・・・」

「う~ん、無能っぽいね!」


さっそくメンタルをゴリゴリに削ってきた。三崎さんなんかは人当たりの良さそうな雰囲気でいちばん毒を吐いてきた。そして、彼女たちは終始僕と松山を品定めするように見てきていた。


「あっ、二人とも使えなかったら、両方落としちゃっていいからね」


御堂会長は付け加えてきた。松山か僕のどちらかましな方ではなく、使える方を取れとのことらしい。即戦力以外はいらないと言われた気分になって、ごくりと唾をのみ込んだ。御堂会長は僕と松山の方に向き直った。


「それじゃあ優君と明人君には一日ずつ三人の下に付いてもらいます。それで三人にとって有用なのはどちらかを決めてもらいます。その結果次第で生徒会の庶務を決めようと思うので、精進してね?見ての通りこっちのメンバーは全くやる気がないので、温情とかそういうのは期待しないように」


僕と松山に励ましと脅しの混ざった言葉をくれた。僕らはコクリと頷いた。そして、松山は僕の方を向いて手を差し出してきた。


「ベストを尽くそうな、岩木?」


松山は余裕しゃくしゃくな様子で僕を見てきた。僕は一応松山の握手に応えておいた。僕らが握手したのを見て、御堂会長は言葉をつづけた。


「うんうん、今日は顔合わせだけだからこれでいいかな。それじゃあ解散~」


ここで顔合わせは終わった。


(頑張らないと!)


僕は明日からの戦いに向けて気合を入れ直した。

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