14

目が覚めた


「ここは・・・?」

「気が付いたようね」


身体を起こす。辺りを見回すと俺は保健室だと分かった。そして、傍には沙紀が読書をしながら座っていた。


「沙紀、俺は・・・?」

「急に錯乱して倒れたのよ?気分はどう?」

「ああ、大丈夫だ」

「そう」


何か悪い夢でも見ていたのだろう。夢の中で沙紀は俺に対して酷いことばっか言ってきたが、そんな様子を一切感じさせない。むしろ俺の心配をしてくれているようだ。


「それならあなたの教室に戻りましょう」

「ああ、ありがとう沙紀。心配かけた」

「構わないわ。あなたに何かあったら大変でしょう?」

「沙紀・・・」


やはり先日までのことは夢だったのだ。


「倒れたまんまじゃ明人に謝らせられないし(ボソ」

「ん?何か言ったか?」

「何も」


俺と沙紀は並んで教室に行く。窓から外を見ると日が傾きかけていた。


(結構長い時間眠っていたんだな)


「それにしても酷い夢だった」

「そうなの?」

「ああ」


俺は苦い顔をしながら、悪夢の内容を思い出す。沙紀が俺に対して、酷いことを言ってきたこと。テストで負けて酷い目にあったこと。それ以外にもたくさんあった。沙紀はそんな俺の戯言にうんうんと聞いているだけだった。


「ーっていう夢を見たんだ」

「そう、それは酷い悪夢ね。同情するわ」


沙紀は俺に対して、とても同情的だった。そんな沙紀を見てたら、今までのことがすべて夢だと確信した。そして、俺の教室の前に着く。沙紀が扉に手をかける。


「ところで義兄さん」

「ん、なんだい?」

「先に謝っておくわね」

「ん、どういうこと?」


そして、沙紀は悪魔も逃げ出すような恐ろしい笑顔になった。俺はその笑顔に後ずさった。


「ごめんなさい。それ全部現実よ・・・・・・・

「は?」


沙紀が教室の扉を開ける。そこにはクラスメイト達が揃っていた。一斉に俺の方を見てくる。


「松山君・・・」「松山・・・」


俺に対して同情的な視線が集まる。そして、クラスの中心にはやつ・・がいた。


「それじゃあ約束通り、土下座をお願いね。カス野郎」


沙紀は笑顔のまま俺に対して言ってきた。


俺はその瞬間全身から力が抜けた。

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沙紀が松山を連れてきた。


「私が松山君を看ててあげるから、貴方たちはここで待っててね?」


放課後になると、沙紀は僕らの教室に来て開口一番そういった。暗に逃げるなとクラスメイト達に伝えていた。そして、松山を自ら捕まえてくると宣言して出ていってしまった。残された僕らは何をするでもなく、ただ待っていた。それにしても


(楽しそうな顔をしてたなぁ)


本格的に沙紀の性格矯正をしなきゃいけないと心に誓った。戻ってきた沙紀は僕の方に向かってきた。褒めて褒めて尻尾をぶんぶんさせている子犬のようだった。もちろん外見上は全く分からないが、アイコンタクトで分かった。


「あ、が」


松山は僕の方を見て硬直してしまっていた。あの様子を見るに沙紀が何かしたに違いない。現実を全く受け入れられていなさそうな顔をしていた。


「それじゃあ岩木君に対して、しっかりと土下座して頂戴。あっ、ついでに謝罪の一言も添えなさい」


松山は沙紀の話を聞いているのかいないのか分からない。プルプル震えながら下を向いてうつむいてしまっている。


「や」

「ん?」


松山が絞り出した声が聞こえなくて、僕は聞き返した。すると、さっきまでの呆けた顔から一転して笑顔になった。


「やだなぁ沙紀。あんなの冗談に決まっているじゃないか」

「え?」

「俺が勝ったとしても、岩木には土下座なんてさせる気は全くなかったぜ?」


松山は見え見えの嘘をついてきた。まさかそんな手段をとるとは思わなくて沙紀も僕もポカーンとしてしまった。


「それよりおめでとう、岩木。短期間でそんなに成績を上げられるなんてすごいよ」


松山は拍手をしながら僕を褒めたたえる。話を逸らすとかそういうレベルじゃなくてなかったことにしようとしてる。


(僕はこんなのにビビっていたのか・・・)


自分が情けなくなる。すると、沙紀が


「しらを切る気かしら?賭けのことも」


沙紀は平坦な調子で聞いた。そして、松山は肩をすくめた。やれやれといった感じのジェスチャーに僕も沙紀も少しイラっとした。


「しらを切るなんてとんでもない。それと賭けってなんだ・・・・・・・?」

「あら、本当になかったことにしようとしているのかしら?衆人観衆がたくさんいる中で約束したじゃない」

「はて?みんなぁ沙紀と俺って何か賭けてたっけ?」


松山は笑顔だ。しかし、そこには圧力があった。クラスメイト達は全員知らないと首を横に振った。そんな様子を見て、松山はうんうんと頷いた。


「はぁ、こんなのと勝負していたこと自体が黒歴史になりそうだわ・・・」

「僕もだよ・・・」


松山は青筋を立てる。しかし、ここで墓穴を掘るわけにはいかないので、拳を握りしめて我慢しているようだった。沙紀は面倒くささを隠さずにもう一度聞き返す。


「本当にしらを切るつもりね?」

「しらも何も俺は何も覚えてないからね」

「そう」


沙紀はスマホを取り出した。そして、何かアプリを開き、音声が聞こえてきた。聞き覚えのある声がたくさんスマホから聞こえてきた。そこに録音されていたのは賭けの約束の音声だった。松山は顔面蒼白になってうろたえる。


「そ、それは」

「貴方のカスさはよく理解しているの。だから録音させてもらってたわ。あら、おかしいわね。貴方の声がよく聞こえてくるのだけれど」


沙紀は口に手を当てて、首をかしげた。あまりの演技臭さに挑発しているとしか思えなかった。松山は一瞬たじろいだが、すぐに調子を取り戻す。


「ははは馬鹿だなぁ沙紀。そのスマホを奪ってしまえば、証拠なんてなくなるじゃないか?」


沙紀に近付いてくる松山は勝ち誇った顔をした。


(沙紀に手は出させない!)


僕は沙紀を庇おう前に出ようとするが、沙紀が必要ないと手で制止してきた。


「それにそのスマホの音声を誰かに聞かせたとして、わざわざ審判役をやってくれる人間なんているわけがないだろう?」


そこだけは松山に同意だ。ただ、沙紀にはその程度のことは予想済みだったらしい。


「ええ。だからうってつけの人間に頼んだわ」

「うってつけの人間?まさか先生にでも頼んだのかい?」


松山が沙紀を馬鹿にしたように言う。


「いやいや私だよぉ」

「!」


扉の方から第三者の声が聞こえてきた。あまりにもこの場にそぐわない声音に驚いてしまった。全員声のした方に顔を向けた。そこには


「わざわざすいません。会長・・


この学校の生徒会長。御堂彩華みどうあやかがそこにいた。

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