13
テストに関しては最後の最後に変化球が来たが、問題はなかった。ただ、テストの日が金曜だったので土日に入ってしまった。正直、生きた心地がしなかった。ここまで来たら祈るだけなのだが、結果が出るまでの歯がゆさはなんとも言えなかった。
そんな感じで何も手につかない土日を過ごしていると、月曜になった。早く結果が見たいという思いと結果が悪かったらどうしようという矛盾した気持ちで身体が引き裂かれそうになった。こんなにも胃が痛い日は初めてかもしれない。
僕はいつも通りの時間に教室に着くと、自分の席に着いた。しかし、テストも終わってしまったので、教科書も読む気がしなかった。仕方がなしにスマホを開きながらボーっとしていると、あいつが来た。そして、僕の前の席に着いた。
「放課後、ここの教室でな?」
「う、うん」
「それと逃げんなよな?」
僕は無言で頷く。松山は僕に釘を刺して自分の席に戻った。それとと同時に先生が来た。
答案用紙の返却は一限目に一気に行われる。そして、一限目の休み時間に順位が張り出される。だから泣いても笑ってもこの一時間ですべてが終わるのだ。
「それじゃあホームルームを始める」
先生の合図で号令がなされた。そして、テスト用紙が返却されてきた。
(間違えてませんように)
僕は心の中で祈った。
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ついに来た。この日が。
俺は楽しみ過ぎて、昨日の夜から寝ることができなかった。俺は岩木を後ろから眺める。あいつは良くて三十位以内ってところだろう。だから岩木に土下座をさせることは確定だ。
(俺にとって重要なのは沙紀に勝てるかどうかだ)
岩木のことなどさっさと忘れて俺は沙紀に勝てることのみを願った。
テスト用紙の返却を受け取るが、国語は満点だった。理科も満点。しかし、
「ちっ」
社会で一ミスをしてしまった。くだらない漢字のミスだ。しかし、英語は満点だった。数学は満点・・・ではなかった。
「マジか・・・」
最後に追加された範囲の超応用問題でやらかしてしまった。くだらない計算ミスを犯してしまって肩ががっくりとしてしまう。
(これじゃあ沙紀に勝てるかどうかは怪しいな)
結果は493点だった。
いくら沙紀でも最後の問題を解くのは難しいだろう。だから他の科目次第では勝てるかもしれない。ただ沙紀はこういうところでミスをしないという確信があった。俺はため息をつく。
(キモパンダは・・・見るまでもないか)
一応ちらっと様子を見てみるが、机に突っ伏してしまっていた。現実逃避をしているのだろう。俺はその姿を見て、放課後の楽しみは確定したと確信した。
(ま、沙紀のことはゆっくり攻略していけばいい)
なにせたくさん時間があるのだ。今回ダメだったとしても次回頑張ればいいのだ。
「ねぇ松山君はどうだったの?」
クラスメイトの女子がテストの結果について聞いてきた。点数について話し合っているようだ。俺もその輪の中に入り、自慢まじりの談笑を始めた。
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一限目が終わり鐘がなる。沙紀からは僕のクラスに来るとはメッセージで聞いていたので座して待つ。
「お待たせ。少し遅くなったわ」
沙紀が少し肩で息をしながら来た。僕は問題ないとジェスチャーを送る。
「そう。それじゃあ行きましょう」
僕は廊下に出ようとする。すると、僕に松山が話しかけてきた。
「岩木、ついでに俺の順位を見てきてくれや」
「え?」
「結果は見るまでもないだろう?」
(見るまでもないってそんなに自信があるのか)
感心していると、僕の代わりに沙紀が答えた。
「ええ、そうね」
僕が答えるよりも前に沙紀が答えた。沙紀が反応してくれるとは思わなかったのだろう。一瞬松山は硬直したが、沙紀が会話をしてくれたことにすっかり機嫌をよくした。
「流石沙紀だな。俺のことをよく分かってるな」
「ええ。不本意だけど、貴方のことは一年の付き合いである程度は理解しているつもりよ」
「そ、そうか」
松山は気持ち悪い笑顔を浮かべた。とても喜んでいるのはよくわかった。
「それじゃあ行きましょう。岩木君」
「うん」
「報告楽しみに待ってるぞ~」
松山は僕らを心地よく送り出した。
「それで明人、どうだったの?」
「まぁ大丈夫だよ」
「ならよかったわ」
そして、僕たちは張り出された順位表を見に向かった。
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「それにしても松山君、凄いね」
「あのテストで493点は化け物だよな」
「後、イレギュラーなところを教えてくれたおかげで俺たちも点数が上がったしな」
「ね~あらかじめ勉強してなかったら危なかったかもね」
口々にクラスメイト達は俺をたたえる。さらに俺のおかげで点数が伸びたのだ。クラスの平均点も上がって俺の評価も上がるだろう。
「ここまでするとキモパンダのやつが可哀そうに見えてくる」
「確かに(笑)」
「土下座の動画は絶対に撮らないとねぇ」
「俺、放課後が楽しみだわ」
俺は一応釘を刺しておく。
「それなんだけど、謝ってきたら岩木も許してやるつもりなんだ」
「え?どうして」
「ま、人間誰しも間違いっていうのは犯すものさ。更生するようなら今まで通りに対応してやろうぜ?」
「松山君・・・」「松山・・・」
これは俺の本心だ。沙紀に対して、害悪な行為を働いたことに罰を与えたいが、沙紀との接触がなくなってくれさえすれば俺としては雑魚に関わる気は全くない。
(せいぜいクラスの奴隷として働いてもらうくらいかな)
俺は心の中でほくそ笑みながら、沙紀たちが帰ってきた後のことを考える。万が一、あいつらが虚偽の報告をしたり、逃げようとしたときのために、クラスメイトの何人かを向かわせた。
(ああ~早く帰ってこないかなぁ)
俺は遊園地のアトラクションを待つ子供のような気分だった。すると、
「おい!松山大変だ!」
監視に行かせた奴が大慌てで戻ってきた。気分がよかったのに急激に現実に引き戻された。そして、あまりの焦りっぷりに俺も眉をひそめた。
「どうした?」
「ヤバいんだって!!キモp」
「そこから先は私と岩木君で話すわ」
すると、後ろから岩木と沙紀が戻ってきた。
「やぁやぁ待ちくたびれたよ」
俺は逃がさないようにするために、クラスの中心に二人を歓迎した。
「おかえり。どうだった?」
笑顔で迎える。結果など分かり切っているが、それでも二人の口から言わせたかった。
「私の予想通りだったわ」
「そうか」
(まぁそうだろうな)
当然のことすぎて拍子抜けした。
「それで沙紀は何点だったんだい?」
「500点満点に決まっているでしょう?」
クラスがざわつく。俺は舌打ちをした。それと同時に関心もした。
(流石だな)
テスト範囲外でも満点を取ってこられるなら次はもっと工夫を凝らさないといけないようだ。
「テスト範囲外のイレギュラー問題に対しても、完璧にこなすとはさすがだね」
「カスに褒められても気持ちが悪いから金輪際やめてもらえるかしら?」
ビキッと青筋が立ちそうになるが我慢した。これでようやく岩木から解放されて沙紀は自由になるのだ。こんなツンツンしている沙紀もいつか二人で振り返ったらいい思い出になると心を落ち着けた。
「それじゃあ、放課後に岩木に土下座をしてもらうけどそれでいいね?」
「え?なんで?」
岩木が生意気にも反抗してきた。とぼけた様子で僕に返事をしてきた。まるで何も分かっていないかのようなその表情に俺は怒りをにじませた。
(本当にクズ野郎だな・・・)
俺は呆れながら言った。
「岩木ぃ、お前が俺に勝てなかったら土下座をするって言ってただろう?それとも当初の予定通り、沙紀にやらせようってか?」
「卑劣すぎ!」「女の子に土下座をさせるのってどうかと思うよ?」「お前最低だな・・・」「約束を反故にするんじゃねぇよ!」
俺の援護射撃がクラス中から送り込まれた。隣の沙紀なんてさっきから下を向いて、プルプルと震えていた。
(待ってろよ。今から義兄さんが助けてやるからな!)
「おい、いw」
「もうダメっ、耐えきれないわ!」
沙紀が突然大声で笑い出した。あまりに下品すぎる笑い方に俺たちは呆気にとられた。
「ふふふ、ごめんなさい。あまりにも道化過ぎたので、笑いが止まらなかったわ」
沙紀が意味不明なことを言ってきた。
(可哀そうに・・・岩木の野郎がここまで追い詰めたのか)
「沙紀、大丈夫k」
「岩木君、貴方の点数を教えてあげなさい」
俺の言葉を遮って、沙紀は岩木に話を振る。なぜそんな無駄なことするのか意味不明だった。
「え?500点だよ」
「そうそう500点しか取れなかったんだろ・・・は?」
「「「「は?」」」」
俺の声とクラスメイト全員の声が完璧にシンクロした。俺は幻聴でも聞こえたのかと思った。もう一度聞き直す。
「今なんて言ったんだ?」
「500点」
「誰が」
「僕が」
「へぇ~」
俺は眉間を押した。そして、往生際が悪いわ、嘘はつくわ、岩木に対して怒りを通りこして憐れみを向けたくなった。むしろこいつを敵視していた俺自身に怒りが湧いてきそうだった。
「岩木、土下座したくないからって見え見えの嘘はよくないぞ?」
「え?ほ、本当なんだけど」
「嘘を言うなって、なあ?」
俺は監視に行ってきたクラスメイト達に本当のことを話せと聞いた。しかし、顔面蒼白になって応答した。
「嘘じゃない!俺もこの目で何度も確認したんだって!」
「わ、私も幻覚だと思っていたけど・・・」
「水本さんと並んで首席だった・・・」
(は?岩木が首席?俺じゃなくて?)
俺はあらゆることが信じられなくてオーバーヒートを起こしていた。沙紀が俺の隣に立つ。
「沙紀・・・」
「松山君、ごめんなさいね」
悲壮的な表情で沙紀は謝ってきた。
(そうだこれはドッキリなんだ!)
そして、一転悪魔のような笑顔を浮かべた。
「貴方のその阿呆みたいな表情が見たくてずっと思わせぶりなことを言っていたの。でももう満足よ。後で土下座の方よろしくね?
悪魔の宣告がなされた。俺はその瞬間理性と言う糸が切れた。
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沙紀が松山に対して、トドメを刺した。
(いい笑顔してるなぁ)
それと同時に沙紀の性格の矯正は割と真剣に考えなきゃいけないと思った。松山は全く動かない。クラスメイト達は心配そうに話しかける。
「ううううううううう」
「ま、松山君?」
奇声を上げた僕は松山に声をかけた。すると、顔を真っ赤にした。そして、
「そだああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「ま、松山!?」
「松山君どこに行くの!?」
そこら中の机やいすをぶっ倒しながら、奇声をあげながら教室を出て行ってしまった。そんな松山をクラスメイト達は総出で追いかけていってしまった。今教室に残っているのは僕と沙紀だけだった。
「あそこまでいくといっそ哀れね・・・」
「ね・・・」
完全に同意。
「それじゃあ授業があるから一回戻るわ。昼休みは少し用事があるから、放課後にここで会いましょう」
「うん」
沙紀は自分の教室に戻ってしまった。そして、僕は教室でひとりボッチになってしまった。
「とりあえず、机くらいは片付けるか」
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「gggggggggggggggっがががががああああ!!」
(認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!)
「松山を止めろ!!」
「松山君正気に戻って!!」
クラスメイト達が追いかけてくる。そんな有象無象なんてどうでもよかった。俺は階段をダッシュで駆け降りる。その速度は落下と同じようだった。
「ggggっがあっがggggggg!!!!!!」
(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!!!!!!!!)
「うお!誰だあいつ!?」
「汚ねぇ、よだれ垂れてたぞ・・・」
途中ですれ違うやつらのことなどお構いなしだった。何かに当たったりしたが、そんなことはどうでもいい。俺は人目を気にすることなく本能の赴くままに走った。走った。走り続けた!
色々なやつらに止めろと言われたがもうそんなことなどどうでもよかった。
そして、俺は目的地が見えた。
「ggggggggggっがああああああ!!!!!」
(あそこだ!)
そこは順位表が貼られている場所だった。あれを見ればこんなバカげたドッキリから解放される。俺の猛ダッシュに驚いて張り紙の前にいた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そして、張り紙の前で止まろうとしたところで事件が起きた。
「ん?うお!!!!」
「gggっがあg!?」
突然廊下の角から出てきた社会科の先生にぶつかってしまった。しかも、運が悪いことに先生が持っていた地球儀に顔面から突っ込んでしまった。そして、俺の視界はだんだんと暗くなっていった。
「お、おい大丈夫か!?」
「松山!」
「松山君大丈夫!?」
俺はそんな雑多な声など聞こえなかった。最後に見たのは順位表に書かれていた文字だけだった。そこには岩木明人と水本沙紀の二つの名前の上に首席と書いてあった。それを見て俺の意識は完全に落ちた。
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