第40話:ウイジンキネン_コウ_7
『Bちゃん? あのね、私、Bちゃんに言い忘れてたことがあるの』
『な、ぁ……ゴホッ……』
『あのね、あのね? 一回しか言わないから、よぉく聞いてね?』
『た、たすけ……』
『私ね、Bちゃんのことね、ずっとずっと、大大大大大大大大大大嫌いだったの。アナタに虐められてからずっと死ねばいいと思ってたし毎日殺してやりたいと思ってたしなんなら呪ってみたりもしたけどこれは駄目ね全然効果がなかったものでも今回こうやってどうにかBちゃんを苦しめて苦しめていたい思いさせて死ぬ思いさせて本当に死なせることができるから私今日まで生きてて良かったって思ってるよ有り難う』
『な……』
『あのね、知ってたよ? Bちゃんが私の立場を狙ってたこと。夫に変なこと吹きこんだり色仕掛けしてみたり偶然を装って帰宅を待ち伏せしたりしてたよね? 郵便物にゴミを漁ったり他のマンションの住人にないことばっかり吹き込んで私を孤立させようとしてたし。自分の夫を私にけしかけようともしてたよねご主人が突然ウチに来て私を襲おうとした時は本当にビックリしたよ? ……そんなことしてさ、無事で済むと思ってたの? 思ってないよね? 覚悟があったからやったんだよね? じゃなきゃそんなことできないよね? うんうんわかってる。だから私は今ここにいるんだよ』
『ご、ごめ、ごめ……なさ……』
『私が謝った時一度でも許してくれたことあったっけ? いつもいつもいつもいつもいつも。面白がって余計に嫌なことしてくれたよね? ……やっと。やっとやっとやっとやっとやぁぁぁぁぁぁっと。アナタと離れることができたと思ったのに。再会なんてしたくなかった。二度とその顔見たくなかった。土足で私の領域に踏み込んでほしくなかった』
『……な、さ……ご、め……』
『今更『ごめんなさい』なんて謝られたって私は絶対に許さないし一ミリも許す気なんかないからね。でも、このままのたれ時布は勿体無いから私がとどめを刺してあげるね』
『ごめ……や、め……や……め、て……』
『よく生きてたねそんな姿で。さっさとくたばれよ社会のゴミが。二度と生まれ変わるな人間になるな地獄へ落ちろ』
『や、やべ……やべて……』
鼻水と涙を垂らして、BさんはAさんに懇願していた。マシンガンのように話し続けるAさんは、当然聞く耳など持ち合わせていない。殺すことが目的なのだから。聞く必要なぞ持つ必要がないからである。
『いつもBちゃんは酷いことしてたから。本当に私と同じ人間なのかなって思ったことがあるの。だから今日は同じ人間なのか確かめさせてね。血が赤いことはわかったけど心臓って同じものを持ってるのかしら。ホラよく心が痛むって言うと胸を抑えるじゃない。その位置にあるのって心臓よね? 頭で考えるとか心の所在とかそんなのは今はどうでも良いの。私はただ、心臓が人間のソレと同じなのか確かめたいだけ。……もちろん、協力してくれるよね?』
『……あ、あ……』
『さようなら、Bちゃん。大嫌いなアナタがこの世から消えてくれて、私今人生の中で一番幸せよ。来世以降も、二度と私の前には姿を現さないでね。それじゃ、地獄でもお元気で』
ドスッ――
AさんはハサミをBさんの背中に突き立てた。
『や、あ、あ……かはっ……』
精一杯顔をあげて懇願した結果、Bさんが人生の最期に得たものはAさんの心の底から嬉しそうな笑顔だった。
『……ええっと……背中からじゃあ骨が邪魔で開けないよね?』
『めんどくさいなぁ。ひっくり返して……』
『ここ、かな』
ズブッ――
『骨がない所って難しいのね……?』
『あ、そっか!』
『お腹から割けば良いのね!』
『それなら心臓も傷つかないし!』
『この剣はノコギリにすべきだったわ』
『ハサミは大正解ね』
ピクリとも動かないBさんを前に、Aさんは一人喋り続けている。
「……Aさんの勝利は確定しましたが、このまま見守りたいと思います」
バチン――バチン――バチン――バチン――
『……ふぅ。いかにも皮を切る、って音がするのね、人間でも』
グチッ、グチャッ、グチャ。
『あ、これかな?』
『うふふ。あーった』
――ブチブチブチブチッ。
『なぁんだ。図鑑で見る心臓と一緒じゃない。人間だったのね、Bさん』
Bさんの血で濡れたAさんの手には、身体と繋がれていた血管のちぎれたBさんの心臓があった。光にかざしてよく見えるように、その手は高く掲げられている。
「……Bさんの心臓……心も、僕たちと変わらなかったみたいですね。アンケート結果の多くを占めていたハサミ、これは正解でした。……さて、まだAさんは余韻に浸っているようですが、一旦締めましょうか。今日のゲームは、いかがでしたか? バニィさん。ペシェさん」
「そうだね、Aさんの最後の行動は予想外だったけど、派手な行動だから楽しめたよ」
「もう少し、トップに引っかかって欲しかったです~。どうしても、前半が地味になってしまいましたし~。でも、確かに最後は予想外でした~。血まみれだし中身も出てますし、面白かったです~」
「お二人とも、ありがとうございます。僕は初めての司会だったので、最後まで緊張しっぱなしでした。まだまだ勉強したりない部分もあるかと思いますが、優しいみなさんのおかげで最後までやり切ることができました! ありがとうございます!」
ゲーム終了を告げる改に対し、また観客から優しい言葉と労いの言葉が届く。
『あははっ。あはっ、うふふ……ふふふっ』
そうして配信が終わり、掃除班が現場に辿り着いてもなお、AさんはBさんの心臓を手に持ったまま笑い続けていた。
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