第27話:モリビトノシゴト_コウ_4


 「思ったより、期間は短いんですね。三か月ですか……」

「短いと思うだろ? 実際、そう言う護人はたくさんいるよ。……なんだけどね。そうでもないんだよね」

「そんなにお金に困るモノなのでしょうか……」

「困らなくても来るんだよ。仕事を終えることができれば、今目の前にあるような大金が手に入れられる。内容はわからなくても、聞く価値はある。それに、改君も言っただろう? 『少なくとも、求人は絶対に探す、と思います』って。それが答えなんだよ」

「確かに……」

「今のところ、やっぱり戻ってくる人間はいるんだよね。でも、怖くなって参加しない人もいる。『前回はクリアできたけど、今回はクリアできないかもしれない』と思うか『前回もクリアできたのだから、今回もクリアできるだろう』と思うか。その違いだね」


 どこまでも人間が玩具になる世界、それがこのAngeliesの主催するデスゲームなのか。改は少し肌寒さを感じた。


「だから、最終的に顔を見せるんだよ、みんな。子に関しては、お互いの顔が分かっていたほうが、協力体制をとりやすいだろう、という考えもあるけどね。ゲームによっては顔を隠して行うゲームもあるし、ホラ、鬼のほうは、実生活で遭遇したときに、違和感があってもいけないからね。記憶処理をしているとはいえ、万が一、実生活で遭遇して、ゲームのことを思い出したりでもしたら。……普通の人なら、その場で発狂して戻ってこれないかもしれないしね」

「念には念を、ですか」

「そうだよ。子同士でぶつかることもあるけど、ま、それは手を出した側の責任でもあるからね。思い出したとしても、自分のしたことへの罪悪感に苛まれるか、それともそれを逆手にとって再度参加を決めるか……。手を出された側にとっては、たまったものじゃあないだろうけど」

「災難……」

「今まででその報告は一度も受けていないけどね。年がら年中三百六十五日二十四時間、監視しているわけでもないから。あくまでも今まで報告を受けた中では、だけど」


 改と嘉壱をよそに、ゲーム終了のコメントを流した丙が、最後の挨拶をしてモニタを切った。さっきまで血まみれの惨劇を生々しくも他人事のように映し出していた大きなモニタは、真っ暗になってその役目を終えていた。


「……ふー。無事終わったね。おつかれさま」

「お疲れ様でした~」

「お疲れ」


 司会を担当していた三人は席を離れる。


「……どうだったかな? 改ちゃん」

「え、僕ですか?」

「君以外感想を聞く相手はいないだろう? みんな初めてじゃないんだから」

「それもそうですね……」


 なんと答えるのが正解なんだろう。改は考えていた。


「……Bちゃん、無事会うことはできたんだよね?」

「Bちゃん……。うぷっ……」


 また吐き気に襲われる。強烈な印象は、どうにも拭うことはできなかった。


「意地悪だな丙。嫌がって改が辞めるかもしれないよ? 別に、ボクは構わないけど」

「その通りですよ~? せっかくお仲間が増えるチャンスですのに~」

「悪ィ悪ィ。えーっと、なんだ。その。……やっていけそうかな?」

「な、なんとか……?」


 結局、言いかたを変えても改の中での答えは見つからないでいた。やっていけそうか、それともやっていけなさそうか。その二択なら、やっていけそうではあると感じていた。今回Bちゃんへ会いに行ったように、毎回あの生々しくも凄惨な現場へ出向けと言われたら、お断りしたい気持ちはある。そうではなくて、丙たちのように司会をするならば。ゲームを作るならば。参加者を募り、面接をするならば。自分にもできるかもしれない。

 護人の仕事は、基本は今回のように『デスゲームを見守ること』だということは理解している。そこから仕事が増えて給料も上がり、その他待遇も良くなるなら頑張れる気がした。どうせ誰も頼るところはなく、会社も辞めるつもりだ。このビルの外に広がる町で暮らすことができるのなら、多少さらにその外へと出られなくとも、不自由さは感じないだろう。元々、それほど外出するタイプでもなく、友人と遊ぶタイプでもない。


「この仕事で一番大事なことは『いかに自分を無にできるか』と『ゲームだと割り切ることができるか』、そして、『楽しむことができるか』だよと思うよ? みんながみんなできて当たり前のことではないし、私だって最初は……ははっ。ここには協力してくれる人たちはいっぱいいるから、慣れるまでは自分にあった仕事の仕方を選ぶと良い。最初は。今回のように横で見ていると良いよ。少し慣れたらサブの司会、そこで上手く喋ることができるようになったらメインの司会。そのあとは、うん。道は色々あるからね」

「が、頑張ります……!」

「応援してるよ改ちゃん」

「頑張れ」

「困ったことがあったら聞いてくださいね~。……あれぇ? もうここに配属で決定……で良いんでしたっけ~? 嘉壱さん」

「俺は良いと思っているよ」

「じゃあ、お仲間ですね~? 改めまして、よろしくお願いします~」


 三人に囲まれ、改は頭を下げた。今日から新しい生活が始まる。不安は多大なものだが、期待も大きい。そんな現状に改は笑顔を浮かべていた。


 無事に見学も終わり、改はこれから住む部屋へと案内された。そこで自身のスマホを嘉壱に渡した。まだ務めている会社へ、穏便に辞めることができるようにするための情報集めのためだ。代わりにAngelies支給の新しいスマホを受け取り、部屋へと入る。中は至ってシンプルな一人暮らし用の部屋で、荷物の少ない改にとっては少し広く感じたものの、かといって気にするほどでもない様子だった。

 目まぐるしく過ぎた一日に、改はすぐにシャワーを浴びると、食事もとらずにベッドへと倒れ込んでいた。

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