第26話:モリビトノシゴト_コウ_3
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ――
ゲーム終了の合図が鳴る。
「――決まった! さすがに脳天かち割られて生きている人間はいない! このゲームの勝者は子だぁぁぁぁぁ!!」
「時間、ギリギリ」
「凄かったですねぇ~。これが連係プレイでしょうか~」
残り時間も一分を切ったところで、カウントダウンが中断した。デスゲームの結果が出たのだ。
「お、終わった……」
改は呟いた。と同時に、その場へ座り込む。
「終わったね。……腰が抜けてしまったかい?」
「……そう、かもしれません……」
苦笑いを浮かべて、手を伸ばした嘉壱の手を取った。
『ひっ、いひひ……いひっ……。あは、は……あはは、あはははははは!!』
イヤホンの向こうで、壊れたように笑い続けるCちゃんが痛ましい。大きな血だまりの中、Cちゃんはずっと涙を流しながら一人勝者としてこの場に立っていた。
「良い画を見せることができたね。それでは、エンディングに入りましょう!」
丙の言葉と共に、モニタの映像が切り替わった。それは今まで起こった出来事のダイジェストのようで、入場のシーンから見せ場になりそうな部分まで上手に切り取られている。その内容に合わせて、丙にもがな、りんごの三人が感想を述べていった。最後のシーン、Cちゃんが立ち尽くし高笑いを見せるシーンで、ダイジェストは終了した。
「――おっと、ここで想定外のお知らせかも。救護班がCちゃんの回収に向かったところ、なんとD君が虫の息ながら生きていることが判明しました! よって、今回はCちゃん単独ではなく、D君含む子たちの勝利! 見事CちゃんとD君が生き残りました!!」
「凄いです~! 珍しいですねぇ、あれだけやられて生きてるなんて~」
「残して死ねなかったんじゃない? 約束、あるし。……なんてね」
「いやいや、それはあったかもしれないよ? 生死と隣り合わせの状況で結んだ約束のために、D君も頑張ったんだろうね。これは最後も熱かった! 素晴らしい!!」
「バニィ、うるさい」
「うふふ。気持ちはわかります~」
――D君が、生きていた。顔を殴られ頭を強打し首を絞められて投げ捨てられ、頭を力の限り踏まれていたD君が。あれだけのことをされて、少しの時間とは言え放置されて、もう死んだと思っていたのに。
その事実は、改に大きな衝撃を与えた。
「今回の結果は、子二人の勝利で終了しました! 賞金は山分けで二人の元へと届きます。一応初見の人もいるかもしれないから言っておくけど、D君については怪我が酷いから、弊社で十分に治療をしてから社会復帰してもらうことになるよ。勝者を悪いようには扱わないから、その辺は安心してね」
そう言いながら、丙は改のことを見た。丙の言う【初見】には、観客だけでなく改のことも含まれているのだろう。
「……約束」
「あぁ、そうだったね。忘れている人もいるかな? CちゃんとD君からの約束。」
「忘れている人もいるかもしれないけど、Cちゃんには『ちゃんとロキアと別れること、そしてホストに貢がないこと』、D君には『ちゃんと奥さんにリストラされたことを報告すること。謝るときは黙っていたこともきちんと謝ること』をお伝えしたいと思います! 約束は守る運営でいたいからね。もしかしたら、また参加してくれるかもしれないし?」
「なんのこと? って思われるかもしれないですけどね~。でも、人名も出ていますし、聞かなきゃ知らないことでしょうから、きっとわかってくれます~」
「『ゲーム中に約束をした』ということも伝える。……きっと」
「その辺は二人の様子と理解度を見て、だね。……よし、そろそろお開きにしようか」
画面には、CちゃんとD君の顔が映り、その下には死んだA君Bちゃんに鬼の顔が、赤く大きなバツ印をつけられた状態で映されていた。
「……こんな顔、してたんだ」
「鬼は積極的に人を殺すだろう? だから配慮して顔を隠している、そういう話をしたね?」
「えぇ」
「子のほうはその配慮がない。……なんて、考えたかい?」
「い、いえ……。正直、今言われて初めて思いました。そういえば……って」
気まずそうに改は答えたが、嘉壱は気にせず話し続けた。
「実はね、このあとも少しだけ賭けの対象になるんだよ」
「……え? まだなにかあるんですか……?」
「そうだよ」
嘉壱は笑っている。それがどういう意味を持つ笑いなのか、改にはわからなかった。
「無事に生きていられたら、家に帰ることができるよね? 大金を持って、元の生活に戻ることができる。そうすると、人間どうなると思う?」
「え……そうですね……。お金もあるし、ゲームも無事終わったし、気持ちが大きくなる、とか?」
「それはあるよ。大いに。でもね、それだけじゃないんだ。改君なら、どうする? 『怪しい求人に惹かれて崖っぷちの自分がその先に向かったら、無事に帰宅した上に大金まで手に入れていた。記憶がないからなにが起こったかはわからないが、五体満足で普段通りの生活もできて、心の中に恐怖も不安も残っていない』状態だったら」
「……」
改は考えた。嘉壱の言いたいことはなんとなくわかる。ただ、自分でそれを選ぶかはわからない。おそらく、自分が気が付くことをわかっていて、敢えて質問をしているのだろう。
「……また、求人を探して、もし見つけたら参加するかもしれません。……少なくとも、求人は絶対に探す、と思います。だって、美味しい内容ですよね? 無事仕事をクリアできた実績として、自分自身がいるんですから……」
自分の中に浮かんだ答えを、嘉壱へとぶつけた。
「ブラボー! そうなるよね。怪しくも美味しい話に乗っかって、無事に帰ってこれたら。……ま、みんながみんなじゃないよ? そういう人間も中にはいるんだ。だから、そういう人間が『三か月以内にデスゲームへの参加を希望してくるかどうか』と『デスゲームへの参加を了承するか』を賭けるんだ。……面白いだろ? とことん遊んでるんだよ、金持ちは。安全な場所で。人間を玩具に」
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