第19話:モリビトノシゴト_チュウ_3


 「確かに改君、耐性はあるのかもしれないね。吐き出してもおかしくないよ、この映像見たら。現に何人か、護人として仕事をしている子でも、初めてゲームを見たときは気絶したり過呼吸起こしたり、嘔吐している子もいたから」

「そう、ですよね」

「こちらとしては即仕事を回せるからありがたい話だけど、無理はしてほしくないからね。無理なときは、最初はギブアップして良い。仕事をしていく中で、得意不得意が出てくるんだ、ゲームの」

「得意不得意、ですか……?」

「あぁ。例えば、ゲームによってはもっと過激な死に様が出てくることもある。焼死、水死、爆死、轢死。圧死、感電死、絞死、窒息死。改君だって、ゲームや漫画で見たことはあるだろう? 毒死や落死もあるかもしれない。見た目が明らかにヤバいやつもあれば、その過程が目を背けたくなるものもある。できなければ、選べば良い。オールマイティになんでも問題ない子もいれば、決まったルールのゲームばかりしている子もいるよ」

「……どちらのほうが、待遇が良いですか?」

「待遇? 給与面でのことかな?」

「はい……」

「なんでもできたほうが、給与は良くなるね。これは、昇格試験に有利だからだ。あとは、急なゲームや誰かが休んだときの穴埋めをしやすいから、ヘルプで入ってそのぶんお金を稼ぐことができるね。他部門へのヘルプも可能性が出てくるし、そうすると、色々道が開けるから、重宝もされる」

「なるほど……」

「ただ、集中型も悪いわけじゃなくて、エキスパートを目指せるからね」

「エキスパートなんてあるんですか……? この仕事に……?」

「精通するということは、司会も上手くなるし、ゲームの読みも上手くなる。そうすると、観客をより楽しませることができて、売り上げアップが見込めるんだ。それに、似た分類でも新たなゲームを考えたり、会場やアイテムの考案をしたりと、より深い部分に手を出すことができるんだ。――観客を飽きさせるわけにはいかないからね。大事なことだよ」

「それは、確かに……」

「ま、最初は無理しない。そこが肝心さ」

「わかりました、ありがとうございます」

「このあとで時間があったら、また色々話そうじゃないか。――さぁ、ゲームの時間も折り返した。鬼も子も、今まで以上に焦り始めると思うよ? 時間が無くなれば、問答無用でみんな死ぬ、だからね」

「はい!」


 優しく微笑む嘉壱に、改も笑みを向けた。


 鬼と子の位置を見る限り、まだそこまで近い距離ではない。だが、同じ方向に向かって歩き始めているため、このまま歩き続ければ、時間制限を迎える前に鉢合わせするだろう。


「……相変わらず、この二人は自分達の身の上話で盛り上がってるね」

「よほど気があったんでしょうか~」

「……オッサンへのダメ出し」

「それもあるが、話が変わったみたいだぞ」

『ねぇ、アタシ、絶対にロキア君のところに帰りたいの! だから、なんとかしてよ!』

『そのロキアってやつ、碌な男じゃないだろ! 現実を見なさい!』

『はぁぁ!? なんで家族に大事なこと黙ってるオッサンに、そんなこと言われなきゃいけないのよ!』

『君はまだ若いんだから、自分を大事にしなさい! 歳をとってから後悔するぞ!』

『アンタに説教されたくない!』

『ずっと一緒にいたならわかるだろう? その男は、きっと君以外にも同じことをしている! 悔しくないのか!』

『……』

「あー、この子、D君の台詞が図星だったみたいだね。歯食いしばって黙っちゃったよ」

「痛いところは、突かれたくないですからねぇ~」

「でも、この子、理解してる。それなら、大丈夫」

「リンリンは、彼女の気持ち、わかるのかい?」

「……彼女、わかってなかったら、黙らないと思う。それだけ」

「それもそうだな。……おっと、D君の言葉、Cちゃんに届いたみたいだな」

「うふふ~。ドラマみたいですねぇ~」


 デスゲームの展開としては、熱い出来事が起こっているのかもしれない。年齢も性別も異なる男女二人が、手を取り合おうとしている。


『……じゃあさ、鬼を殺してお金貰ったら、アタシ一からスタートするからさ。オッサンも、お金持って奥さんに黙ってたこと謝って、再スタート切りなさいよ』

『えっ。……妻……許してくれるかな……』

『良い!? リストラされたことを謝るのは当然だけど、黙ってたことのほうが派手に謝んなきゃだめよ!?』

『そ、そうなのか……?』

『そうなの! 仕事行ってるって嘘吐いてたんでしょ? 嘘吐いてたことのほうが、奥さんきっとよっぽど怒るわよ』

『わ、わかった……』

『約束!』

『は、はい』

『ゆーびきーりげーんまーん……』


 子の二人は約束を交わしている。――ゲームが終われば、記憶処理がなされてしまうのに――。


『……指きーった!』

『……なぁお嬢ちゃん』

『なによ』

『そういえば、なんだが……。ここでの記憶は、全部消されてしまうんじゃなかったか?』

『……忘れてた』


 男性はきちんと思い出したらしい。ゲームの前後の記憶は、お金があることの整合性を取るために残されている。が、最中の出来事は、情報漏洩防止のために記憶処理を施して消されることが決まっている。これは参加者本人にも事前に説明してあることだった。だから間の記憶がなくとも、『ゲームに参加して勝利したから、記憶を消されて今ここにいる』ということは、最低限わかるようになっている。

 人を殺したかどうかはわからない。なぜなら、一番最初にこの説明を受けたあと、承諾した場合のみ以降の説明があるからだ。その説明の中にデスゲームについての解説が含まれている。基本的に、承諾したあとのゲーム不参加は受け付けていない。嫌でも参加することになる。『ゲームに勝ったら記憶を消される』と説明すれば、大半の人間は訝しんで辞退するだろう。だが、ここに来る人間は、それよりもお金に目がいっていることが多い。――この、記憶を消されるという説明を受けたことは、ゲームに参加しない場合記憶処理がなされ消されることになっている。

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